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「少し大切な話をさせてください」
ある日の帰りのホームルームのとき、セオドア先生は言った。
そして、何かを言う訳でもなく黒板に文字を綴り始める。
そこに書かれた文字。
【国務四課統理育成選抜試験】
新しい統理試験の名前だった。
7月上旬。暑さが私たちを支配し始める時期での出来事だった。
「この試験は、生存適性試験の上位八グループのみ参加できる試験です」
上位八グループ。私たちのグループは三位だから、この試験への参加資格を得ている。
あの試験で付いた順位が、ここで意味を成してきた。
選ばれた者だけの舞台。
「この試験は訓練ではなく、実際の国務四課任務を模倣した“実戦形式”で行います」
セオドア先生は続ける。
「任務の達成度、被害の抑制、連携、判断力、あらゆることが評価対象となります」
「そして参加グループは、生存適性試験の順位にならって希望の課を選ぶ権利が与えられます」
一拍。
「そして同時に、共に任務に挑むグループの指名ができます」
教室の空気が変わった。
強者は強者を選び、弱者だけが取り残されていく。
そんな世界が見えた。
だが私はここで、一つの懸念を抱く。
それは、今の学年としての雰囲気だ。
前回の試験が終わってから、クラスの雰囲気が明るくなることは無かった。
クラスでもまとまりがないのなら、学年として見ればさらにそれは悪化する。
こんな状況で、他グループとの協力なんてことを実現できるのだろうか。
そんな私の心配をよそに、セオドア先生は説明を続ける。
この教室では、セオドア先生のみが微笑んでいた。
「一応、統理庁の四課について復習しておきましょう」
そして先生は四つの課の名前を連ねる。
【諜報課】
【防諜課】
【情報課】
【実行課】
「諜報課。潜入・諜報活動を主とします。危険度は高く、他国で捕まれば、帰還はほぼ不可能」
教室の誰かが息を呑む。
「防諜課。国内のスパイ摘発。尋問、取り調べが主となり、精神的負担が大きい」
「情報課。諜報課、防諜課の情報を元に作戦立案を行う。危険度は低いが、高い知力が求められます」
そして最後に、セオドア先生は少しだけ間を置いた。
「実行課。作戦の遂行を担います。戦闘、制圧、護衛、救助……現場任務が中心となり、危険度は高いです」
「そして今日から、生存適性試験上位八グループは、この試験を共にするグループを選んでもらいます。期限は一週間後までです」
誰もが自分のグループの順位を思い出す。
自分の価値。
国にとっての価値。
……怖い。
でも逃げ道は残されていない。
あの面談の後、炎理は名を改めた。
朱色の炎は朱理。
蒼色の炎は蒼理、と。
世界が、あの奇怪な炎に名前を付けたのだ。
私のあの炎は監視対象となった。
なら逃げるより、向き合うしかない。
「組むグループが決まった人から、学年主任のカターモール先生に報告するように」
セオドア先生はその言葉を最後に、今日の帰りのホームルームを終えた。
クラスメイトは困惑の色を示す。
その時だった。
廊下の向こうから、規則正しい足音が聞こえた。それも一人の足音ではない。間違いなく複数人の音だ。
そして足音は私たちの教室の前で止まる。
教室の扉が開く。
顔を見せたのは、生存適性試験二位。第十グループのアッシャーさんたちだった。




