放っておかない
一年生フロアの空き教室の一角。
私たちは青白い画面を囲んでいた。
「ルーカスから見るか」
スマホを片手に操作しながらダリアさんが言う。
「なんで俺?」
「なんとなくかな」
ダリアさんは統理庁の公式アプリを開いた。
そこに表示される検索欄。
【統理データベース(TDB)】
【閱覧権限:学生(制限)】
【検索対象:個人評価ページ/班評価ページ】
「これ、班評価も見れるんですね」
ダリアさんが検索欄にルーカスさんの名前を入力する。
するとすぐに評価が表示された。
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【個人評価ページ】
氏名:ルーカス・アゼリア
学年:1年
班:第七グループ
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権理出力:A
権理制御:A
機動力 :A
耐久力 :B
戦闘センス:A
継戦能力:B
総合評価:A
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「うーわ」
ルーカスさんが眉をひそめる。
「なんかこう、ここまで記録されるとなんとも言えない気持ちだよな」
「でも総合評価Aなんだからいいじゃん」
ダリアさんはそうフォローを入れながら、自身の名前を入力する。
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【個人評価ページ】
氏名:ダリア・フローレンス
学年:1年
班:第七グループ
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権理出力:B
権理制御:A
機動力 :B
耐久力 :B
戦闘センス:A
継戦能力:A
総合評価:A
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「あ、権理制御Aか……。水の能力だからもっと評価つくと思ったんだけど。まあ、今回あんまり水の力使ってないし」
「水は繊細だしね」
そしてノアさんの評価。
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【個人評価ページ】
氏名:ノア・ベネディクト
学年:1年
班:第七グループ
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権理出力:B
権理制御:A
機動力 :S
耐久力 :B
戦闘センス:A
継戦能力:B
総合評価:A
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「機動力S……」
ルーカスさんが小さく漏らす。
「まあ、風理だからね」
ノアさんが当然のように言う。
「それでもSはやばいだろ」
「ていうかさ、この文章、なんか気味悪くない?」
ダリアさんはそう言うと、画面の下部を指さした。
【※一部情報は統理庁権限により非公開】
「僕たちが見れる情報はどうやら限られているようだね」
「非公開」という言葉に隠された情報は、一体何なのか。
知りたいような、知りたくないような、複雑な気持ちになった。
「トモリのも見ていい?」
ルーカスさんやノアさんの評価を見るときとは違い、明らかに気を使っているのが分かった。
私は少し迷った。
けれど、逃げるほうが怖かった。
「……はい」
ダリアさんが、私の名前を入力していく。
そして、私の評価が映し出された。
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【個人評価ページ】
氏名:トモリ・アーレント
学年:1年
班:第七グループ
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権理出力:S
権理制御:C
機動力 :B
耐久力 :D
戦闘センス:B
継戦能力:A
総合評価:S
【※測定不能項目あり】
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最初に私が抱いた印象は、思ったより評価の差が激しい、ということだった。
他の3人はほとんどの評価がA、Bで構成されていて、安定感があった。
でも私の評価はバラバラだ。むしろ全体的に見るとBやDが多い。ところどころで出てくるS評価が、私をこの評価に押し上げたのかもしれない。
「耐久力がDなのに評価はSなんだね」
ダリアさんが驚いたように言う。
きっと私と同じような感想を抱いたのだろう。
ノアさんが小さく息を吐いた。
「矛盾しているね」
私は画面を見つめたまま動けなかった。
耐久力や権理制御が低いのに、火力は異常に高い。
「つか、おかしくねえか?ノアもトモリもSが一個ずつ入ってるのに、ノアの総合評価はAで、トモリがSって」
「非公開情報の中に、私がS評価の理由があるってこと、ですかね」
「気持ち悪。何隠してんだよ」
ルーカスさんが吐き捨てるように言った。
統理庁は知っているのだ。
私が何を持っているのか。
私の知らないところまで。
全てを。
静まり返った教室の扉が、突如として開いた。
私たちは、反射的に振り返る。
センター分けの赤髪に、紫色のメッシュが入っている。
左右で違う目の色。
今回の試験で二位を取った、第十グループのメンバーの一人だった。
彼は私たちを一瞥する。私の方を見て、表情が少し動いた気がした。
「自分を客観的に見るのは面白いだろう?」
赤髪を揺らして尋ねた。
「第十グループの人だね。自己紹介ぐらいしたらどうだい?」
少し前に出てノアさんが言う。
「アッシャー・カーシー。これでいいか?」
簡潔に自己紹介を終えると、ノアさんの横をするりと通り抜けた。
私の前で、立ち止まる。
「俺は試験中、お前の蒼い炎を見た」
心臓が跳ね上がった。
タイルさん、アリシアさん以外にも、あの炎を肉眼で見た人がいたから。
「あの炎は─────」
言いかけて止まる。
ほんの一瞬、アッシャーさんの目が鋭く光った。
「無理に使わないほうがいい」
「……どういうことですか」
「理由が知りたいか?」
私は頷いた。
「今はいい。そう遠くないうちにでも話す機会はやって来る」
アッシャーさんは部屋を出る。
扉を閉める直前、私の方を振り返り一言言った。
「統理庁は、お前を放っておかない」
扉が閉まり、静寂が戻る。
「変なことだけ言って帰っていったぞ、あいつ」
ルーカスさんが苛立ちを露わにする。
「近いうちに、って……」
ダリアさんも険しい表情で言った。
総合評価S。
非公開の評価。
答えはでない。
でも確かに。
運命の歯車は、少しずつ動き始めていた。
胸の奥が冷たい。
まるで、心にあの蒼い炎が宿っているようだった。
生存適性統理育成選抜試験編、これにて一区切りです。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
次回から新章に入ります。引き続きよろしくお願いします!




