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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第3章 再現不能の領域

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50話 生き残れなければ、観測すらできない

協会から送られてきた資料は、想像していたよりずっと重かった。

量の話じゃない。

中身が重い。


空域迷宮スカイ・ラビリンス

攻略記録あり。

再現不能。

帰還率1パーセント。

失踪者複数。


画面をスクロールするたびに、成功例より失敗例の方が多く出てくる。

落下。

通信断絶。

位置情報消失。

そのどれもが、戦闘より前の段階で起きていた。


通知がまた震えた。

今度は協会ではない。

配信アプリだ。


ランキング更新。

配信者部門1位。


ひなたが真っ先に食いつく。



「え、ちょっと待ってください!

1位って書いてあるんですけど!?」



「本当だな」



俺がそう答えると、ひなたはソファから立ち上がった。



「いやいやいや、反応うすくないですか!?

もっとこう、やったーとかないんですか!?」



凛が資料から目を上げずに言う。



「結果が後から付いただけ。

今はそっちじゃない」



その通りだった。

ランキング1位そのものは大きい。

だが、空域迷宮の資料を見た後だと、ただの通過点にしか思えない。


ひなたはまだ納得していない顔だったが、すぐに端末を覗き込んで表情を強張らせた。



「うわ……」



「何かあったんですか?」



「コメントです。

おめでとうも多いんですけど、やめとけってのもめちゃくちゃ多いです」



画面には短い言葉が並んでいた。


行くな。

死ぬぞ。

1パーセントだぞ。

Observerでも無理だ。


浮かれていないのは視聴者も同じらしい。


俺は資料を次へ送る。

迷宮内部の推定図。

浮遊島の配置。

風向きの変化。

重力反転の報告。

どれも一定していない。


凛が低く言う。



「ルートが毎回違う。

だから前の攻略が役に立たない」



雪那が向かいの椅子で脚を組んだまま続ける。



「正確には、役に立つ時もある。

でも、信じた瞬間に死ぬ」



ひなたが肩を震わせる。



「さらっと怖いこと言わないでください……」



雪那は本気で不思議そうに首を傾げた。



「怖い?」



「怖いです!」



「落ちなければいいだけでしょう」



ひなたが言葉を失う。

凛も一瞬だけ黙った。


たしかに理屈としてはそうだ。

だが、落ちる条件が多すぎる。


足場が崩れる。

風で飛ばされる。

重力が反転する。

通路そのものが消える。


雪那は資料の一枚を指で押さえる。



「問題は戦闘じゃない。

立つ場所が消えること」



「だから、先に場所を作る」



ひなたが目を瞬かせる。



「作る?」



「氷で」



雪那の口調はいつも通り淡々としていた。



「崩れるなら凍らせる。

落ちるなら足場を増やす。

簡単」



ひなたが小さく後ずさる。



「簡単の基準がおかしいです……」



凛が短く息を吐く。



「できるのはあなたくらい。

それに、風と重力まで乱れたら氷だけじゃ足りない」



雪那は少しだけ考え込む。



「なら、足りるようにすればいい。

再現できないなら、毎回作り直せばいいだけ」



部屋の空気が一瞬だけ止まった。


言っていることは無茶だ。

だが、間違ってもいない。


俺は資料を見る。

過去の攻略者は、成功した形をなぞろうとして失敗している。

同じルートで全滅した記録すらある。


再現しようとするほど、迷宮に噛み合わない。

そう考えると、雪那の言葉は妙に腑に落ちた。


凛が雪那を見る。



「……普通は、それを簡単とは言わない」


「そう?」


「そう」



短い応酬だったが、ひなたが慌てて口を挟む。



「ちょ、ちょっと待ってください!

今の会話、私だけ置いてかれてません!?」



俺は資料を閉じる。



「いや、重要です。

前の攻略を信じすぎると死ぬ」


「だから毎回、今の状況で判断する必要がある」



ひなたは眉を寄せたまま頷く。



「つまり、いつも以上に悠斗さん頼りってことですか?」


「俺だけじゃ足りないです」



凛が敵を引きつける。

ひなたが落とされる前に数を削る。

雪那が足場と制圧を維持する。


その全部が揃わないと、解析する時間すら生まれない。


凛が資料端末を閉じた。



「役割は分かった。

でも、机の上で分かることには限界がある」



「結局、入ってみないと始まらない」



ひなたが小さく息を吐く。



「それはそうなんですけど……」


「ほんとに、死なないですよね?

……落ちたら、終わりなんですよね?」



誰もすぐには答えなかった。

保証できる人間がいないからだ。


その沈黙を、雪那が当然のように切る。



「死ぬ確率は高い。

でも、面白い」



ひなたが固まる。



「そこなんですか!?」



雪那は少しだけ目を細めた。



「理解されていない場所よ。

なら、見に行く価値がある」



凛が雪那を見て、わずかに眉をひそめる。

その視線には、警戒と、わずかな焦りが混ざっていた。



「……知ってる。

あの人が落ちる場所じゃない」



短い一言だったが、空気が変わる。


俺は立ち上がり、窓の外を見る。

夜の空の向こう。

まだ見えないはずなのに、あの裂け目の位置だけは意識できた。


ランキング1位。

協会依頼。

空域迷宮。

全部が一度に来た。


だが、やることは単純だ。

読む。

組み立てる。

外さない。

――あの一撃を、曖昧なまま終わらせない。


端末に最後のページを開く。

そこには、協会の解析班による短い一文だけが残っていた。


――帰還率1パーセントの主因は、攻略失敗ではない。

 侵入直後の環境適応失敗である。


俺はその文を見つめる。


つまり。

戦う前に、落ちる。


空域迷宮は最初の一歩から、こちらを殺しに来る。


ひなたが後ろから小さく言った。



「……やっぱり、やばいですね」



「そうですね」



俺は端末を閉じる。


空の迷宮は、俺たちを待っているわけじゃない。

ただ、そこにある。


だからこそ、先に合わせる必要がある。


俺は短く言った。



「――生き残れなければ、観測すらできない」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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