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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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126話 観察返し

対抗戦は、予定より速く中盤へ入っていた。


桐崎パーティーは相変わらず先行している。

ただし、差は決定的ではない。


俺たちも遅れてはいなかった。

雪那の氷で敵の動きを止め、ひなたの大鎌で進路をずらし、俺が隙間を縫って急所を切る。


速さでは負けている。

それでも、崩れてはいない。


視界端のコメント欄も、それを拾っていた。



「企業側速い」


「黒崎側も食らいついてる」


「凛さんやばい」


「悠斗の読みも地味におかしい」


「どっちも強いけど空気が違う」



通路の先で、魔物の気配が重なった。


右奥に小型が2体。

左の壁際に遠距離型。

正面の影は大型だ。


同時に、床の一部が薄く沈んでいる。

踏めば足を取られる罠だった。


俺は配置を拾う。


ひなたを半歩下げる。

雪那には左を塞いでもらう。

俺は正面へ出ず、右奥の小型を先に崩す。


そう判断した瞬間、白石の声が通路に落ちた。



「ひなたさん、半歩後退。雪那さんは左を塞いで。黒崎さんは右奥」



喉が、わずかに止まった。


言おうとしたことを、先に言われた。


ひなたが驚いたように俺を見る。

雪那は一拍だけ黙り、それでも左へ氷を走らせた。


白石の指示は正しかった。


右奥から飛び出した小型が、俺の予測通りに動く。

ひなたが大鎌の柄で軌道をずらし、俺が踏み込んで首元を切った。


左の遠距離型は、雪那の氷に足を取られている。

白石の雷がそこへ走り、動線だけを断った。


被害はない。


問題はない。


だからこそ、嫌な感覚だけが残った。


次の部屋でも同じだった。


敵の群れが左右に分かれて出る。

俺は雪那の魔力残量を見て、左を短く止め、右を先に崩すつもりだった。


白石が先に言う。



「左は3秒だけ固定。右を先に潰す」



まただ。


俺が考えるより、半歩早い。


さらに次の通路では、床の罠に気づく前に白石が告げた。



「中央を踏まない。黒崎さんは右壁沿い」



足が止まりかけた。


偶然ではない。


1回なら重なることもある。

2回なら読みが近いだけかもしれない。


だが、3回、4回と続けば別だ。


白石は敵だけを見ていない。

俺たちの動きも見ている。


ひなたが不安そうに呟いた。



「凛さん……こっちの動きまで分かってるんですか?」



雪那の声は冷静だった。



「分かっているというより、こちらの選択肢を先に削っているわね」



その言い方が、胸に引っかかった。


選択肢を削る。


今の白石には、戦場のすべてがそう見えているのかもしれない。

敵の動きも、味方の迷いも、俺たちの判断も。


必要なものを残し、不要なものを切る。


それだけで正解へ進めると、本気で思っているように見えた。


戦闘は終わった。


桐崎パーティーも、俺たちも被害はない。

通路には消えかけた魔物の光だけが残っている。


コメント欄が流れ続けていた。



「完璧すぎる」


「凛さん全部読んでない?」


「AIみたい」


「黒崎側まで動かしてる?」


「怖いけど強い」



白石はコメントを見ていない。


次の通路を見ていた。

その目に、勝った高揚はない。

仲間を守った安堵もない。


ただ、より成功率の高い動きを探している。

俺は白石へ声をかけた。



「今の指示、どうやって出した」



白石がこちらを見る。



「成功率が高い行動を選んだ」



短い。


それ以上の説明はない。

感情も混ざらない。


まるで、答えを出すこと自体に疑問を持っていない声だった。



「俺たちの動きまで読んでたのか」



「必要だったから」



返答はそれだけだった。


悪意はない。

俺たちを支配したつもりもないのだろう。


だが、だからこそ怖い。


白石は、俺たちを助けた。

同時に、俺たちの判断の余白を奪った。


ルナリアが俺の横で、軽く息を吐いた。



「かなり危ないね」



ひなたが顔を上げる。



「凛さんが、ですか?」



「凛ちゃんじゃない。凛ちゃんの見え方」



ルナリアは白石を見ている。



「敵とか味方とかじゃなくて、結果を見始めてる。誰がどう動けば成功率が高いか。どこで迷うか。どこで止まるか。そこまで見て、先に答えを置いてる」



軽い口調だった。


でも、いつものからかいは薄い。



「悠斗くんがやってた場所、取られかけてるじゃん」



冗談みたいな言い方だった。


けれど、笑えなかった。


俺はこれまで、戦場を見る側にいた。

敵の癖を読み、味方の呼吸を拾い、危険な未来を避けるために動いてきた。


今は、その俺の判断さえ、白石に見られている。


見られている。


敵に狙われるのとは違う。

弱点を探られるのとも違う。


自分が次に何を考えるかを、先に並べられている感覚だった。


白石の視線が一瞬だけ俺に向く。


無表情。


敵意はない。

優越感もない。


ただ、俺という要素を戦場の中に置いて、必要な動きを計算しているように見えた。


それが嫌だった。



「白石」



俺が呼ぶと、白石はすぐに反応した。



「何」



「人を見るなら、結果だけじゃ足りない」



白石はまばたきをした。

ほんのわずかに、返答が遅れる。


雷の残光が、細剣の周囲で薄く揺れていた。



「結果が悪ければ、守れない」



静かな声だった。

正しい。


間違ってはいない。

けれど、その正しさだけで人を見れば、こぼれ落ちるものがある。



「結果だけ見てたら、守った相手が何を怖がってるかも分からなくなる」



白石の視線が一瞬、玲奈へ動いた。


玲奈は肩を震わせる。

けれど、何も言わない。


白石はすぐに視線を戻した。



「恐怖は鈍らせる」



「恐怖があるから、止まれることもある」



今度は、白石がすぐに答えなかった。

その沈黙は短い。

それでも、確かにあった。


桐崎が槍を肩に担ぎ、退屈そうに鼻で笑う。



「話が長えよ。強い方が進めばいいだろ」



美咲は端末を見たまま、迷うように唇を引き結んだ。



「結果は出てる。でも……」



その続きは出なかった。


桐崎側にいる美咲でさえ、少しだけ言葉を失っている。

玲奈は唇を噛んでいた。

白石はもう、次の通路へ目を向けている。


さっきの沈黙は消えていた。

また、答えだけを探す目に戻っていた。


ルナリアが珍しく低い声で言う。



「悠斗くん、そろそろ本気で止める準備した方がいいかもね」



「ああ」



俺は短く答えた。


白石は敵じゃない。


だが、このまま進ませれば、白石はもっと正しくなる。

もっと速くなる。

もっと迷わなくなる。


その先で、何を切るのか分からない。


通路の奥で、新しいゲートが開く音がした。

桐崎が笑う。



「次だ。もっと差をつけるぞ」



白石は頷かない。

ただ、先へ進む。

その横顔には、まだ感情がほとんどない。


俺はその背中を見ながら、はっきりと感じていた。

見られている。


そして、このままでは、俺が見る前に白石が答えを出してしまう。


迷宮の壁が小さく軋む。

まるで、その答えを待っているみたいに。

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