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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
国務四課統理育成選抜試験編
22/25

合理的

アッシャーさんたちが教室を出て行ったあとも、教室の空気は戻らなかった。


この教室に残されたのは、静かすぎる空気と、拒否を許さない威圧感だった。


別教室に移動し、一番最初に口を開いたのはルーカスさんだった。


「気に食わねえんだけど」


「正直、私は怖い」


「怖い?」


ダリアさんの言葉をルーカスさんが聞き返す。


「あのグループ、強いだけじゃない。凄く冷たい感じがする」


冷静な口調でダリアさんは続ける。


「勝つために組むって言ってた。だから、私たちは『仲間』じゃなくて『道具』として見られる可能性があると思う」


最後にダリアさんは私の方を向いて言った。


「特に、トモリなんかは」


ダリアさんが指しているのはきっと蒼理のこと。


蒼理。


この言葉に最近どれだけ悩まされてきたか。


蒼理の調査は中々進んでいないようで、私自身も詳細を分かっていない。前例がない事象が多いから解析に時間を要しているのだという。


蒼理の詳細が説明されないせいで、他の人からは勝手に推察され勝手に恐れられ、挙句の果てには道具として見られる可能性も否めないのだ。


私自身、今はもう疲弊しきっていた。


「でも、それは僕たちも同じなんじゃないかい?」


口を開いたのはノアさんだった。


「あいつらを利用する、それも戦略の一つだよ。僕たちが彼らを信用しないなら、彼らも僕たちを信用しない」


次々と冷静な分析を並べ立てていく。


「だったら、利害一致のまま組む方が合理的だと思わないかい?」


合理的。


アッシャーさんも同じことを言っていた。


嫌な言葉だ。


「お前、アッシャーと同じこと言ってるぞ」


ルーカスさんは嫌悪感を示すようにノアさんの方を見る。


ノアさんは微笑んだ。


いつものあの、余裕そうな笑顔だ。


「同じことでも、意味は異なる。僕は僕たちの為にそう言っているんだ」


私はゆっくり息を吸い込んだ。


考えなきゃいけない。


ちゃんと、自分で。


「アッシャーさんたちと組むなら、きっと実行課に行くのは避けられない。それなら、実力のあるアッシャーさんたちと組むメリットは大きい」


「でもトモリ……」


ダリアさんがまた心配の眼差しを向ける。


まだ能力の詳細が判明していない蒼理を使うのは危険だ。加えて、蒼理は統理庁の監視対象。


使えば使うほど、蒼理の異常性は露呈するだろうし、また学校で奇怪な目を向けられるだろう。


きっとアッシャーさんたちが見ているのは私の中にある蒼理。


それでも。


逃げたくなかった。


逃げてしまったら、何がが「終わる」ような気がしてならない。


「利用されるのは嫌。けど、拒否して敵になるほうがもっと怖い」


沈黙。


セミの声が耳にダイレクトで届いた。


「てことは……?」


ルーカスさんが小さく言う。


「私は、アッシャーさんたちと組みたい」


「私も、かな。ノアが言ってることは一理あるし」


ダリアさんが私に賛同し、ノアさんが肩をすくめる。


「最初からこうなるんだろうなとは思っていたけど、ここまですんなり行くとはね」


ルーカスさんは舌打ちをし、髪をかき上げる。


「はあー……やっぱ気に食わねえ」


でも、ルーカスさんの言葉はそこで終わらなかった。


「……分かった。組む」


私たちは前に進む。


次の舞台へと。
















廊下を歩きながら、ダリアさんが天井を見上げた。


「決まったはいいけど、これで本当によかったのかなってちょっと思っちゃう」


私は何も返せなかった。


でも、この試験で「最適解」を見つけ出すのはきっと限りなく不可能に近い。


どの道を選んでいても、きっと同じような思いが胸にあっただろう。


その時だった。


廊下の向こうから、見覚えのあるシルエットが四人分現れる。


そして私たちはお互いに近寄り、やがて立ち止まる。


「結論は出たか?」


ルーカスさんが一歩前へと出た。


「ああ、組んでやるよ」


「『組んでやるよ』……。随分と上から目線だな」


「そっちは頼み込んでいる側だろうが」


「まあだが……俺たちと組んでおくのが賢明な判断だろうな」


アッシャーさんはそう言うと、少し目を細めた。


笑っているのか、はたまた─────。


考えるのはよしておいた方がいいかもしれない。


だって、もう戻れないのだから。


この選択が私たちをどこへと連れていくのかはわからない。


ただ1つ確かなことがあるとするのなら。


アッシャーさんたちが私たちを選んだ理由を、まだ語っていないということ。

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