もう始まっている
少しざわめきを帯びていた教室が、ピンと張り詰めた。
新しい試験の予告、グループ同士が手を組むという試験内容。
ここから考えられる結論はたった一つ。
グループの勧誘に来たのだ。
「失礼します」
アッシャーさんはそう丁寧に言うと教室に踏み入った。
そして、私の前に歩み寄る。
「言っただろう?近いうちに話す機会がやってくる、と」
アッシャーさんは淡々と告げる。
「要件はもう分かっているかもしれないが……」
「統理試験に一緒に挑もうってことかい?」
椅子から立ち上がっていたノアさんがアッシャーさんに向けて言う。
その顔には、やはりいつもの余裕のある笑みが浮かんでいた。
「そういうことだ」
次の瞬間、教室が爆発したかのようにざわつく。
「マジかよ……」
「この前の試験二位だったグループからの指名って……」
「拒否する理由があるか?」
そのざわめきを収めるようにアッシャーさんが問いかける。
私たちに「NO」を言わせる余地のない声色、そして雰囲気。
私たちと同じ学生なのに、彼らは軍隊のように思えた。
その時、ルーカスさんが椅子を勢いよく引いた。
大きな音が教室に響く。
「理由ならあるぞ」
ルーカスさんは立ち上がると、私とアッシャーさんの間に入り込むようにして立つ。
「俺はお前たちと仲良しごっこをする気はねえ」
「え、ちょ、ルーカス!」
予想だにしないルーカスさんの発言に驚いたダリアさんが声を漏らす。
「なんで俺らなんだ?理由を言わない限り少なくとも俺はお前らと組む気はない」
「俺たちは実行課をこの試験で指定しようとしている。それに最も適していると判断したのがお前らのグループだった」
表情ひとつ変えずにアッシャーさんは続ける。
「火力、機動、支援。どれを取っても偏りが少ない。任務遂行に置いてもっとも優秀だと判断した」
台本を読むかのようにスラスラと答えた。
声での感情の変化も読み取れない。
「俺たちはお前たちと組むことが最も合理的だと考えている」
「任務をこなすだけよ」
そう言ったのは水色髪の少女だった。ピンク色の瞳がキラリと輝いた。
「勝てるチームを作る。それだけ」
この人たちは、『勝ち』の為にどんなことでもする。
この人たちは、『勝つ』為に組んでいる。
その事実が直感的に伝わった。
「ははっ、面白い!」
大きな声が耳をつんざく。
オレンジ髪の少年から発せられたものだった。
「この前の試験ではお前らとは一回も会わなかったからな!お前らと戦うのに興味がある」
最後に、黒髪の少女が微笑む。
「ねえ、怖がらないで?」
甘い声。溶かされるような心地だ。
「私たち、別に敵じゃないよお?」
「どうだ。組む気はないか?」
アッシャーさんが再び問いかける。
「組むチームを決める期限は一週間後までだが、早くて損はない。実行課任務は時間との戦いになる」
合理的。
それだけじゃない。
何故かそう思ってしまった。
「……ちょっと、考えさせてください」
私の心を代弁するように、ダリアさんが言葉を絞り出した。
「ああ、構わない。返答を待つ」
そう言って、アッシャーさんら四人は教室を出た。
来た時と同じように、音だけを残して。
「気に食わねえ」
ルーカスさんが舌打ちをする。
「トモリはどうしたい?」
「……断るのは難しいと思う」
正直な答えだった。
だけど、アッシャーさんのあの目。
この教室に入ってきたとき、アッシャーさんが初めに見たのは私だった。
あの視線が、頭から離れない。
アッシャーさんたちは、私たちのチームを見ていたのではない。
きっと、私の中にある蒼理を見ていた。
そして思った。
この試験は、もう始まっている。




