↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/163

134話 冷たい選択

対抗戦は、まだ終わっていなかった。


桐崎隼人は医療班に引き渡された。

玲奈はその場に残りたがったが、企業側スタッフに促され、震える手で杖を握り直している。

美咲も顔色が悪いまま、端末の画面を見ていた。


数字だけは伸びている。

同接はさらに増え、コメント欄は白石の黒雷の話題で埋まっていた。



「雷の王女」


「凛さん強すぎ」


「黒雷かっこいい」


「怖いけど見たい」


「これ歴代最高回じゃね?」



その言葉が流れるたび、白石の左腕に残る黒雷がわずかに濃くなるように見えた。

白石はコメントを見ていない。

けれど、視線は確かに集まっている。


強い。

完璧。

最速。

雷の王女。


そんな認識が、画面の向こうから白石へ降り積もっていく。

俺はそれを見て、胸の奥が冷えるのを感じた。


偶然ではない。

少なくとも、そう思えるだけの異常がもう起きている。

ルナリアも同じものを見ていた。



「かなり近いね」



「何にだ」



「戻れなくなる場所」



軽い言い方だった。

だが、声は低かった。


広間の奥で、新しいゲートが開く。

対抗戦の最終区画へ続く通路だ。


本来なら、ここで体勢を整える。

負傷者の確認。

魔力残量の共有。

次のルート選択。


しかし白石は、もう歩き出していた。



「待って、凛さん」



美咲が声をかける。

白石は振り返る。



「何」



「玲奈、まだ落ち着いてない。桐崎のこともあるし、一回止まった方がいい」



玲奈は何も言えなかった。


ただ、桐崎が運ばれていった通路を見ている。

顔は青い。

呼吸も浅い。


普通なら、ここで休ませる。

だが、白石は玲奈を一度見ただけだった。



「下がって」



短い言葉だった。

玲奈の肩が震える。



「え……?」



「ここから先は足手まといになる」



広間の空気が止まった。

美咲の表情が強張る。



「ちょっと、言い方あるでしょ」



白石は首を傾げる。



「事実。戦力低下はリスク」



悪意はなかった。

怒っているわけでもない。

見下しているわけでもない。


ただ、そう判断しただけの声だった。

だから余計にきつい。


コメント欄にも、温度差が出始めた。



「正論だけど怖い」


「凛さんどうした?」


「いや勝つなら当然」


「玲奈かわいそう」


「合理的ではある」


「前こんな感じだった?」



賞賛と不安が混ざっている。


それでも同接は落ちない。

むしろ、さらに伸びている。


白石の黒雷が細く弾けた。

まるで、その視線に応えるように。

ひなたが小さく呟く。



「凛さんじゃないみたいです」



雪那は氷を消さない。



「変化が早すぎるわ」



俺は白石を見る。

観察する。


白石の視線は、もう人の表情を追っていない。

味方の位置。

敵の出現予測。

魔力消費。

損耗率。

進行速度。


それだけが並んでいる。

優先順位の中に、感情がない。


玲奈が怖がっている。

美咲が戸惑っている。

ひなたが不安そうにしている。


そういう情報は拾っているはずだ。

だが、判断材料として扱っていない。


何かが削れている。

俺はそう確信した。


次の区画へ入った瞬間、魔物が湧いた。


大型1体。

中型3体。

右奥に遠距離型。


白石が即座に動く。



「美咲さん、右奥。玲奈さんは後退。黒崎さん側は左を処理。私は中枢を叩く」



指示は正しい。

全員が動けば、最短で終わる。


だが玲奈の反応が遅れた。

桐崎のことが頭から離れていないのだろう。

一拍遅れて、足が止まる。


中型の一体が玲奈へ向かう。

美咲が叫んだ。



「玲奈!」



白石は振り返らない。


黒雷をまとい、中央の大型へ一直線に進む。

俺は玲奈の方へ走った。

ひなたも大鎌を振り、魔物の進路をずらす。


雪那の氷が床を走り、中型の足を止めた。

その間に、白石は大型の核を貫いていた。


戦闘は速い。

圧倒的に速い。


だが、その速さの裏で、玲奈は膝をついていた。

怪我はない。

けれど、顔は完全に強張っている。


白石は大型を倒した後、ようやくこちらを見た。



「結果的に損傷なし」



美咲が唇を噛む。



「結果的に、でしょ」



「問題ない」



「問題あるよ!」



美咲の声が初めて荒くなった。

白石は表情を変えない。



「攻略速度は維持できている」



その一言で、美咲は何も言えなくなった。

反論したい。

でも結果は出ている。


敵は倒されている。

時間も短縮されている。

配信の数字も伸びている。


全部、白石の判断が正しかったと示している。


それが怖かった。

正しいから、誰も止められない。

玲奈は小さく震えながら呟く。



「隼人と……同じ」



白石はそれを聞いていない。

いや、聞こえていても、意味を拾っていないのかもしれない。


次の敵が現れる。

今度は通路の左右から同時だった。


ひなたが前に出る。

大鎌で左側を受け、俺が右を処理する。

その瞬間、足元の床が沈んだ。


罠だ。


ひなたの体勢が崩れる。

俺は踏み込もうとした。

だが、白石の声がそれより先に落ちた。



「その位置は不要」



時間が止まったように感じた。

ひなたの目が見開かれる。


白石は黒雷をまとったまま、敵の中枢へ視線を向けている。

ひなたを見ていないわけではない。


見た上で、判断した。

助けるよりも、敵の核を切る方が速い。

ひなたの救助は、攻略に必要ない。


そう判断した。

黒雷が走る。

白石の口から、淡々とした声が落ちた。



「切り捨てた方が効率がいい」



広間でも通路でもない。

そこにいる全員の間に、冷たい沈黙が落ちた。


ひなたは動けない。

雪那の氷が鋭く伸びる。

俺は床を蹴った。


白石を見る。

左腕の黒雷が、今までより濃く脈打っていた。

ルナリアが小さく呟く。



「始まったね」



その声には、もう冗談の響きがなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。