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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
国務四課統理育成選抜試験編
23/25

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アッシャーさんと組むと決めた。


その事実は、言葉にした瞬間からどんどん現実になっていく。


廊下での短いやり取りのあと、私たちは誰もいない空き教室に移動した。


夕方の光が窓を通して暗い影を落とす。


一時的にではあるが同じチームになった。


なのに、一行に距離が縮まらない。


むしろ、近づけば近づく程、その異質さが浮き彫りになっていった。


壁によりかかっていたアッシャーさんは淡々と喋り始めた。


「まず確認だが、俺たちと組むということはお前らも実行課に行くという認識でいいな?」


「勝手に決めんなよ」


ルーカスさんが鼻で笑う。


「決めているわけではない。お前たちには実行課を組むしか道がない」


「なんでそう言い切れる?」


「お前らのグループは圧倒的に前線向きだ。そして何より、君たちは戦って『勝つ』ことを求められている」


求められている。


統理庁に。


そして、私の蒼理に。


「あの、話を進める前に。私たちお互いのこと全然知らないよね?」


ダリアさんが遠慮がちに言った。


「それもそうだね。名前も知らない奴らをいきなりチームって言われても無理がある」


ノアさんは椅子に座り、肘をついて言った。


「それもそうだな。では自己紹介から始めよう」


アッシャーさんはそう言うと自己紹介を始める。


「アッシャー・カーシー。権理は天理てんりだ」


「天」という言葉が、能力の強さ、壮大さを想像させる。


次に、水色髪の少女が口を開いた。


「グレイス・ノラよ。……界理かいりよ」


ピンク色の瞳と、一瞬だけ目が合う。


品定めをするような瞳。


次に、黒髪の少女が微笑んだ。


「リーシェ・セレーナだよぉ。権理は狂理きょうり!」


ホワホワとした可愛らしい話し方と裏腹に、物騒な権理名だ。


最後にオレンジ髪の少年がバン!と机に手をついて身を乗り出す。


「ヴィクター・スチュアート!」


突然大声で叫び始めた。ダリアさんはびっくりしたようで肩をびくりと震わせる。


確か生存適性試験でもこのような大声を出していた気がする。


「俺の権理はっ!戦理せんりだ!」


明らかに戦闘に特化していそうな権理、というのが率直な印象だった。


「うるせぇ……」


ルーカスさんが目を細めながら呟いた。


「ははは!元気があっていいだろう!」


この場に似つかわしくない声量、そして態度。


良くも悪くも最も印象に残った。


「じゃあ、こっちも一応。ダリア・フローレンスです。権理は水理すいり


ダリアさんが先陣を切って自己紹介をする。


「ノア・ベネディクト。権理は風理ふうりだ」


「ルーカス・アゼリア。権理は光理だけど、派生的な感じで雷も使える」


ノアさん、ルーカスさんが続けて自己紹介を済ませる。


最後は私。


「トモリ・アーレントです。権理は朱理と……」


自分で言うと、本当に私が双権理保持者そうけんりほじしゃなのだ、と認めるような気がした。


「蒼理です」


空気がほんの一瞬だけ凍る。


「蒼理……あの蒼い炎のことよね?」


グレイスさんがこちらを見たので、私は小さく頷く。


「……そう」


リーシェさんが興味深そうに人差し指を頬に当てる。


「不思議だよねぇ。炎みたいなのに冷たいだなんて」


ヴィクターさんがまた叫ぶ。


「面白ぇ!実際に見てぇな!」


「見るとか言うな。あれは見世物じゃねえ」


ルーカスさんが間髪入れず鋭い言葉を挟む。


「はっ、別にいいじゃねえか!ケチだな!」


「この人達……」


ダリアさんが喋るのが聞こえる。


「かなり危ないというか、自由というか……個性派ですよね」


ダリアさんの言葉に続けるようにして私は言った。


でも、このチームは生存適性試験第二位だ。


強さも併せ持っている。


だが、その強さは、「正しさ」になるのだろうか。


アッシャーさんが机に指を軽く置いた。


トン、という小さな音。


それだけで、うるさくなっていた空き教室がまた静寂で満たされた。


この人は、声を荒らげなくとも空気を支配することができる。


「権理の詳細について、簡単に共有する。任務で共闘する以上、隠していても何も意味はない」


そう言って、アッシャーさんは自分の権理の説明を始める。


「俺の天理では、光矢こうやという必中の矢を使うことができる。あとは軽微なものに限るが、治癒能力も使える」


光矢、という聞き慣れない言葉。だが、必中という言葉が加わっただけでそれはとても特別なものに成り上がった。


「私の権理、界理は自分や周りの人に結界をを貼ることができるわ。もちろん多少の制限はあるけど」


グレイスさんが流れるように言った。


「私の権理はねぇ、私自身の身体を植物化したり、相手を他の動物に変えることができるんだぁ」


やっぱり、権理名の物騒さと権理の内容はイコール関係にあったようだ。


ホワホワとした口調で人間を他の動物に変えるだとか言う人は、きっとリーシェさんくらいだろう。


「俺の戦理はシンプルだ!」


ヴィクターさんが叫ぶ。


「身体強化!闘争本能の増加!つまり!俺が殴れば全部終わる!」


言葉の勢いだけで空気が揺れるような気がした。


「脳筋……」


「褒めてんのか!?」


私が小さく呟いた言葉に対して、その何倍もの声量で聞き返してくる。脳筋の上に地獄耳でもついているのだろうか。


「説明はこれくらいでいいだろう。今回の国務試験では、権理に関する特別許可が下りていることは知っているな?」


その言葉で、私含めた全員が何も言わずに静かに頷く。


「なんのことだ!?」


と一人状況を理解していないヴィクターさんを除いて。


権理解式けんりかいしきだな」


「そうだ」


ルーカスさんの応答に対してアッシャーさんが頷く。


権理解式。


それは、権理の「必殺技」のようなもの。


通常の権理とは一線を画した、権理の核に触れるような技だ。


威力が強いため、生存適性試験では使用が禁止されていた。


「使えば勝てるってことかい?」


「違う。使えば勝てるとは限らない」


ノアさんに対してアッシャーさんは首を横に振る。


「使えば、代償が出るのよ」


代償、というグレイスさんの言葉に私は反応した。


「権理解式は権理の限界を超える。だからこそ、制御できなければ自滅する。恐らく統理庁は俺たちの『限界』を見ようとしている」


見たい。


試したい。


管理したい。


その全てが、そこに詰まっていた。


私は思った。


結局、国は私たちを人として見ていない。


ただの戦力として、道具として見ている。


そしてアッシャーさんは、私の方を見る。


「トモリ・アーレント」


心臓が跳ねる。


「お前の蒼理に権理解式はまだ存在していない、という認識でいいのか?」


その言葉は、疑問に聞こえなかった。


私は答える。


「一応、そういう事で。まだ調査中でよく分かっていないから」


「そうか」


それだけ。


それだけなのに、私は確信してしまった。


この人たちは、私の蒼理に触れるために接触してきた。


そしてそれは偶然ではない。狙われている。


私が。蒼理が。


この試験の舞台で。


私は小さく息を吐いた。


そして思う。


この合同チームは強い。


でも─────。


最強であればあるほど、壊れるときは派手に崩れ落ちる。

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