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「無能」と追放された俺、観察スキルで全て見抜いて無双したら元パーティが崩壊した  作者: ささかま
第3章 再現不能の領域

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42話 読ませない戦い方を見つけた

安全区画まで下がった瞬間、全身から力が抜けた。

流動迷宮の圧が、ようやく一段だけ遠のく。


だが、完全に切れたわけじゃない。

壁の向こうで、空間が軋む音がわずかに続いている。


ひなたがその場に座り込み、肩で息をした。



「……あれ、ほんとに勝てるんですか」



声が震えている。

無理もない。


あのボスは、今までとは明らかに違った。

雪那が神妙な面持ちで言う。



「この迷宮ボスはミメシス。

相手自身を劣化コピーするモンスターよ」


「全く劣化してませんでしたよ、あれ」


「ええ。

おそらくミメシスの上位個体、もしくは突然変異ね。相手を…しかも私たち全員を完全コピーしていたわ。

普通は1人を劣化コピーするだけなんだけど」


「あなた詳しいのね」


「通常のミメシスなら戦ったことあるもの。

危険度はAランク下位だけど、今回のあれはAランク上位くらいあるんじゃないかしら」



コメント欄も、いつもの軽さはなかった。



「初めて無理そう」


「観察殺しだろあれ」


「でも撤退判断は神」



古参が重ねる。



「黒崎が引いたなら理由ある」


「次は何かやる」



俺は壁にもたれ、呼吸を整える。

脇腹の傷は浅い。


だが頭の奥に残る熱が消えない。

情報を取り込みすぎた反動で、視界の輪郭が僅かに遅れていた。


見えていた。

読めていた。


それでも通じなかった。


凛が静かに言う。



「同じ動きは潰される。

観察した情報に合わせて動いてる」



簡潔で正しい。

だが、それだけじゃ足りない。


雪那が続ける。



「逆よ」



ひなたが顔を上げる。



「逆……?」



雪那は淡々と告げた。



「あなたが観測した情報を、相手が受け取っている。

見られるほど、不利になる。

観察した結果そのものが、相手への情報になる」



コメント欄が一気に流れる。



「それ反則では?」


「チート対策すぎる」



俺は目を閉じる。

見えているのに、負ける。


最適解を選んだ瞬間、それが潰される。

あの感覚は、そこにあった。


問題は観察じゃない。


その後に“見せている動き”だ。


俺は小さく呟く。



「……見せ方を変える」



ひなたが首を傾げる。



「見せ方?」



俺は頷く。



「見るのはやめられません。

でも、相手に見せる情報は変えられる」



凛が目を細める。



「最適解を、そのまま出さないってこと?」



「はい」



俺は続ける。



「正しい答えを最初から出すから、読まれる。

だったら、答えに行くまでの形を変える」



雪那が短く並べる。



「フェイント。誤情報?非最適行動」



どれも正しい。

だが、まだ仮説だ。


ひなたが恐る恐る聞く。



「じゃあ……わざと間違えるってことですか?」



俺は首を振る。



「違います。間違えるんじゃない。

選択肢を増やす。

一つだけを読ませない」



ひなたは少し考えてから、顔を上げた。



「読まれても、次があるようにする……?」


「そうです」



コメント欄に考察が混ざる。



「動き散らすのか」


「観察逆利用してる?」



その中に、一つだけ流れの違うものが混ざった。



「……情報操作か」



すぐに流れて消える。

だが、その言葉は核心に近い。


考えるだけじゃ足りない。

俺は立ち上がる。


安全区画の手前に残っていた小型の感知罠へ向かい、足を止めた。

本来なら最短で抜ける位置。


だが、今回は違う。


一歩、わざと遅らせる。

肩を揺らし、視線だけを右へ置く。


罠が起動する。

遅れて矢が飛ぶ。


俺はその瞬間、逆側へ流れた。


“読ませた位置”を外す。


ひなたが目を見開く。



「今の、いつもと違いました」



凛が静かに言う。



「無駄があった。

でも通した」



俺は罠の軌道を見たまま答える。



「最適じゃないです。でも、読まれにくい」



雪那がわずかに目を細める。



「……観察結果を隠している。

面白い発想ね」



まだ評価じゃない。

だが否定でもない。


手応えはあった。


それでも――足りない。


一つ動きを増やしただけでは、あのボスは止まらない。

すぐに適応される。


遠くで、空間が歪む音がした。


あのボスは、まだそこにいる。


待っているわけでもない。

ただ存在しているだけで、こちらの動きを読み取ってくる。


コメント欄が再び速くなる。



「動き変わった?」


「わざと外してる?」


「次いけるかも」



俺は短剣を握り直す。


恐怖は消えていない。

だが、それ以上に整理が進んでいた。


観測されるなら、観測させる内容を絞る。

すべてを見せる必要はない。


見せる前提で、その先を仕込めばいい。


同じ答えでも、同じ形で出さない。


俺は通路の奥を見る。


まだ再戦はしない。

だが、次は違う。


前と同じ戦いにはならない。


俺は小さく息を吐いた。



「今度は――読ませない」

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