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「無能」と追放された俺、観察スキルで最適解を見抜く配信を始めたら最強探索者になっていた  作者: ささかま
第4章 空の迷宮

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100話 同じ失敗の外側

ルナリアの「は?」が落ちた瞬間、俺は笑っていた。


自分でも理由は説明できない。

ただ、勝てると分かった。

今この一瞬だけは、向こうより先を知っている。


視界の端で、ひなたの足元はまだ落ちきっていない。

凛の肩も、雪那の氷も、さっき潰れたはずの位置にまだ残っている。

同じ並び。

同じ失敗の直前。


だが、今度は違う。


俺は踏み込む。

迷わない。


一歩目を浅く。

二歩目で入る。

視線は上げない。

ルナリアの指先も、背後の仲間も見ない。


見なくても分かる。

もう一度なぞる必要もない。

さっき潰された一瞬が、そのまま頭の中に残っている。


重力の落ちる位置。

収束の速さ。

押し潰しの起点。


全部が見える。


いや、見えるんじゃない。

そこにある。


ルナリアの体は、見た目通りの位置にない。

重力の中心がずれている。

落としているのはルナリアじゃない。

ルナリアの内側で、別の何かが圧を握っている。


胸の奥。

心臓の少し上。

呼吸の芯じゃない。

もっと歪んだ、重さだけが集まっている場所。


そこだ。


俺はさらに踏み込む。

さっきまでなら押し潰されていた軌道だ。

だが今は違う。

潰れる位置を知っている。

落ちる前に、そのわずかな外側を抜ける。


ルナリアの目が開く。

驚いている。

さっきまで読めていたはずの俺が、急に別の位置へ滑り込んできたせいだ。


遅い。


右肩を沈める。

腰を落とす。

短剣は使わない。

切れば間に合わない。

必要なのは一撃じゃない。

剥がすことだ。


ルナリアの唇が震える。

声になる前の、かすかな息だけが漏れる。


その瞬間、ほんの一瞬だけ本人の目に戻った。


「……ごめん」



謝る相手が誰なのか、考える暇はない。


俺は掌を開く。

短剣を握ったまま、柄尻を掌に殺す。

体重を乗せる。

足裏から腰、肩、腕までを一直線に繋ぐ。


掌底。


ルナリアの胸の間へ、真っ直ぐ叩き込む。


硬い感触はない。

肉を打った手応えでもない。

もっと嫌な、空洞を殴ったみたいな反発があった。


直後、空気が歪む。


ルナリアの背後で、目に見えない何かがひび割れた。

重力の芯がずれる。

押し潰していたはずの圧が、行き場を失って四方へ散る。


空間を押さえつけていた重さが、一拍遅れてほどけた。


ひなたの身体が落ちるはずだった軌道から外れる。

凛の肩へ食い込んでいた圧が消える。

雪那の足元で砕けかけていた氷が、ようやくただの氷に戻る。


遅れて、風が吹いた。


さっきまで沈んでいた空域が、一気に軽くなる。

足場のひびも、それ以上は広がらない。

耳の奥を塞いでいた重さが抜け、呼吸が一気に戻った。


ルナリアの身体が揺れる。


目の焦点が合わない。

だが、今までみたいな虚ろさじゃない。

中で何かを引き剥がされたあとの、空白だけが残っている。


その肩を支えようと一歩出た時、不意に妙な違和感が走った。


ルナリアの視線が、俺じゃない方向へずれた。


ほんの一瞬だけだ。

誰もいないはずの空間を見るみたいに、細く揺れる。

その先にいたのは、息を乱しながら立て直した凛だった。


次の瞬間には、もう焦点は消えている。

気のせいだと言われれば、それで終わる程度の短さだった。


ひなたが膝をついたまま、声を震わせる。



「……終わった?」



凛は答えない。

雪那も氷を解かない。

俺も、すぐには頷けなかった。


ルナリアの体から、もう重力の圧は感じない。

だが、胸の奥で掴んだあの嫌な感触だけが消えきらない。


それでも今は、確かに止まっている。


ルナリアの膝が折れる。

俺はその身体を受け止める。

軽い。

さっきまで空域全体を押し潰していた存在とは思えないほど、ただの一人分の重さしかなかった。


吐き出すように息をつく。


勝った。

少なくとも、この瞬間だけはそう思っていい。


だが、その安堵は最後まで続かなかった。


支えた腕の中で、ルナリアの身体から抜けたはずの違和感が、ほんの一拍だけ遅れて空気を撫でる。


凛がわずかに眉を寄せた。


本当に一瞬だけだった。


何も起きない。

誰も何も言わない。

それでも、何かだけが終わっていない感覚が、喉の奥に小さく残った。

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