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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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116話 企業側の告知

合同高難度検証配信の告知ページは、公開から数時間で拡散されていた。


協会の準備室に戻った俺たちは、企業側が出した追加情報を確認していた。

画面には、洗練された特設ページが表示されている。

黒と青を基調にした背景。

スポンサー名。

参加探索者の紹介。

リアルタイム勝敗予想の受付。


俺たちが普段使っている配信ページとは、空気がまるで違った。


配信というより、競技イベントに近い。

攻略の成功だけじゃない。

誰が速いか。

誰が強いか。

どの判断が効率的か。


全部が数字になる場所だった。


ひなたが画面を見ながら、眉を寄せる。



「すごいですね。すごいんですけど……なんか、探索っていうより大会みたいです」



「実際、大会に近い形式でしょうね」



雪那がページをスクロールする。



「配信管理、スポンサー表示、個人別データ、戦闘貢献度。ここまで整っているなら、企業側は最初から見世物として設計している」



見世物。


その言葉はきつく聞こえた。

けれど、画面に並ぶ数字を見れば否定できなかった。


白石凛。


空の迷宮生還者。

雷系高機動アタッカー。

直近配信における敵処理速度、前回比148%。


紹介文の横には、昨日の配信から切り抜かれた凛の姿がある。

雷をまとい、無表情に敵を撃ち抜く横顔。

綺麗な画像だった。


綺麗に整えられすぎていて、嫌な感じがした。



「白石さん、めちゃくちゃ目玉扱いですね……」



ひなたの声が沈む。


ルナリアは椅子の背に肘をかけ、画面を斜めから見ていた。



「向こうからしたら、扱いやすいんだろうね。強くて、注目されていて、今は余計な反応も少ない」



「余計な反応って……」



「向こうにとっては、だよ」



ルナリアの声は軽かった。

でも、目は笑っていない。


雪那が別の項目を開く。

そこには企業支援チームの紹介映像があった。


高性能装備。

自動解析端末。

魔力補助スーツ。

ダンジョン内でのリアルタイム戦闘データ表示。


映像の中では、探索者たちが無駄のない動きで敵を処理していく。

画面下には、処理時間、被弾率、連携成功率が流れていた。


数字だけなら、確かに強い。


俺たちよりずっと整っている。

装備も、支援も、配信演出も、何もかも。


ひなたが小さく呟く。



「でも、楽しそうじゃないですね」



その一言に、誰もすぐには返さなかった。


映像が切り替わる。


次に映ったのは、槍を持つ男だった。


名前が表示される。


桐崎隼人。


胸の奥が、少しだけ冷えた。


昔、同じパーティーにいた男。

俺を追放した側にいた男。

声も顔も忘れたわけじゃない。


画面の中の桐崎は、以前より落ち着いて見えた。

装備も整っている。

立ち方にも隙がない。


ただ、笑っていた。


口元だけじゃない。

目の奥に、何か熱のようなものがある。


凛の冷たさとは違う。

削られた静けさではない。

むしろ、余計なものが増幅しているような熱だった。



「こいつが、中心人物か」



俺が呟くと、ひなたが振り向く。



「黒崎さん、知ってるんですか?」



「ああ。昔のパーティーにいた」



ひなたの表情が変わる。

雪那も画面から俺へ視線を移した。



「追放の時の?」



「そうだ」



短く答える。


細かく説明する気にはなれなかった。

それでも、身体の奥に残っている感覚は消えない。


火力がない。

映えない。

判断が遅い。


そんな言葉を並べられた時の、あの空気。


画面の中の桐崎は、インタビューに答えていた。



『勝てば評価される。余計な過程はいらない。視聴者が見たいのは結果だろ』



コメント欄が盛り上がる。



「隼人きた!」


「相変わらず尖ってる」


「こういうのでいいんだよ」


「勝てば正義」


「黒崎と因縁あるやつ?」



ルナリアの指が、ぴたりと止まった。


俺はその反応を見る。



「どうした」



「まだ画面越しだから断定しない。でも、凛とは違うね」



「違う?」



「うん。凛のは削る。あっちは燃やしてる感じ」



燃やしている。


確かに、そう見えた。


凛は余白を失っている。

桐崎は熱だけが濃くなっている。


どちらも普通ではない。

だが、方向が違う。


映像は続く。


企業施設の訓練室らしい場所で、凛と桐崎が短く言葉を交わしていた。

カメラは遠い。

音声も少しだけ拾っている。


桐崎が槍を肩に担ぐ。



「今日の同期率、悪くなかったな」



凛は端末を見たまま答える。



「無駄が少なかったから」



「なら本番はもっと削れる」



「削れる余地はある」



会話は成立している。


だが、噛み合いすぎていた。


ひなたが嫌そうに顔をしかめる。



「なんか……怖いくらい同じ方向を見てますね」



「同じ方向じゃない」



ルナリアが小さく言う。



「たまたま並んでるだけ。凛は余計なものを削られてる。あの男は、勝つために余計なものまで燃やしてる」



雪那が頷く。



「数字だけなら、向こうは強いわね」



「だろうな」



俺は画面を見たまま答えた。


装備。

支援。

配信導線。

戦闘データ。

そして、今の凛。


数字だけなら、向こうが上だ。


それは認めるしかない。


でも、画面を見ていて胸がざらつく理由も、そこにあった。


強い。

綺麗。

整っている。


けれど、人がいる感じが薄い。


凛はその中に、自然に収まってしまっている。


それが怖かった。


映像の最後に、合同高難度検証配信のPVが流れた。


重い音楽。

高速で切り替わる戦闘映像。

雷。

槍。

企業ロゴ。

勝敗予想の受付開始。


最後のカットで、凛と桐崎が並んで映る。


凛は静かに前を見ている。

桐崎は笑っている。


画面全体は、驚くほど格好よく作られていた。


コメント欄が一気に加速する。



「PVかっけえ!」


「企業本気じゃん」


「これ絶対見る」


「凛さんと桐崎の並び強すぎ」


「黒崎側きつくない?」



その瞬間、PVの端にノイズが走った。


ほんの一瞬。


凛の横顔だけが、わずかに乱れる。

雷の光が黒く滲んだように見えた。


すぐに映像は戻る。


誰もコメントでは触れていない。

配信側の演出かもしれない。

俺たちの端末の表示ズレかもしれない。


だが、俺は見逃せなかった。

雪那も目を細める。



「今の、見た?」



「ああ」



ひなたが不安そうに端末を見る。



「ノイズ、ですよね?」



ルナリアは答えなかった。


ただ、画面に映った凛の横顔を見ている。


PVは終わり、告知ページへ戻った。


合同高難度検証配信。

開始予定は明日。

参加チーム一覧に、俺たちの名前も追加されていた。


招待ではない。


もう、参加者として扱われている。


俺は画面を見たまま、息を吐いた。



「向こうは、こっちが来る前提で組んでるな」



「勝敗予想まで作ってるなら、そうでしょうね」



雪那が言う。


ひなたは拳を握った。



「行くしかないですよね」



「ああ」



行けば、白石に会える。

桐崎とも向き合うことになる。


企業側の整った舞台。

数字で測られる戦闘。

勝敗を望む視聴者。


その全部が、今の白石には近すぎる。

俺は端末を閉じた。



「数字だけなら、向こうが上だ」



誰も否定しなかった。

その上で、俺は続ける。



「でも、白石を数字で終わらせるつもりはない」



ルナリアが少しだけ笑った。



「いいじゃん。そういう無駄、嫌いじゃないよ」



無駄。

今の白石なら、そう判断するかもしれないもの。

それでも、俺たちはそれを捨てない。


PVの最後に映った凛の横顔が、まだ頭に残っている。

綺麗で、冷たくて、ノイズに飲まれかけていた。


合同配信は、もう明日に迫っていた。

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