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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
国務四課統理育成選抜試験編
19/25

冷たい祝福

1年A組の教室。


その教室は、今までとは何も変わらない。


机が整然と並び、多くの生徒がそこに詰め込まれ、様々な経験を積んでいく。


私は、そこでいつも通り読書にふけっている……ふりをしていた。


ただ違うのは、生徒同士の雰囲気だった。


静かすぎる。


誰も大声で話したり、笑ったりしない。


誰かと話すとしても、自分と同じグループの人同士であり、その声もとても小さい。


生徒たちは、皆疲れきった顔をしていた。


生存適性統理育成選抜試験。あの試験が終わってから三日が経過したのにも関わらず、この空気がずっと続いている。


あの試験は、ただの試験ではなかったと、今なら確信して言える。


同じスタートラインから一斉に走り出したのにも関わらず、勝者が勝者として教室に戻り、敗者が敗者のまま同じ教室に戻る。


その事実が、ここまでこの教室の空気を息苦しいものにしていた。


そしてずっと突き刺さり続ける、私への鋭い視線。


TDB─────統理データベース。


あの制度が投入され、自分がどれだけ「強い」か、国にとって自分がどれだけ「価値がある」か。


それを痛いほど残酷に、現実として突きつける。


私の総合評価がTDBでS評価となってから、周りからの視線、印象が大きく変わった。


廊下を歩けば、見知らぬ誰かから視線を向けられるようになった。


その視線の種類は実に様々。


羨望、恐怖、嫉妬、そして嫌悪の眼差し。


色々な感情を持った目が私を常に捉えている。


とにかく居心地が悪かった。


S評価を取った。


本来なら喜ぶべきなんだろう。


でも私は、この事実を素直に喜べずにいた。


ダリアさんからはいつもの笑顔が消え、ノアさんは窓の向こうに映る景色をただ見ていた。


一方ルーカスさんは机に突っ伏していた。


寝ているフリなのかと思い、しばらく観察してみる。


瞼は動かず、呼吸で身体は一定の動きを繰り返している。


どうやら本当に寝ているみたいだ。


羨ましいはずなのに、羨ましいと思えなかった。


そんな空気を断ち切るように、扉が開く音がする。


担任であるヘンリー・セオドア先生が扉を開けたのだ。


「アーレント」


空気が凍る。


私はゆっくりと顔を上げる。


「統理庁から呼び出しが。面談に行ってきてください」


「はい」


私はゆっくり立ち上がった。


椅子が床を擦る音がやけに大きく響く。


行きたくない。


けれど、拒否はできない。


教室を出る。


背中に突き刺さる無数の視線を感じながら。













面談室は極めて静かだった。


音が無いわけではない。


空調の微かな風音と、キーボードを叩く乾いた音がある。


けれど、それ以上の音が全くない。


私は恐る恐る椅子に座った。


机を挟んで、女性と男性の面接官が一人ずつ座っている。


「トモリ・アーレント。総合評価S。国家機関推薦対象となりました」


祝福の言葉はない。


事実だけを淡々と女性が告げた。


「確認ですが、あなたは炎理えんりとあの異常な炎の二つの権理を使用しますね」


「……はい」


異常。その言葉が深く突き刺さった。


「炎理に関しては、通常の火炎系統と相違ありません。危険度も標準です」


その言葉に、肩の力が抜けそうになる。


「問題は統理試験中につかった異常な炎です」


また、空気が凍りついた。


この一言が、私を再び現実的に引き戻した。


「あの炎の特徴は、火炎系統でありながら熱を生まない点にあります」


女性はそう言って、私にタブレットの液晶を見せた。


そこに映っていたのは、あの炎を使っている私の熱源解析のグラフだった。


炎の見た目をしているのに、熱が存在しない。


ありえない。


「通常の炎は燃焼により熱エネルギーを発生させます。しかしこの炎は逆。周囲の熱を奪い、燃焼現象を成立させています。」


奪う。


奪って、燃える。


それは炎というより、「欠損」に近い。


「統理庁はあなたの炎を、通常の火炎系統として分類していません」


女性は続ける。


「この炎は異常権理として扱われます。後にこの炎も、統理庁が正式名称を付与します」


その言葉の意味が、重すぎた。


私は、普通じゃない。


私は、異常。


それだけで、この国では監視対象になる。


先程までずっと何も口にしていなかった男性がふいに口を開く。


「つまりお前は、異常因子だ」


冷たく、重い言葉。


私を普通から切り離す言葉だった。


「よってあなたは、あの炎を統理庁の許可無しに使用できません」


私はこの時やっと理解した。


S評価は栄誉ではない、首輪なのだと。


女性は最後に言った。


「あなたは極めて貴重で、極めて危険です」


こちらをしっかりと見つめている。


「国家はあなたを必要とします。だからこそ、国家はあなたを管理します」


「……私は」


何を言えばいいかわからない。


「普通に、学校に……」


「普通を望むな。お前はもう普通じゃない」


男性がピシャリと言い放つ。


私は目を伏せた。


この面談で理解したこと。


あの炎は、ただ強い力ではない。


あの炎は─────


私の人生を壊す力だ。

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