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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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61話 これ、私じゃない

ルナリア・ラビット



同時接続数、10万を超える。


配信開始直後にもかかわらず、数字はすでに跳ねていた。

コメントは滝のように流れ、画面の端が白く埋まる。


それでも空気は分かる。

期待と、確信。

この配信は外さないという前提。


専用機材が周囲を旋回する。

幻惑魔法が重なり、私の姿は“ルナリア・ラビット”として映し出される。

月の姫。

白い耳。

整えられた衣装。


私は足場の端で剣を軽く回した。



「ふふ、眷属たちよ。

 余の散歩に付き合うがよい」



コメントが弾ける。



「ルナリアきた!」


「帰還率1%にソロは頭おかしい」


「これが協会No.1」


「今日もビジュが強い」



視線を前に戻す。


空の迷宮上層。

足場は細く、間隔は広い。

風は弱い。

その代わり、空間の安定が薄い。


私は踏み出した。


落下。

直前で重力を反転させる。

身体が浮き、前方へ滑る。

風を重ねて軌道を整える。


着地と同時に右へ。


ワイバーンが二体。

後方に鳥型が三体。


一体目が突っ込む。

私は半歩だけ横へずれる。

そのまま剣を振る。


火が走る。


首元、鱗の隙間を正確に断つ。

ワイバーンがその場で崩れた。


二体目。

爪が来る。

私は沈まない。


足元の重力を軽くする。

身体を浮かせ、軌道をずらす。

背後へ回る。


剣を返す。


翼の付け根を断つ。

巨体が落ちる。


上空の三体が散開する。

包囲。


私は左手を開いた。



「逃がす理由がないのう」



水と風を圧縮する。

薄い氷片が広がる。


一体。

二体。

貫かれる。


残る一体は上を取ろうとする。


私は空中に重力の足場を作る。

踏む。

跳ねる。


上を取る。


振り下ろす。


斬撃が魔力ごと叩き割る。


音が消える。

余韻が残らない。



「つまらぬのう。

 もう少し遊ばせてもよいと思うが」



コメントが流れる。



「今のでつまらんは草」


「ルナリア格違い」


「別次元すぎる」


「凛とまた組んでくれ」



凛の名前に、わずかに笑う。


あの子なら、この環境でもすぐに順応する。

危なっかしいが、嫌いじゃない。


私は次の足場へ移る。


止まらない。

この高度では停滞が一番危険だ。


三つ目。

四つ目。


着地の瞬間、違和感が走る。


足は触れている。

だが、支えている感覚が一拍遅れる。


身体がわずかに流れた。


私は重力を下へ固定する。

踏み直す。

体勢は崩れない。


足場に異常はない。

ひびもない。

風も変わらない。


それでも、“接地だけが遅れる”。


私は周囲を見る。


距離がズレる。


近いはずが遠い。

遠いはずが近い。


そして一瞬だけ、影が遅れた。


遅れて、追いつく。


私は目を細める。



「退屈はせぬかもしれぬのう」



次の瞬間、違和感は消える。

元に戻る。


私は前へ進む。


着地。

次へ。


三歩目で、見覚えのある足場が現れる。


右端の欠け。

中央の亀裂。


同じだ。

戻されている。

進んでいるのに、位置だけが戻る。


コメントがざわつく。



「今同じ場所じゃない?」


「ルートおかしい」


「迷宮バグってる?」



私は止まらない。

止まる理由がない。


ただ一つ、感覚が変わる。

見られている。


空間の奥から。

私は視線を上げる。


何もいない。

空は広いまま。

浮遊島も変わらない。


それでも、“そこにある”。


音が一瞬消えた。

コメントも、風も。


すぐに戻る。

私は自分の手を見る。


白い指。

剣の感触。


問題はない。

それなのにほんの一瞬だけ、それが自分のものではないように見えた。


境界が曖昧になる。


外じゃない。

内側に触れてくる。

私は前を見る。


次の足場だけが、不自然に安定して見えた。



「……呼ぶな」



踏み出す。


着地の瞬間、また感覚が遅れる。

補正する。


だがその直後、指先がまた一瞬だけ他人のものに見えた。


喉の奥が冷える。

これは迷宮の異常じゃない。


もっと近い。

もっと深い。


私は小さく呟いた。



「……これ、私じゃない」

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