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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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118/160

118話 別種

ゲートの向こうは、広い石造りの通路だった。


合同高難度検証配信は、開始直後から視聴者数が跳ね上がっていた。

企業側と俺たちの映像は、分割表示で並べられている。

視界端のARには、コメントと簡易マップが薄く流れていた。


今回は同じダンジョンを別ルートから進む形式だ。

到達速度、戦闘効率、被弾率、判断時間。

すべてが記録される。


数字で比べるための舞台。


まさに企業側が得意そうな場所だった。


俺たちは左ルート。

企業側は右ルート。


通路の奥で、ほぼ同時に敵の気配が動いた。


画面の片側で、企業側の戦闘が始まる。

先頭の桐崎が槍を構えた。

その後ろで美咲が炎を準備し、玲奈が回復位置へ下がる。


白石は少し後ろにいた。

全員が見える位置。

戦場全体を測る場所だ。



「右、2体。前衛はそのまま。美咲さん、奥を焼いて。玲奈さんは回復待機」



短い指示だった。


迷いがない。

言葉が少ない。

それなのに、全員が動いた。


桐崎が踏み込む。

正面の魔物を槍で貫く。

美咲の炎が奥の敵を包み、玲奈は無駄に魔力を使わず待つ。


綺麗に噛み合っていた。


コメントが流れる。



「企業側速い」


「凛さん指示うま」


「完成度高すぎ」


「これは数字出るわ」



ひなたが横目でARを見る。



「……強いですね」



「ああ」



否定はできない。


企業側は強い。

少なくとも、今の戦闘に無駄はなかった。

白石の指示で動き、桐崎の火力で潰し、美咲が範囲を塞ぎ、玲奈が必要な時だけ支える。


チームとして完成されている。


だからこそ、息苦しかった。


俺たちの前にも魔物が出る。

雪那が氷で足場を止め、ひなたが防護を張る。

俺はObserveで動きを拾い、敵の踏み込みをずらした。


こちらの戦闘は、企業側ほど速くない。


声を掛け合う。

一拍待つ。

ひなたの息を確認する。

雪那の魔力の流れを見る。


数字にすれば、遅いのだろう。


それでも、俺には必要な遅さに思えた。


企業側の画面で、次の敵が現れる。


白石が一瞬で判断する。



「左ルート切り。正面突破」



桐崎が笑った。



「いいねえ。分かりやすい」



桐崎は白石の言葉が終わる前に走り出した。


速い。

だが、白石の速さとは違う。


白石は余計なものを落として速い。

桐崎は、熱を増やして前へ出ている。


槍が唸る。

魔物の胴体を貫いたあとも、桐崎は止まらない。

崩れかけた敵へさらに踏み込み、必要以上に叩きつける。


石床に亀裂が入った。


美咲が少し眉を寄せる。



「隼人、ちょっと前出すぎ!」



「問題ねえだろ。倒せてる」



桐崎は笑っていた。


楽しそうだった。


敵が倒れた後も、ほんの少しだけ槍先が震えている。

戦い足りないと言っているみたいに。


玲奈が回復魔法を構えたまま、桐崎を見ていた。

必要な傷はない。

けれど、構えを解けない。


その顔に、恐怖が滲んでいた。


ルナリアが俺の横で小さく笑う。



「へぇ。面白いね」



「面白い状況か?」



「うん。壊れ方が違うじゃん」



ルナリアの声は軽い。


だが、その目は白石と桐崎を見比べていた。



「凛ちゃんのは、いらないものを削ってる感じ。迷いとか、感情とか、そういう邪魔になる部分を薄くしてる」



ひなたが息を呑む。



「桐崎さんは……?」



「逆。増えてる」



ルナリアは桐崎の映る画面を指先で示した。



「熱とか、欲とか、勝ちたいって気持ち。そういうのだけ膨らんでる。だから凛ちゃんとは別物だよ」



別物。


その言葉が、やけに重く聞こえた。


侵食は1種類じゃない。

空の迷宮のものだけが、人を変えるわけじゃない。


白石は削られている。

桐崎は増やされている。


どちらも、人の形を歪める。


俺は奥歯を噛んだ。


画面の中で、企業側はさらに進んでいた。

攻略速度は明らかにこちらより速い。

視聴者もそれを見ている。



「企業側つよ」


「黒崎側遅くね?」


「でも黒崎側の方が安心感ある」


「桐崎ちょっと怖い」


「凛さん静かすぎる」



コメントの流れが、少しずつ割れ始めていた。


強さを褒める声。

違和感を拾う声。

どちらもある。


企業側の通路で分岐が出る。


白石はほとんど間を置かずに言った。



「左は切る。右」



桐崎が舌打ちする。



「正面でいいだろ。敵がいるなら潰せる」



「過剰戦闘はロス。右が最短」



「はっ。面倒くせえな」



白石は桐崎を見ない。



「面倒ではない。不要」



その言葉に、桐崎の目がわずかに鋭くなる。


美咲がすぐに間へ入った。



「凛さんの判断で行こう。今の方が速いし」



「だろうな」



桐崎は笑ったが、納得した顔ではなかった。


玲奈だけが2人を見ている。


白石の冷たさ。

桐崎の熱。

そのどちらにも近づけず、足元だけが不安定になっているような顔だった。


企業側は右ルートへ進む。

判断は正しかった。

すぐにショートカット用の扉が見つかり、攻略時間が大きく縮まる。


コメント欄が沸く。



「凛さん正解」


「判断速すぎ」


「企業側完成してる」


「桐崎は暴れたいだけか?」


「でも火力は正義」



美咲は少し誇らしげだった。



「ほら、やっぱり凛さんの判断で正解」



玲奈は返事をしなかった。


白石は結果を見ても表情を変えない。



「次。戦闘時間を削る」



その声に、企業側がまた動く。


速い。

正しい。

見ている分には、文句のつけようがない。


だが、そこに人がいる感じが薄れていく。


俺たちの前の敵を倒し終える頃には、企業側はもう中間地点へ到達していた。


ひなたが悔しそうに唇を結ぶ。



「速いです……でも、なんか嫌です」



「その感覚は大事だよ」



ルナリアが軽く言う。



「数字だけ見たら、向こうが綺麗。でも綺麗すぎるものって、けっこう危ないじゃん」



雪那が静かに頷く。



「凛と桐崎の危険性は、同じではないわね」



「ああ」



俺は企業側の画面を見る。


白石は冷たい。

桐崎は熱い。


なのに、どちらも本来の人間らしい揺れから遠ざかっている。


Observeは、2人のズレを拾い続けていた。


白石の判断は、迷いを切っている。

桐崎の動きは、衝動を燃やしている。


同じダンジョン内にいるのに、まったく違う異常だった。


企業側が扉を開ける。


その先には、中間ボス前の広間が広がっていた。

こちらより明らかに早い到達だ。


視聴者数がさらに伸びる。


企業側優勢。

コメント欄の予想も、一気に向こうへ傾いていく。



「企業側強すぎ」


「これは勝ったな」


「完成度が違う」


「凛さんいると別ゲー」


「桐崎の火力もやばい」



だが、画面の端で玲奈だけが小さく立ち止まった。


白石は先を見る。

桐崎は敵を待つように笑う。

美咲は数字を確認している。


玲奈だけが、誰もいない床を見ていた。


彼女には、何かが分かっているのかもしれない。

理屈ではなく、本能で。


ルナリアが口元を緩める。



「面白いね」



その声は軽い。


けれど、次の言葉だけは低かった。



「壊れ方、全然違うじゃん」



俺は画面から目を離せなかった。


企業側は強い。


勝っている。

速い。

完成されている。


それでも、あの中にいる人間が少しずつ遠ざかっていくのが見えた。


ゲートの奥で、中間ボスの咆哮が響いた。


戦闘は、まだ始まったばかりだった。

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