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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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124話 冷たい雷

雷速のあと、桐崎パーティーの進行速度はさらに上がった。


配信画面の右上には、到達予測と勝敗予想が表示されている。

数字はほとんど桐崎側へ傾いていた。

同時接続も伸び続けている。


それでも、コメント欄の空気は少しずつ変わっていた。



「桐崎側強すぎ」


「凛さんバケモン」


「企業側圧勝だろ」


「でもなんか怖い」


「凛さん全然笑わないな」



称賛と不安が、同じ画面に並んでいる。


俺たちは別ルートを進みながら、その映像を確認していた。

雪那が氷で通路を塞ぎ、ひなたが後衛から防護を張る。

俺は敵の動きを読み、必要な分だけ刃を入れる。


こちらも遅いわけじゃない。


けれど、桐崎パーティーの進行は明らかに異常だった。


彼らは止まらない。


分岐で止まらない。

戦闘後も止まらない。

魔力確認さえ、移動しながら終わらせている。


その中心に白石がいた。


前には出ない。

だが、彼女の声が落ちるたびに、全員の動きがひとつに揃う。



「次、戦闘4。正面突破。回復不要」



玲奈がわずかに顔を上げた。



「少し休みませんか……? 隼人も、美咲も、ずっと連戦で」



白石は振り返らない。



「不要。疲労率は許容範囲。進行継続」



その返答に、玲奈の肩が小さく揺れた。


桐崎は笑う。



「いいじゃねえか。止まる理由がないなら進めばいい」



美咲も端末を見ながら頷く。



「実際、数字は伸びてる。ここで止まったらもったいないよ」



玲奈は何も言えなくなった。


正しい。

数字の上では、全員まだ動ける。

回復も足りている。

進行に支障はない。


だが、人間が止まりたいと思う理由は、数字だけじゃない。


それを白石は見ていなかった。


次の広間に、複数の中型魔物が現れた。

数は8。

足が速く、壁を蹴って飛び回るタイプだ。


普通なら、隊列を組み直す。

逃げ道を塞ぎ、1体ずつ落とす。


白石は、一歩前へ出た。



「雷速で処理する」



その声に、桐崎の目が輝いた。



「最高じゃねえか!」



美咲も笑う。



「映えるやつ来た!」



玲奈だけが、反射的に手を伸ばしかけた。



「待って、さっきの後で連続は――」



白石は答えなかった。


細剣に指を添える。

足元で雷が鳴る。


次の瞬間、白石の姿がぶれた。


雷の線が広間を斜めに裂く。

1体目の首が落ちる。

2体目の背後へ移る。


速い。


だが、さっきとは違う。


通路の壁が焦げた。

床に細い亀裂が走った。

美咲のすぐ横を、白い雷光が掠めていく。


美咲は一瞬だけ目を見開き、それでもすぐ笑った。



「今の近っ……でも、すごっ!」



桐崎は声を上げて笑う。



「いいぞ、白石! もっと削れ!」



削れ。


その言葉が、妙に耳に残った。


白石は止まらない。

敵を斬るたびに、移動の角度が鋭くなっていく。

回避ではなく、最短距離で敵の急所へ突き刺さる。


魔物が逃げるより先に、白石がそこにいる。

追うのではない。

逃げ道の終点に、先に立っている。


それは戦闘というより、処理だった。


最後の1体が天井へ逃げた瞬間、白石は床を蹴った。

雷が縦に走り、天井近くで魔物が切り裂かれる。


遅れて、焼けた石の匂いが画面越しに伝わってくるようだった。



「速すぎる」


「やばいやばい」


「今味方ギリギリじゃなかった?」


「凛さん大丈夫?」


「かっこいいけど怖い」



コメント欄が一気に荒れる。


戦闘が終わった。


白石は着地する。


呼吸は乱れていない。

けれど、細剣を握る指先だけが、ほんのわずかに震えていた。


玲奈がすぐに駆け寄る。



「凛さん、今のは危ないです。味方に当たりかけてました」



白石は玲奈を見る。


その目には怒りも焦りもない。



「接触なし。被害なし。進行可能」



「そういうことじゃなくて……!」



玲奈の声が震えた。


桐崎が割り込む。



「当たってねえなら問題ねえだろ。むしろ最高だった」



美咲も端末を見せる。



「同接、また伸びてる。今の絶対切り抜かれるよ」



玲奈は二人を見た。

それから白石を見る。


誰も、止まる理由を共有していない。


その事実に、玲奈の顔が青ざめた。


俺は画面を見ながら、奥歯を噛む。


白石は敵を脅威として見ていない。

最短で消す対象として見ている。

味方の位置も、進行の障害にならない範囲なら、ただの条件のひとつだ。


そこに悪意はない。


だから余計に怖い。


ルナリアが横で、軽い声を落とした。



「もう危ないね」



「次か?」



俺が聞くと、ルナリアは画面から目を離さずに言う。



「うん。たぶん次、壊れるよ。今の凛ちゃん、自分の身体も味方の怖さも、全部ロス扱いしてるじゃん」



ひなたが息を呑む。


雪那が静かに杖を握り直した。



「止めるの?」



「ああ」



俺は即答した。


これはもう勝ち負けじゃない。


対抗戦の数字も、視聴者の評価も、今はどうでもいい。

白石がこのまま進めば、いずれ誰かを切る。

敵ではなく、不要と判断したものを。


それが味方でも、自分でも。


桐崎パーティーは次の扉へ向かった。


扉の向こうには、大型の高速魔物が待っていた。

四足で地面を蹴り、複数の残像を残しながら広間を走る。

普通なら、包囲を警戒して距離を取る相手だ。


桐崎が槍を構える。



「俺が正面から止める」



白石がそれを遮った。



「不要。私が殲滅する」



「ははっ、いいねえ!」



桐崎は楽しそうに笑った。


白石が雷を纏う。


今度の雷は、細い線ではなかった。

身体の周囲で小さく弾け、空気を焦がすように震えている。


玲奈が青ざめる。



「凛さん、待って……!」



白石は動いた。


大型魔物が横へ跳ぶ。

その先へ、白石が先にいた。


細剣が脚を断つ。

魔物が崩れる。

崩れた先へ、雷速で移動する。


次。

次。

次。


敵の動きに合わせているのではない。

敵が動く余地を、先に潰している。


人間の戦い方じゃない。

獣だ。


ただし、怒りで暴れる獣じゃない。

最短で獲物の喉を断つ、冷たい獣。


大型魔物が咆哮する。

白石は反応しない。


雷を纏ったまま、その懐へ入る。

細剣が急所を貫いた。


巨体が床に崩れ落ちる。

広間が静かになった。


桐崎が低く笑う。



「最高だな」



美咲は画面の数字を見たまま、声を震わせる。



「今の、同接……すごい」



玲奈は震えながら、白石を見る。



「凛さん……今、見えてました?」



白石は動かない。


一秒。

二秒。


雷が細剣の周囲で小さく弾ける。

やがて、白石が瞬きをした。



「問題ない」



答えになっていなかった。

玲奈の顔から血の気が引いた。


白石は周囲を見回す。

倒れた魔物。

焦げた床。

焼けた壁。

桐崎。

美咲。

玲奈。


その全部を見ているのに、どれにも留まらない。


ただ次の扉を見る。

雷がまだ、肩のあたりで微かに鳴っている。


画面越しに、その横顔を見た。

綺麗だった。

冷たかった。


そして、もう止まる気がなかった。

俺は息を吐くことも忘れていた。


白石はまだ敵じゃない。

けれど、もう危険な場所まで来ている。

このまま進ませれば、取り返しのつかないところまで削れていく。



「もう、止まれなくなってる」



誰に言ったわけでもない。

それでも、ひなたが小さく頷いた。

雪那も黙ったまま、画面を見ている。


ルナリアだけが、口元から笑みを消していた。


桐崎パーティーは、無言で次の扉へ進む。

白石の雷だけが、まだ薄く残っていた。

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