↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
135/163

135話 崩壊への序章

ひなたの足元が沈んだ。


罠だと気づいた時には、床が斜めに割れていた。

踏み込んだ大鎌の柄がわずかに遅れ、ひなたの体が前へ流れる。


俺は床を蹴った。


雪那の氷も同時に伸びる。

だが、白石は動かなかった。


黒雷をまとったまま、敵の中枢へ向かっている。

ひなたの位置も、罠も、こちらの動きも見えているはずだった。


それでも白石は、振り返らない。

敵の核を切る方が速い。

ただ、それだけを選んでいる。


俺はひなたの腕を掴んだ。

雪那の氷が足場を作る。


間に合った。

けれど、完全ではなかった。


ひなたの右足が崩れた床の縁に打ちつけられる。

さらに、罠の奥から伸びた魔物の爪が肩をかすめた。


鈍い音と、布が裂ける音。

ひなたが息を詰める。



「っ……!」



俺はひなたを引き戻し、通路の壁際へ滑り込む。


その直後、白石の黒雷が敵の核を貫いた。


魔物が光になって崩れる。


戦闘は終わった。


速い。

完璧だ。

攻略速度だけなら、文句のつけようがない。


だが、ひなたは足と肩を押さえていた。


肩口から血が滲んでいる。

足もすぐには踏み込めない。


戦闘継続は難しい。



「ひなた、動けるか」



「すみません……足、ちょっと無理かもです。肩は、浅いです」



ひなたは笑おうとした。

けれど、顔が引きつっていた。

コメント欄が一気に荒れる。



「今の見えてたよな?」


「凛さん助けなかった?」


「ひなた怪我してる!」


「いや敵倒したから正解?」


「配信止めろ」


「怖い怖い怖い」



白石は、ようやくこちらを見た。

その目に焦りはない。

心配もない。


ただ、結果を確認する目だった。



「損傷は軽度。戦闘継続は不可。後方待機が妥当」



雪那の周囲で、冷気が膨れた。



「人を数字みたいに言わないで」



白石は雪那を見る。



「違う?」



その一言で、雪那の表情が固まった。


怒りが消えたわけじゃない。

むしろ、強くなった。


けれど、白石には通じていない。


人を傷つけた自覚がない。

ただ、正しい分類をしただけだと思っている。


俺はひなたを壁際へ座らせ、立ち上がる。



「白石。なぜ助けなかった」



白石は迷わず答えた。



「優先順位。救助より中枢破壊の方が攻略成功率が高かった」



「ひなたが怪我をした」



「致命傷ではない」



胸の奥が冷えた。

怒りより先に、嫌な確信が落ちる。

今の白石は、ひなたを見捨てたつもりがない。


見捨てたのではなく、選んだ。

そして、その選択を正しいと判断している。

ルナリアが一歩前に出る。



「凛ちゃん、それかなりまずいよ」



白石は首を傾げた。



「結果は出ている」



美咲が小さく呟いた。



「違う……これは違う」



声が震えていた。


ずっと結果を見てきた美咲が、初めて結果を否定している。


玲奈は桐崎の時と同じ顔で白石を見ていた。



「隼人と同じ……止まれなくなってる」



その言葉にも、白石は反応しない。


次の敵が出る。


通路奥のゲートが開き、大型が1体、さらに中型が複数。

遠距離型も混じっている。


雪那が氷壁を張る。

俺はひなたの前に立つ。

白石は前へ出た。



「最短で処理する」



黒雷が走る。


一体目が消える。

二体目の腕が落ちる。

三体目の核が貫かれる。


速すぎる。


敵の攻撃が白石へ届く前に、白石が次の敵へ移っている。


だが、その雷は広がりすぎていた。


黒雷が壁を削り、床を焦がし、俺たちの足元まで走る。


雪那が氷を重ねた。



「下がって!」



氷壁が黒雷を受け止める。


一枚。

二枚。

三枚。


すぐに砕ける。

雪那の呼吸が乱れた。

額に汗が浮かぶ。


それでも、ひなたの前に氷を張り続ける。


白石は気づいている。

気づいているはずだ。

けれど、止まらない。


黒雷がさらに膨らむ。


敵を斬るたび、コメントが流れる。

歓声。

悲鳴。

賞賛。

批判。


視線が増える。


黒雷が濃くなる。



「強すぎる」


「止めろ」


「でもこれ勝てるだろ」


「ひなた怪我してるぞ」


「凛さん怖い」


「雷の王女やばい」


「放送事故だろ」


「協会なにしてる」



観測が割れている。

それでも全部が白石へ向いている。


白石はその中心で、さらに速くなる。

俺は観察する。

白石の判断構造は、もう変質していた。


攻略成功率。

処理速度。

損耗率。

危険度。

最短経路。


そこまでは見える。


だが、人間関係がない。


仲間。

恐怖。

痛み。

迷い。


そういうものが、判断の表から削られている。


俺は短剣を握り直した。

もう、止めるしかない。


白石が大型の核を貫く。

その余波で黒雷が横へ弾けた。


雪那が氷壁を展開する。

今度は間に合わない。


俺は踏み込んで、ひなたと雪那の前へ出た。

短剣では雷を止められない。

それでも体が動いた。


黒雷が迫る。

その直前、雪那が最後の氷壁を張った。

轟音。


氷が砕け、冷気が弾ける。

雪那が膝をついた。



「雪那!」



雪那は片膝をついたまま、息を荒げている。


魔力切れに近い。


それでも、目だけは白石から離していなかった。



「……あれは、もう防ぎきれないわ」



白石は敵をすべて倒していた。


広間に残っている魔物はいない。


だが、誰も安堵しない。


白石は黒雷をまとったまま、こちらを見る。


ひなたは負傷。

雪那は限界。

玲奈は震え、美咲は呆然としている。


それでも白石は、静かに言った。



「進行可能」



俺は白石へ向かって歩き出した。



「もうやめろ」



白石の目が俺を捉える。


感情の薄い目だった。

敵を見る目ではない。

障害物を見る目だった。



「邪魔しないで」



その言葉で、通路の空気が完全に凍った。


ひなたが息を呑む。

雪那が立ち上がろうとして、膝をつく。

美咲が小さく首を振る。


コメント欄はもう地獄だった。



「誰か止めろ」


「配信止めろ」


「凛さんどうした」


「黒崎逃げろ」


「Sランク呼べ」


「これ事故だろ」


「黒崎まで巻き込まれるぞ」


「もう笑えない」



黒雷が白石の周囲へ広がっていく。


床が焦げる。

壁が軋む。

空気が震える。


近づけない。


俺は足を止めなかった。


だが、踏み出した瞬間、黒雷が足元を裂いた。


避けられる位置だった。

けれど、わずかに深い。


威嚇ではない。


白石は、俺が避ける前提で最短の線を通した。


味方を避けたのではない。

当たらないと判断しただけだ。


一歩遅れれば直撃していた。


白石はそれを見ても、表情を変えない。



「非効率」



その声は、あまりにも静かだった。


ルナリアが俺の横へ出た。


今までも近くにはいた。

ずっと見ていた。

けれど、配信の上では静観しているように振る舞っていた。


仲間内だけに届くよう、幻惑魔法で声を薄く切り分けていたからだ。


だが、この瞬間だけは違った。


ルナリアの赤紫の瞳が、俺ではなく白石を捉える。

配信用の姿も、月の姫としての幻惑も消えていない。


それでも、声だけがはっきりと配信に乗った。



「悠斗君、下がって」



コメント欄が一瞬止まった。

次の瞬間、爆発する。



「え?」


「ルナリア喋った?」


「悠斗君!?」


「今まで聞こえてなかったのに」


「ルナリアが止めた」


「そんなにヤバいの?」



白石の黒雷がまた弾ける。

ルナリアは一歩前へ出た。



「凛ちゃん、それ以上はだめじゃん」



いつものからかうような響きはない。


ルナリア・ラビットの声だ。

けれど、初めて本気でまずいと判断した声だった。


眷属たちのコメントも止まらない。

画面の向こうで、無数の視線がこの場に集まっている。


ルナリアは小さく息を吐いた。



「もう見てられないよ」



その一言で、空気が変わった。

最強V探索者ルナリア・ラビットが、白石凛の前に立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。