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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第5章 雷の王女

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108話 正確すぎる雷

探索再開の許可が下りたのは、空の迷宮から戻って数日後だった。


とはいえ、いきなり高難度へ行くわけじゃない。

協会側からも、まずは低難度で身体の確認をしろと言われている。


俺たちが入ったのは、都内近郊にあるCランクの石窟型ダンジョンだった。


通路は広い。

足場も安定している。

空の迷宮みたいに、足元が崩れたり、重力がずれたりすることもない。


ひなたが大鎌を肩に担ぎ、深く息を吸った。



「久しぶりに普通の床ですね。安心感がすごいです」



「油断はしないで」



雪那が静かに言う。


凛は細剣を抜き、軽く手首を回した。



「確認にはちょうどいいわね」



声も表情もいつも通りだった。


昨日までの小さな違和感も、ダンジョンの中に入れば薄れる。

戦闘中の凛は冷静で、無駄がない。

それは元からだ。


だから、最初の戦闘では何もおかしく見えなかった。


現れたのは、石肌のゴブリンが三体。

動きは遅く、隊列も甘い。


ひなたが一体の足を大鎌の柄で払う。

雪那が足元に薄い氷を走らせ、逃げ道を塞ぐ。

俺は残った一体の踏み込みを見て、短剣で腕を逸らした。


凛の雷が、最後の一体を貫く。


速い。

正確。

でも、それだけだった。


いつもの凛だ。


ひなたが大鎌を回して、ほっと息を吐く。



「これくらいなら大丈夫そうですね」



「まだ一戦目だ」



「分かってます。でも、普通に戦えるだけで嬉しいです」



その感覚は分かる。


空の迷宮では、まともに足場を信じることすらできなかった。

今は踏めば地面がある。

敵は見た通りに動く。

それだけで、戦闘の負荷がまるで違った。


奥へ進むと、敵の数が増えた。


ゴブリンが5体。

後ろに小型の岩トカゲが2体。

挟むつもりなのか、左右の壁際に散っている。


俺は短剣を構え、前へ出ようとした。


その前に、凛が動いた。


一歩目が深い。


普通なら、こちらの位置を見てから雷を合わせる。

凛はそういう戦い方をする。

味方の動きも、敵の癖も見たうえで、最短じゃなく安全な最適を選ぶ。


けれど今の凛は、迷わず最短だけを踏んだ。


岩トカゲの舌が伸びる。

頬をかすめる距離。

そこを凛は半身だけで抜ける。


雷が走った。


一体目の喉。

二体目の関節。

三体目の眼前。


刺す位置が、全部急所だった。


敵が倒れる順番まで決まっていたみたいに、凛は止まらない。

細剣を振るのではなく、雷を置く。

敵がそこへ自分から入ってくるように見えた。


ひなたが遅れて一体を刈る。

雪那の氷が逃げる個体の足を止める。

俺も最後の一体を受け止めた。


戦闘はすぐに終わった。


早かった。

楽だった。

誰も傷を負っていない。


それなのに、ひなたは少し首を傾げていた。



「今の、凛さん速かったですね」



「そう?」



凛は細剣を下ろす。

息も乱れていない。



「速いっていうか……なんか、近くなかったですか?」



「踏み込みのこと?」



「はい。あれ、舌が当たりそうでしたよ」



雪那が倒れた岩トカゲを見る。



「危険だった」



ひなたが頷く。



「ですよね?」



雪那は続けた。



「でも、最適でもあった。あの距離なら、敵の動作が終わる前に潰せる」



「じゃあ、大丈夫ってことですか?」



「結果だけ見れば」



その言い方が少しだけ残った。


結果だけ見れば。


確かに、結果は完璧だった。

危険な踏み込みも、当たらなければ問題はない。

むしろ無駄を削った分、早く終わった。


ただ、凛らしいかと聞かれると、少し引っかかる。


凛は冷静だ。

でも、味方を置いてまで踏み込むタイプじゃない。


俺が凛を見ると、彼女は不思議そうにこちらを見返した。



「何?」



「いや。調子が戻ってきたなと思って」



「そうかもしれないわね」



凛は特に気にした様子もなく答えた。


そのまま進む。


次の広間では、石の狼が4体、影から飛び出してきた。

動きはさっきの敵より速い。

通路を左右に使って、こちらの背後へ回ろうとする。


ひなたが大鎌を構える。



「今度は私が止めます!」



その声より先に、凛の雷が走った。


狼の一体が空中で痙攣する。

二体目が着地した瞬間、前脚を撃ち抜かれる。

三体目は壁を蹴る前に、進路上へ置かれた雷へ突っ込んだ。


正確すぎる。


敵がどこへ動くかを読んでいるというより、最初から答えを知っているような動きだった。


俺の観察でも、そこまで早くは確定しない。

癖。

筋肉の動き。

重心。

そういうものを拾って、次を読む。


凛の動きには、その途中がなかった。


答えだけが先に出ている。


最後の一体が、死角から凛へ跳んだ。

俺が声を出す前に、凛は体を少しだけずらす。


細剣の先に雷が灯る。


振り返らない。

見る前に、後方へ雷を放った。


狼が床へ落ちる。


広間が静かになった。


ひなたが目をぱちぱちさせる。



「……今の、見えてました?」



凛は少しだけ間を置いた。



「なんとなく」



「なんとなくで後ろ撃てます?」



「気配はあったわ」



凛の声は普通だった。

誇るでもなく、隠すでもない。

自分でも不思議に思っていないように聞こえる。


雪那が小さく呟いた。



「反応速度が上がっている」



「いいこと、ですよね?」



ひなたが聞く。


雪那は少し考えてから答えた。



「今は」



短い言葉だった。


凛はそれを聞いても、特に反応しない。

細剣を収め、倒れた敵を確認している。


そのあと、凛は水筒を取り出して普通に水を飲んだ。

何もなかったみたいに、ひなたへ視線を向ける。



「あなたも飲んでおきなさい。動きが少し大きくなってる」



「え、私ですか?」



「大鎌を振る時、肩に力が入ってた」



「見られてた……」



いつもの凛だった。


冷静で、細かいところまで見ていて、必要なことだけ言う。

だから余計に、さっきの動きが浮いて見える。


強くなっている。

そう言えば聞こえはいい。

空の迷宮を越えたことで、感覚が研ぎ澄まされたのかもしれない。


実際、凛の動きは悪くなっていない。

むしろ鋭い。

効率だけなら、前より上がっている。


けれど、胸の奥に小さな引っかかりが残る。


上手くなったというより、削ぎ落とされたように見えた。


余裕。

ためらい。

仲間を待つ一拍。


そういうものまで、一緒に削られている気がした。


ひなたが場を変えるように明るく言う。



「まあ、凛さんが強いのはいつものことですし!」



「雑なまとめね」



凛が少しだけ笑う。


その笑顔はいつも通りだった。


判断するには早い。

今日の探索は、あくまで身体慣らしだ。

空の迷宮の後なら、感覚が普段と違ってもおかしくない。


帰還ルートへ向かう途中、通路が二つに分かれた。


右は来た道。

左は行き止まりの枝道。

地図ではそう表示されている。


俺が右へ進もうとした時、凛が左の通路へ細剣を向けた。


まだ何も見えていない。


雷が走る。


ひなたが声を上げる前に、曲がり角の奥で何かが弾けた。

半拍遅れて、石蛇が転がり出てくる。

雷に貫かれたまま、床の上で動かなくなった。


通路の先から出てくる前だった。


ひなたが足を止める。



「……今の、見えてました?」



凛は細剣を下ろし、少しだけ首を傾げた。



「なんとなく」



さっきと同じ答えだった。


雪那は倒れた石蛇ではなく、凛の細剣の先を見ていた。



「反応というより、先読みね」



凛は驚いた様子もなく言う。



「気配がしただけよ」



それ以上、誰も何も言わなかった。


俺だけが、曲がり角の奥を見ていた。

まだ姿を見せていなかった敵を、凛は撃ち抜いた。


強い。

そう思えば、それで終わる。


だが、その強さは少しだけ、凛から遠い気がした。

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