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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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133話 未完成の雷

黒い雷は、まだ白石の左腕に残っていた。


細い筋のように皮膚の上を走り、時折、指先で弾ける。

音は小さい。

けれど、そのたびに広間の空気がわずかに沈む。


桐崎は壁際で倒れたまま動かない。

医療班の要請通知が配信画面の端に流れている。

玲奈は桐崎へ駆け寄り、美咲も遅れてその場に膝をついた。


だが、視聴者の視線はもう別の場所に集まっていた。


白石凛。


黒雷をまとった雷使い。


コメント欄は止まらない。



「黒雷やば」


「凛さん覚醒?」


「桐崎吹き飛ばしたぞ」


「かっけえ」


「でも表情怖くない?」


「これ制御できてるの?」



白石はコメントを見ていない。


左腕を見ていた。

自分のものなのに、知らない道具を確かめるような目だった。



「……まだ、残ってる」



その声には、わずかに戸惑いがあった。


ひなたが一歩近づきかける。



「凛さん、大丈夫ですか」



白石の返事は少し遅れた。


ほんの一拍。


その間、白石の視線はひなたを見ていなかった。

ひなたの立ち位置、大鎌の向き、足の開き方。

さらに奥にいる雪那の氷、ルナリアの位置、俺との距離。


全部を順番に拾っていた。



「問題ない」



いつもの答えだった。

だが、その声はさっきより平坦だった。


問題ない。

そう言った本人の左腕で、黒雷がまた小さく弾ける。


ルナリアが低く言う。



「問題ありありじゃん」



白石はルナリアを見る。



「何が」



「今の返し方。あと、その腕」



ルナリアの軽さは戻っている。

けれど、目だけは笑っていなかった。


その時、広間の奥で魔物の気配が膨れ上がった。


対抗戦エリアの追加湧き。

本来なら、両パーティーが体勢を立て直した後に処理する規模の群れだった。


大型が2体。

中型が4体。

さらに遠距離型が奥にいる。


雪那が即座に氷を展開する。



「来るわ」



ひなたが大鎌を構える。



「黒崎さん、どうしますか」



俺が答えるより早く、白石が前へ出た。


細剣を抜く。

その動きに迷いはなかった。

俺は反射的に声を出す。



「白石、待て」



白石は振り返らない。



「最短で処理する」



その瞬間、黒雷が床を走った。

白い雷とは違う。


速いだけじゃない。

空気そのものが薄く削られるような感覚があった。


白石の姿が消える。


次に見えた時には、最前列の中型魔物の背後にいた。


細剣が振られる。

斬撃は一度だけ。

魔物の核が切断され、光になって崩れる。


白石はその光を見なかった。


崩れた敵に意識を置かない。

倒したことへの確認もない。

次の危険だけを見ている。


黒雷が跳ねる。


白石の身体が横へ流れ、中型の喉元を抜く。

反撃が来る前に、もう次の敵の死角へ入っている。


無駄がない。


速すぎるのではない。

迷いがない。


敵を見る。

距離を測る。

動く。

斬る。


その間に、感情が挟まらない。


コメント欄が爆発する。



「速すぎ」


「何今の」


「見えなかった」


「凛さん強すぎる」


「人間やめてる」


「表情が動いてないの怖い」



同接の数字が跳ねる。


その瞬間、白石の左腕の黒雷が、わずかに濃くなったように見えた。


歓声。

期待。

恐怖。


全部が画面越しに白石へ向けられている。

その視線を受けるたび、黒雷の輪郭が少しずつ鮮明になっていく。


俺は息を呑んだ。

偶然かもしれない。


だが、この迷宮に入ってから、偶然で片づけられることは減っている。


大型魔物が腕を振り上げる。

白石は避けない。


黒雷が左腕から細剣へ流れ、刃の周囲で一瞬だけ沈む。

次の瞬間、大型の腕が根元から落ちた。


血ではなく魔力の光が散る。

白石はその光を見ない。

もう次の敵を見ている。


美咲が呆然と呟いた。



「なに、これ……」



今までなら、美咲は結果を見て笑ったはずだ。

強い。

速い。

数字が伸びる。


そう言って、納得できたはずだ。

だが今は違った。


勝っている。

圧倒している。

それなのに、美咲の顔から血の気が引いている。



「勝ってるのに……怖い」



玲奈は桐崎のそばで震えていた。

桐崎を怖がっていた顔のまま、今度は白石を見ている。



「凛さんも……」



言葉は最後まで続かなかった。

俺は白石を見る。

観察する。


魔力の流れは追える。

雷の出力も、移動の軌跡も、ある程度は読める。

だが、判断の起点が見えない。


判断が速いんじゃない。

白石はもう、判断していない。

最適解だけが、最初からそこにある。


敵の位置。

味方の位置。

危険度。

勝率。

最短経路。


全部が、感情より先に並んでいる。


俺は奥歯を噛む。

これは、白石の判断力が上がっただけじゃない。


判断する前に、選ばされている。

ルナリアが小さく呟いた。



「進みすぎてる」



「分かるのか」



俺が聞くと、ルナリアは白石から目を離さないまま答えた。



「分かんない。だから嫌なんだよ。あれ、凛ちゃんの速さじゃなくて、凛ちゃんが速さに追いつかされてる感じ」



軽い言い方だった。

けれど、声は低い。

白石が最後の遠距離型へ向かう。


敵が魔力弾を放つより早く、黒雷が弾けた。

白石は正面から突っ込む。


普通なら危険な動きだ。

だが、魔力弾の射線は白石の肩先をかすめるだけで終わる。


細剣が核を貫く。

最後の敵が光になって崩れた。


戦闘終了。


時間にして、ほとんど一瞬だった。

広間には、誰も動けない静けさが落ちた。

白石は無傷だった。


呼吸も乱れていない。

肩も上がっていない。

表情も変わっていない。


ただ、左腕に残った黒雷だけが、細く脈打っていた。


同接の数字が跳ね続ける。


コメントは歓声と恐怖で埋まっていた。



「凛さん最強」


「雷の王女じゃん」


「美しすぎる」


「怖い」


「これ企業側勝ち確では?」


「いや制御できてるのか?」



ひなたが震える声で言う。



「凛さん……すごい、です」



普通なら、白石は少し照れるか、短く否定したはずだ。

だが白石は、ひなたを見るまでに一拍遅れた。

そして、本当に分からないという顔で首を傾げる。



「そう?」



ひなたの表情が固まる。

白石は自分の手元を見る。


倒した敵の数。

消費した魔力。

残った危険。


それらを確認するように、視線だけが静かに動いた。



「必要な処理をしただけ」



その言葉で、広間の温度が下がった気がした。


雪那が氷を消さないまま、白石を見ている。

美咲は何も言えない。

玲奈は桐崎のそばで、肩を震わせている。


俺は短剣を下ろせなかった。

白石は敵じゃない。


けれど、今の白石は、味方を安心させるために強くなったわけじゃない。

何かに求められるまま、完璧な動きを出している。


強い。

完璧だ。

最適だ。


だからこそ、怖い。

ルナリアが俺の隣で小さく言う。



「このままだとまずいね」



俺は答えない。

白石の左腕で、黒雷がまた細く走る。

白石はそれを見下ろし、少しだけ瞬きをした。


その目には、達成感も恐怖もほとんどない。

ただ、次に何をすればいいのか、もう分かってしまっている静けさだけが残っていた。

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