29話 追放した俺たち、もうパーティが噛み合わなくなっていた
配信を閉じた後も、空気は戻らなかった。
ダンジョンの通路は静かなのに、彼らの間だけが妙に重い。
桐崎隼人は何も言わずに前を向く。
だが、歩き出すまでの間が長かった。
相沢美咲も藤堂玲奈も、さっきまでより明らかに口数が少ない。
誰も、あの配信の話をしたくない顔だった。
それでも、見てしまったものは消えない。
頭から離れない。
半歩で避ける動き。
罠を見抜く目。
迷いのない進行。
どれも、今の自分たちにはないものだった。
「……行くぞ」
隼人が短く言う。
誰も返事をしない。
だが、全員が従う。
進むしかない。
この空気の中でも、立ち止まることはできなかった。
通路を曲がる。
すぐ先でコボルトが2体、こちらに気づいた。
以前なら、こんな相手で足は止まらなかった。
だが今は違う。
隼人が踏み込む。
斬る。
浅い。
1体目を仕留めきれない。
その瞬間、横からもう1体が飛び込む。
玲奈が息を呑んだ。
「危なっ……!」
美咲の炎が飛ぶ。
だが、タイミングが遅い。
コボルトは避ける。
隼人の腕を浅く裂いた。
わずかな傷だ。
それでも、空気がさらに悪くなる。
以前なら、誰かがすぐ修正していた。
こんなズレは起きなかった。
「ちゃんと合わせてよ」
美咲が苛立った声を出す。
隼人が振り返る。
「合わせてねえのはそっちだろ」
玲奈が慌てて回復を飛ばす。
傷はすぐ塞がる。
だが、問題はそこではなかった。
噛み合っていない。
それが何より致命的だった。
美咲が小さく舌打ちする。
「最近ずっとこれじゃない」
隼人が強く言い返す。
「うるせえな。
敵が増えてるだけだろ」
その言葉は、場をさらに冷やした。
原因を外に求める言い方。
だが、今の彼らにはそれが通らない。
玲奈が少し迷ってから口を開く。
「でも……前は、もっと早く進めてたよね」
隼人の目が鋭くなる。
「言いたいことがあるなら言えよ」
玲奈は肩を震わせる。
それでも、小さな声で続けた。
「今の配信……
あれ、普通じゃなかった」
沈黙が落ちる。
誰もすぐには動かない。
触れてはいけない核心に、触れてしまった空気だった。
美咲が低く言う。
「……私もそう思う」
隼人が睨む。
「お前までか」
美咲は視線を逸らさない。
「だって見たでしょ。
明らかに速かった」
隼人は鼻で笑う。
「配信用に上振れただけだ」
その言葉に、美咲の表情が固まる。
「罠の見抜き方もおかしかった」
「戦闘だけじゃない」
玲奈が頷く。
「ノーダメだった」
「ずっと」
隼人の表情が歪む。
明らかに機嫌が悪くなる。
だが、否定の勢いは弱かった。
言葉に詰まっているのが見えた。
彼らは再び歩き出す。
空気の悪さを抱えたまま。
その先で、分岐に出た。
左右、どちらも似た通路だ。
以前なら、迷うことはなかった。
今は違う。
三人とも止まる。
誰も決めない。
隼人が苛立った声を出す。
「左でいいだろ」
美咲が問う。
「なんで?」
「勘だ」
その一言で、美咲の表情が冷える。
玲奈も不安そうに左右を見る。
判断材料がない。
それでも決めなければ進めない。
隼人は歩き出した。
「行くぞ」
結局、全員が続く。
止めることはできなかった。
数分後。
結果は最悪だった。
左ルートは罠が多く、遠回りだった。
床が抜ける。
美咲が落ちかける。
玲奈が叫ぶ。
隼人が腕を掴む。
舌打ち。
乱れた足並み。
そこへモンスターまで寄ってくる。
完全に崩れた流れだった。
ようやく態勢を立て直した頃には、
全員の顔に疲労が浮かんでいた。
時間も、ポーションも、集中も削られている。
美咲が息を荒くしながら言う。
「……前なら」
「こんなルート、選ばなかった」
隼人がすぐに返す。
「だからなんだよ」
美咲は引かない。
「だから、あいつが見てたんじゃないのって言ってるの」
隼人の顔が歪む。
玲奈が不安そうに二人を見る。
誰も、否定できない。
足りないのは火力でも回復でもない。
“見えていなかった部分”だ。
罠。
敵の動き。
進むべき道。
そこを、あの男が埋めていた。
玲奈が小さく呟く。
「……私たち」
「勘違いしてたのかな」
沈黙が落ちる。
隼人だけが視線を逸らした。
否定できない。
それ自体が答えだった。
通路の奥で、また敵の気配が動く。
以前なら問題なかった相手。
それが今は重い。
美咲がスマホを見る。
画面は暗いままだ。
それでも、あの配信が頭から離れていない。
「……もう一回、見る?」
隼人が即座に言う。
「見る必要ない」
だが、その声に強さはなかった。
玲奈が俯いたまま言う。
「でも、比べた方がいいかも」
隼人は何も言わない。
拳だけが強く握られていた。
プライドが邪魔をしている。
分かりやすいほどに。
それでも、現実は変わらない。
配信の向こうの存在は、すでに先へ進んでいる。
自分たちは、




