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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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127話 タイマン

中継地点へ続く広間は、円形に近い構造だった。


左右から伸びる通路が1つに合流し、中央には浅い段差がある。

本来なら補給やルート確認のための場所なのだろう。

だが今は、配信画面の中で別の意味を持ち始めていた。


桐崎パーティーと俺たちが、ほぼ同時に広間へ入る。


視界端のコメント欄が跳ねた。



「接戦じゃん」


「また合流した」


「元パーティ対決くる?」


「凛さん怖いけど強すぎ」


「桐崎もなんかやばい」



視聴者は盛り上がっている。


だが、広間の空気は重かった。


白石は少し後ろに立ち、次の通路を見ている。

玲奈はそんな白石を不安そうに見ていた。

美咲は端末の数字を確認し、桐崎は最初から俺だけを見ていた。


その目が、前より熱い。


敵を見る目じゃない。

勝つための相手を見つけた時の、抑えきれない興奮が滲んでいる。


桐崎が槍の柄を肩に乗せた。



「黒崎。まだ俺から逃げてんのか」



「逃げてるつもりはない」



「だったら、今ここでやろうぜ」



その一言で、コメント欄がさらに加速する。



「来た」


「タイマン!?」


「因縁回じゃん」


「神回の予感」


「いや今やる空気か?」



ひなたが大鎌を握り直し、俺の前に出かけた。


俺は片手で制する。



「大丈夫だ」



ひなたは不安そうに俺を見る。



「でも、桐崎さん……」



「ああ。分かってる」



今の桐崎は、以前の桐崎じゃない。

強くなっている。

踏み込みも、反応も、圧も変わっている。


だが、それ以上に危うい。


強さを手に入れたというより、勝ちたいという欲だけが膨らんでいるように見えた。


玲奈が小さく声を出す。



「隼人、やめよう。今は攻略中でしょ」



桐崎は振り返らない。



「すぐ終わる」



美咲も端末を見たまま、迷うように眉を寄せた。



「数字は伸びると思うけど……本当にやるの?」



桐崎は笑う。



「数字も勝ちも取れる。なら問題ねえだろ」



白石は止めなかった。


ただ、俺と桐崎の距離、広間の広さ、周囲の退避位置を順に見ている。

止めるべきかどうかではなく、進行効率と被害率を測っているようだった。


その無反応が、逆に冷たかった。


ルナリアが肩をすくめる。



「始まっちゃったね。こういうの、配信だと一番伸びるやつじゃん」



軽い声だった。

けれど、目は笑っていない。


協会の中継表示に、短時間限定の模擬戦申請が表示された。

対抗戦の進行に影響しない範囲で、双方同意なら許可される形式らしい。


スポンサー側の判断は早かった。


画面に承認の文字が出る。

視聴者が沸いた。



「公式許可きた」


「マジでやるのか」


「黒崎勝てる?」


「桐崎の火力やばいぞ」


「これ危なくない?」



俺は短剣を抜いた。


桐崎は槍を構える。

その口元には、笑みが残っている。


楽しそうだった。

戦う前から、もう勝利を味わっているような顔だ。



「分からせてやるよ」



「何をだ」



「お前が俺より下だってことをだ」



開始の合図が鳴る。

桐崎が踏み込んだ。


速い。

床を蹴る音が遅れて聞こえる。

槍の突きが、一直線に喉元へ伸びてきた。


俺は半歩下がり、刃の横を短剣で逸らす。

衝撃が腕に響いた。


重い。


以前なら、力任せの突きにはわずかな溜めがあった。

今は違う。

踏み込みと突きがほとんど同時に来る。


桐崎は止まらない。


突きが外れた瞬間、柄を回して横薙ぎへ繋げる。

俺は身を沈めて避けるが、風圧だけで頬が切れた。


血がわずかに流れる。



「避けるだけかよ!」



桐崎が笑う。

その笑いに、玲奈が顔を強張らせた。


白石は無表情のまま、俺たちを見ている。

止める気配はない。

ただ、戦闘の推移を記録するように視線だけが動いていた。


次の突きが来る。

今度は肩。

さらに膝。

逃げ道を潰す連撃。


技術はある。


だが、それ以上に前へ出る圧が異常だった。

普通なら一度距離を測る場面でも、桐崎は踏み込んでくる。


当たれば勝てる。

押せば崩せる。

倒せば証明できる。


そんな感情が、槍の先まで乗っている。

コメント欄が流れる。



「桐崎速い」


「黒崎防戦一方?」


「これ強すぎだろ」


「でも桐崎の顔怖い」


「笑いながら刺しにいってる」



俺は呼吸を整えた。

焦る必要はない。


桐崎は強くなっている。

それは間違いない。


ただ、強くなった分だけ、動きの端に別のものが滲んでいる。


踏み込みが深い。

攻撃の最後に、少しだけ力が乗りすぎる。

外した時の戻りに、苛立ちが混ざる。


まだ線にはならない。

だが、点は見え始めていた。

桐崎がさらに踏み込む。



「どうした、黒崎! 見えてんじゃねえのか!」



槍が斜め上から落ちる。

俺は横へ避ける。

床が砕けた。


砕けた石片が飛ぶ。

桐崎はそのまま槍を引き抜き、追撃へ入った。


必要以上に強い。


相手を倒すだけなら、そこまで叩きつける必要はない。

だが桐崎は、壊すことで自分の強さを確かめている。


ルナリアが小さく言う。



「あー、そっちに寄っちゃってるね」



ひなたが不安そうに聞く。



「桐崎さんも、やっぱり……?」



「うん。凛ちゃんとは逆。削れてるんじゃなくて、増えてる。勝ちたいとか、壊したいとか、上に立ちたいとか、そういうの」



白石の冷たさとは違う。

桐崎は熱い。

熱すぎる。


その熱が、動きを強くしている。

同時に、ほんの少しだけ歪ませている。


桐崎が大きく踏み込んだ。

槍が胸を狙って伸びる。

俺は横へ動く。


穂先が服の端を裂いた。

届かない。

桐崎の目が見開かれる。


俺は反撃しない。

ただ、槍の間合いから外れる。


それだけで、桐崎の体勢がわずかに流れた。

完全に読めてはいない。

だが、今の一撃で確認できたことがある。


桐崎は速い。

重い。

危険。


けれど、冷静じゃない。

槍を引く桐崎の顔に、わずかな苛立ちが混じった。


視聴者のコメントがまた跳ねる。



「今避け方おかしくない?」


「黒崎、慣れてきた?」


「桐崎ちょっと止まった?」


「ここからか?」


「まだ分からん」



俺は短剣を構え直す。

桐崎が槍を握りしめる。



「今のは、たまたまだ」



「そうか」



言葉に熱は乗せない。

必要なのは怒りじゃない。


見ることだ。

桐崎は笑った。

だが、さっきよりも少しだけ荒い笑いだった。



「いいねえ。潰し甲斐がある」



再び、槍が構えられる。

広間の空気が張り詰める。


白石は無表情でこちらを見ていた。

俺と桐崎、両方の動きを測っている。


玲奈は祈るように杖を握っている。

美咲は端末を見ながら、画面と現場を何度も見比べていた。


ひなたは大鎌を握りしめたまま、声を出せずにいる。

ルナリアだけが、俺の方を見て小さく笑った。



「見えた?」



俺は桐崎から目を逸らさずに答えた。



「まだだ」



次の瞬間、桐崎が再び床を蹴った。

今度は、さっきよりも荒い。


速い。

重い。

危険。


でも、何も分からない攻撃ではなくなっている。

槍の穂先が迫る。

俺は息を吸い、まだ繋がりきらない点のひとつへ足を置いた。


もう少し見る。

そうすれば、桐崎隼人の戦い方は必ず崩せる。

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