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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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62話 みてる

足を出す。

着地する。


その二つの間に、わずかな空白がある。


さっきまでは違和感で済んでいた。

今は違う。

動作のたびに、その空白が確かに存在している。


私は次の足場へ飛ぶ。

重力を軽くし、前方へ滑る。

いつも通りの移動。


のはずだった。


着地の瞬間、身体が半拍だけ遅れた。

足は接地している。

だが、重心だけがその位置にいない。


即座に剣を横へ払う。

風を纏わせ、流れた身体を無理やり戻す。

崩れはしない。


だが、遅い。


修正はできる。

それでも、修正が必要な時点で異常だった。



「少し、鈍いのう」



コメントが流れる。



「今ちょっと遅れた?」


「ラグくね?」


「気のせいか?」



気のせいじゃない。


私は前を見る。

広い足場。

左奥に二体。

その上に一体。

魔力の質からして、さっきの雑魚より一段上。


鳥型。

翼の縁に刃。

嘴の先に圧縮風。


面倒だが、問題ではない。


一体目が急降下する。

私は地の魔力を足場へ通し、石床の一部をせり上げた。

進路が変わる。


そこへ剣を通す。


斬る。

落ちる。


二体目が横から来る。

私は左手を開く。



「重ねるのじゃ」



重力を二重にかける。

一体の身体が急に沈む。

翼が悲鳴を上げる。

そこへ水刃を重ねる。


裂ける。


最後の一体は上を取った。

私は追わない。


足元の重力を反転させ、自分だけを持ち上げる。

目線が並ぶ。

剣を振る。


落ちるのは向こうだ。


戦闘は終わる。

だが、終わった感触が薄い。

何かが一枚、ずれたまま残っている。


私は息を吐く。


問題ない。

まだ、対処できる範囲だ。



「どうした、眷属たち。余の美技に見惚れて言葉も出ぬか?」



コメントが跳ねる。



「いや普通にすごい」


「今の重力えぐい」


「でもなんか今日怖い」


「ルナリアちょっと変じゃない?」



最後の一文に視線が止まる。


変。

曖昧だが、正しい表現かもしれない。


私は次の足場へ移る。

狭い。

その先は広い。

さらに奥は見えにくい。


いつもなら、迷う前に身体が先に決める。

今回は違った。


前へ出すはずの足が、一瞬だけ止まる。

その間に、視界の端で黒いものが揺れる。


敵じゃない。

ノイズだ。


私は踏み出す。

着地。

今度は問題ない。


そのまま二歩。

三歩目で、急に景色が近づいた。


足場が寄ったんじゃない。

私の認識の距離が縮んだ。


危ない。


そう理解した瞬間には、もう魔物が目の前にいた。


近かったはずがない。

さっきまで、二つ先の足場にいた個体だ。


私は反射で剣を上げる。

嘴が火花を散らす。

重い。


遅れた。


いつもなら、受ける前に斬っている。

今は受けてから押し返している。


苛立ちが走る。

私は剣を流し、そのまま重力で相手の軸を崩した。

身体が沈む。

そこへ風を圧縮し、至近距離で叩きつける。


魔物が吹き飛ぶ。

だが、完全には崩れない。


追撃。

踏み込む。

その瞬間、右足の感覚だけが遅れた。


剣先が浅い。


致命傷にならない。


魔物の翼が振り抜かれる。

頬のすぐ横を風刃が掠めた。


冷たい線が走る。


被弾ではない。

それでも、避け損ねた。


ありえない。



「今の危なかった」


「避けるの遅くなかった?」


「一回帰った方がよくない?」



帰る。


その選択肢が、頭に浮かぶこと自体が気に入らない。


私は魔物の喉へ剣を突き立てる。

今度こそ仕留める。

倒れる。


静かになる。


頬に触れる。

薄く血がついていた。


浅い。

問題ない。


それなのに、その赤が妙に遠い。

自分の血を見ている感覚が薄い。


私は眉を寄せる。

左手を開く。

重力を足元へ落とし、身体の軸を確認する。


ずれている。


筋肉じゃない。

骨でもない。

もっと内側。


自分の認識と、身体の動きが完全には重なっていない。



「……思った通りに動かぬ」



小さく漏れた声は、配信用のものじゃなかった。



「今、素じゃなかった?」


「声違ったよな?」


「ルナリア?」



しまった、と思った時には遅い。


私はすぐに口元を整える。



「ふふ、案ずるな。少しばかり、機嫌が悪いだけじゃ」



いつもの調子。

いつもの声音。


それなのに、喉の奥にうまく馴染まない。

借り物の口調を無理に被せたみたいに、言葉だけが浮く。


遠くで、何かが笑った気がした。


音じゃない。

気配に近いもの。


私は視線を上げる。


足場のさらに奥。

薄く歪んだ空域の向こうに、何かがいる。


人の形じゃない。

魔物とも違う。

だが、そこに“意識”だけがある。


視線だけがある。


今度ははっきり感じる。


近い。

しかも、こちらを見ている。


私は無意識に剣を握り直した。



「……いるのう」



次の瞬間、画面全体にノイズが走る。

コメントが一拍止まる。

専用機材の軌道がわずかに乱れる。


そして、画面の端に一行だけ浮かんだ。



「みてる」



ログに残らない。

一瞬で消える。


だが、見間違いじゃない。


私は前を見たまま、息を殺す。


ここから先は、迷宮の深部じゃない。

もっと近い場所だ。


私の輪郭に触れてきた何かが、今度は明確に外から覗いている。


戻れるかどうかじゃない。

もう、戻り始めている。


その実感だけが、背骨に冷たく残った。

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