30話 追放した俺たち、配信で完全にハズレ扱いされる
配信を始めた瞬間から、空気は悪かった。
数字が伸びない。
同時視聴者数は72。
桐崎隼人は画面を見て、わずかに眉をひそめた。
前なら、開始直後でももう少し集まっていた。
だが今日は違う。
コメント欄も静かだ。
流れが遅い。
隼人は作った笑みを浮かべる。
「今日は第3層を攻略していく。ついてこい」
コメントが数件流れる。
「こんばんは」
「最近きつそう?」
その一言に、隼人のこめかみがわずかに動いた。
だが、何も返さない。
相沢美咲は隣でスマホ画面を確認していた。
嫌な予感が、ずっと消えない。
藤堂玲奈はいつも以上に表情が硬い。
昨日の配信を見てから、明らかに空気が変わっていた。
隼人が先頭で進む。
だが、その動きには以前の余裕がない。
通路の角でコボルトが飛び出す。
隼人が斬る。
浅い。
一撃で落ちない。
美咲の炎が飛ぶ。
だが、タイミングが遅い。
玲奈の回復が入る前に、もう1体が横から出た。
被弾。
コメント欄が少し速くなる。
「危なくね?」
「前より雑じゃない?」
隼人が舌打ちする。
「黙って見てろ」
その言葉が、そのまま配信に乗る。
コメント欄が一瞬止まった。
次の瞬間、別の流れが入り込む。
新規視聴者だ。
同時視聴者数が少しずつ増える。
72。
91。
108。
だが、いつもの伸び方ではない。
空気が違う。
コメント欄の質も変わっていた。
「このパーティ」
「どっかで見たような」
美咲の指が止まる。
玲奈も画面を見る。
隼人だけは前を向いたまま言う。
「どうでもいい」
だが、どうでもよくはなかった。
次のコメントで、流れが決定的に変わる。
「あ」
「この人たち、あの新人追放したパーティじゃね?」
玲奈の肩が揺れた。
美咲の目が細くなる。
隼人は聞こえないふりをする。
そのまま前へ進む。
だが、もう遅い。
コメントが一気に増え始める。
「マジ?」
「観察スキルの人の元パーティ?」
同時視聴者数がまた動く。
増えている。
だが理由は明確だった。
興味本位。
好意ではない。
確認しに来ている。
美咲はそれを理解していた。
だからこそ、表情が曇る。
コメント欄がさらに荒れる。
「なんで追放したの?」
「見る目なさすぎでは?」
隼人が振り返る。
表情がはっきりと歪んでいた。
「うるせえな」
その一言が、完全に火をつけた。
コメント欄が跳ねる。
「逆ギレ?」
「図星っぽい」
玲奈が小さく言う。
「隼人……」
だが、止まらない。
隼人の意識は完全に画面へ向いていた。
その隙に、前方のモンスターへの反応が遅れる。
オークが飛び出す。
美咲の炎がずれる。
隼人の斬撃も噛み合わない。
玲奈の回復が後手に回る。
被弾。
コメント欄がさらに荒れた。
「弱くね?」
「前より明らかに遅い」
誰も名前を出さない。
だが、比較対象は明確だった。
昨日の配信。
最速攻略。
ノーダメ。
そのすべてが、この場に影を落としている。
美咲が歯を食いしばる。
最悪の流れだ。
戦闘が崩れている上に、コメントまで敵になっている。
コメントが流れる。
「追放した側がこれ?」
「見る目なさすぎて草」
玲奈の顔が曇る。
もう笑えない。
隼人がオークを倒し切った頃には、
呼吸が荒くなっていた。
その姿が、そのまま配信に映る。
美咲は理解していた。
これはもう誤魔化せない。
同時視聴者数は増えている。
だが、その中身が問題だった。
野次馬。
検証。
比較。
空気は完全に、別の場所にある。
コメント欄が流れる。
「観察の人いた方が強かったんじゃね?」
「戦犯そっちでは?」
玲奈が耐えきれずに言った。
「……やめて」
小さな声だった。
だが、マイクには乗った。
コメントが一瞬止まる。
次の瞬間、流れが変わる。
「玲奈はまともそう」
「他2人やばい」
美咲が目を閉じる。
最悪だ。
内部評価まで始まっている。
この段階に入れば、もう戻らない。
隼人はまだ認めない。
コメント欄を睨みながら言い放つ。
「配信で見た程度で偉そうに語るな。
あいつは弱かった」
その言葉が、さらに火を注ぐ。
コメント欄が爆発する。
「まだ言うの?」
「じゃあ何で今こんな伸びてんの?」
美咲が低く言う。
「隼人、やめて」
隼人が睨み返す。
「黙ってろ」
玲奈が俯く。
美咲の表情も冷え切っていた。
戦闘どころではない。
チームの空気が崩壊している。
その状態で、前方からまた気配が来る。
コボルト3体。
本来なら問題ない相手。
だが、今は違う。
隼人の初動が遅れる。
美咲の炎が進路を塞ぐ。
玲奈の回復判断もぶれる。
すべてが噛み合わない。
コメント欄が容赦なく流れる。
「ひどい」
「完全に崩壊してる」
美咲は画面を見る。
終わったと理解した。
少なくとも、この配信は立て直せない。
玲奈も同じ顔をしている。
隼人だけが、まだ認めていない。
それが一番痛かった。
コメント欄の最後列に、決定的な一文が流れる。
「元パーティの方がハズレだったんだな」
空気が完全に止まる。
隼人の顔が歪む。
だが、反論は出ない。
美咲も玲奈も、何も言えない。
否定できる材料がなかった。
隼人がスマホを強く握る。
「……切る」
配信終了。
画面が暗くなる。
静寂が戻る。
だが、それは以前のものではない。
何かが壊れた後の静けさだった。
美咲はゆっくり息を吐く。
玲奈は俯いたまま動かない。
隼人だけが前を向いている。
だが、その背中には余裕がなかった。
人気も。
評価も。
空気も。
すべてが逆転し始めている。
それを、誰よりも隼人自身が理解していたはずだった。
それでも、まだ認めない。
だからこそ、崩壊は止まらない。
通路の奥で、敵の足音が響く。
誰もすぐには動かなかった。
三人は立ち尽くしたまま、
ただ、その音を聞いていた。
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