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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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119話 対抗戦

中間ボスの広間に、企業側が先に到達した。


視界端のAR表示では、到達時間と被弾数、消費魔力の簡易データが並んでいる。

すべて企業側が上だった。

俺たちはまだひとつ前の通路で、魔物の群れを処理している。


それでも、画面から目を離せなかった。


企業側の広間にいたのは、装甲をまとった大型のオーガだった。

背丈は桐崎の倍近い。

片腕には分厚い盾のような骨板があり、正面からの攻撃を弾くタイプだ。


普通なら、動きを見て崩す。

盾を誘導し、足を止め、隙を作る。


だが白石は、ほとんど間を置かなかった。



「左脚。3秒固定」



それだけで、企業側が動いた。


桐崎が真正面から踏み込む。

美咲の炎が床を這い、オーガの左足を囲む。

玲奈は回復ではなく、桐崎の背中へ補助を一枚だけ重ねた。


白石は後ろにいる。


細剣を抜いてはいるが、前へ出ない。

戦っていないわけじゃない。

けれど、敵へ直接向かっているのは桐崎たちだ。


白石は、戦場全体を動かしている。


オーガの盾が振られる。



「右」



桐崎が半歩ずれる。


骨板の盾が、桐崎の肩を掠めるより先に空を切った。



「美咲さん、今」



炎が跳ね上がる。


盾の内側へ入り込んだ火柱が、オーガの膝を焼く。

巨体が崩れた瞬間、桐崎の槍が左脚へ突き刺さった。


速い。

綺麗だ。

連携としては文句のつけようがない。


コメント欄が一気に流れる。



「企業側やば」


「白石さん指示精度おかしい」


「桐崎の火力もえぐい」


「これもう勝ちでは?」


「連携綺麗すぎ」



ひなたが悔しそうに息を呑む。



「速い……」



「速いだけじゃないわ」



雪那が低く言う。



「全員が白石の指示を前提に動いている」



その通りだった。


白石の言葉が短いほど、企業側の動きは揃う。

説明を挟まない。

確認を取らない。

誰も迷わない。


普通なら危ういはずのやり方が、今は成立してしまっている。


俺は通路の敵を避けながら、ARの分割画面を見続ける。


Observe。


白石を見る。


視線が速すぎる。

敵だけを見ていない。

桐崎の踏み込み、美咲の詠唱速度、玲奈の魔力残量、床の亀裂、オーガの重心。


それらを同時に処理している。


指揮じゃない。


指揮なら、仲間に判断を渡す。

白石は違う。

仲間が判断する前に、最短の行動だけを置いている。


まるで、戦場そのものを手で並べ替えているみたいだった。



「黒崎さん?」



ひなたの声で、俺は目の前へ意識を戻す。


コボルトが横から飛び込んでいた。

俺は半歩ずらし、短剣の柄で喉元を打つ。

雪那の氷が追い打ちをかけ、魔物は光になって消えた。



「悪い」



「大丈夫です。でも、向こうばかり見すぎです」



「ああ」



分かっている。


だが、見なければならない。


今の白石がどこまで変わっているのか。

どこから戻せるのか。

それを掴むには、見続けるしかない。


企業側の画面で、オーガが咆哮した。


床を踏み砕き、広範囲に衝撃が走る。

普通なら距離を取る場面だ。


白石の声が落ちる。



「下がらない。足元固定。桐崎、前」



「言われなくても!」



桐崎が笑って突っ込んだ。


衝撃波の中心へ、自分から入っていく。

玲奈が息を呑むのが画面越しにも分かった。

だが、補助魔法はすでに飛んでいる。


桐崎の身体が衝撃を受け止めた。


槍が突き出される。

オーガの胸に刃が食い込む。

そこへ美咲の炎が重なり、爆ぜた。


オーガが大きく仰け反る。



「ははっ、いいじゃねえか!」



桐崎は笑っていた。


楽しんでいる。


ダメージを受けかけた恐怖ではない。

倒し切れそうな興奮。

もっと押し込めるという期待。


白石が淡々と言う。



「追撃不要。右腕破壊へ移行」



「まだ動くだろ。潰せる時に潰す」



桐崎は止まらなかった。


槍を引き抜き、さらに踏み込む。

必要以上の追撃。

オーガの胸部装甲が砕ける。


効いている。

強い。

だが、その一撃は白石の指示から外れていた。


玲奈が一歩前へ出かける。



「隼人、戻って」



「問題ねえよ!」



桐崎は振り返らない。


美咲が炎を追加する。



「合わせるよ。押し切れる!」



結果だけ見れば、それも正しかった。


オーガの体勢が崩れる。

骨板の盾が落ちる。

企業側の勝利が近づいていた。


だからこそ、玲奈の表情だけが浮いて見えた。


強いのに、怖い。

勝っているのに、安心できない。


ルナリアが隣で軽く笑う。



「凛ちゃん、完全に観る側だね」



「観る側?」



ひなたが聞き返す。



「自分で戦ってないでしょ。戦場そのものを動かしてる。あれ、配信で映えるよ。本人は静かなのに、全員が凛ちゃんの手足みたいに動くんだから」



ルナリアは面白そうに言う。


その後、少しだけ目を細めた。



「でもさ、あそこまでいくと、人を見てるのか駒を見てるのか分からないね」



その言葉が刺さった。


俺も同じものを見ていた。


白石の視線は仲間を見ている。

だが、心配している視線じゃない。

必要な位置にいるか。

必要な魔力を残しているか。

次の行動に使えるか。


それだけを測っているように見える。


白石は仲間を無視していない。


むしろ、誰よりも見ている。


なのに、人を見ていない。



「……人間の処理じゃない」



自分でも、低い声だった。


雪那がこちらを見る。



「白石のこと?」



「ああ。見えてる量が違う。あれは指揮じゃない。処理だ」



ひなたの表情が強張る。


企業側の戦闘は終盤に入っていた。


オーガの左脚は砕け、右腕も動かない。

美咲の炎が背後を塞ぎ、玲奈が最低限の回復だけを差し込む。

桐崎は前で笑いながら槍を振るっている。


白石が最後の指示を出した。



「終わり。首」



桐崎の槍が走る。


炎が爆ぜる。

オーガの巨体が崩れ落ちる。

撃破表示が企業側の画面に出た。


到達時間。

戦闘時間。

被弾数。

消費魔力。


すべてが良い数字だった。


コメント欄が爆発する。



「企業側強すぎ」


「凛さん別格」


「これもう勝負にならん」


「桐崎も火力やばい」


「完成されすぎて怖い」


「黒崎側どうするんだ」



勝敗予想がさらに企業側へ傾く。


ひなたが画面を見つめる。

悔しそうで、不安そうだった。


俺たちが弱いわけじゃない。

でも、数字だけなら負けている。


今の企業側は、本当に強い。


その事実が重かった。


画面の中で、桐崎が槍を肩に担ぐ。



「次行くぞ。このまま差を広げる」



玲奈が少しだけ前へ出た。



「少し休まない? 隼人、今の衝撃、完全には消せてない」



「必要ねえよ」



桐崎は即答した。


白石も周囲を見て、淡々と言う。



「進行継続可能。回復は移動中で足りる」



美咲が頷く。



「だよね。ここで止まる方がもったいない」



玲奈だけが言葉を失った。


誰も間違ってはいない。


進める。

勝てる。

数字も伸びる。


だから止まらない。


止まる理由だけが、あの場から消えている。


ルナリアが小さく呟く。



「……止まれなくなってるね」



その声は軽くなかった。


画面の中で、白石が次の通路へ視線を向ける。

桐崎が笑って歩き出す。

美咲がコメント欄の伸びを見て、少しだけ口元を上げる。


玲奈は一歩遅れてついていく。


白石の目は、もう次の敵の位置を探している。

桐崎の目は、次に壊す相手を探している。


そのどちらも、隣にいる人間を見ていなかった。


俺は端末を握り直す。


速さでは負けている。

数字でも負けている。

それでも、このまま追いかけるだけでは駄目だ。


白石を連れ戻すには、あの速さの中に残っているはずの迷いを見つけなければならない。


画面の向こうで、企業側は次の通路へ消えていく。


俺たちの通路にも、次の敵の気配が近づいていた。


対抗戦は、まだ始まったばかりだ。


だが、白石はもう、俺たちの知っている戦い方から遠く離れ始めていた。

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