終わらせない選択
正直、安心していた。
身体の違和感も、全部どうでもよくなるくらいには。
この世界で、渡り合えるかもしれない武器を手に入れたから。
あのまま続けていたらどうなっていたか、自分でも分からない。
分からないけど、多分あまりよくない方向にいっていた気がする。
「とりあえず座れよ」
私が扉の前に寄りかかっていたのを見てか、ルーカスさんは私に座るように促した。
「あ、別に大丈夫です……」
少し嫌な予感がしていた。
一刻も早くここから逃げてしまいたかった。
「そんなすぐに終わる話じゃないし、座れよ」
ルーカスさんはこちらに歩み寄ってきた。
─────まずい。
慌てて避けようとしたが、遅かった。
既に私の手首とルーカスさんの手は触れ合っていた。
ルーカスさんに、気づかれてしまった。
私の体温が今、異常に低いことを。
「なんだよ、これ」
「別に、平気です。初めて使った能力だし、ちょっとおかしいだけで……」
自分でも、言い訳のようなことを言っていたのがわかった。
ふとルーカスさんの方を見ると、ブレザーを脱ぎだしていた。
何をするのだろう、そう思ったとき。
ふわりと、ルーカスさんのブレザーが私の肩に乗った。
「え、ちょっ……」
「いいから着とけ」
遠慮の言葉を言うまでもなくルーカスさんはキッパリと答えた。
そして私はそのまま座らされる。
布越しに、少しだけ温かさが伝わってきた。
……さっきまで、こんなに寒かったんだ。
「で?これが『ちょっと』なのかよ」
「でも私が、あそこで頑張らなきゃいけなかった……ですよね?」
私がもしあそこでなにもしていなかったら、それこそ本当の意味での「負け」だった。
「それで倒れたら意味ねえだろ」
「でも、結果的には大丈夫で……」
「大丈夫じゃないだろ」
他の言葉より一線を画して強調された言葉で、私は顔を上げた。
「今のお前の状態で『大丈夫』なんて言われても少しも信用出来ない」
ルーカスさんは止まらず話し続ける。
「倒れてねえから?無事だから?」
一拍置いてこう続けた。
「そんなの、結果の話だろうが」
視線を逸らすことができない。
「次同じことして、全く同じ結果になる保証あるのかよ」
「それは……」
ルーカスさんが言っていることは、全てごもっともな意見だった。
反論の余地は残されていなかった。
「でも!」
気づけば声が出ていた。
自分でも驚く声量。
「無茶するかも、どこまでやるかも、全部私一人で決めることですよね?」
ここで引くわけにはいかなかった。
理由はよく分からないけど、ここで引いたら何かが終わるような気がした。
「俺にも選ばせろ」
思わず、は?と口にしてしまいそうだった。
意味が分からなかった。
選ぶ?何を。
しばらく、ルーカスさんは何も言わなかった。
何かを考えているような、私が話しかける隙を与えない表情。
「……お前さ、もう少し自分のこと考えろ」
やっと捻り出した言葉のように言った。
私は何も言えなかった。
また、沈黙が流れる。
何か言わなきゃいけない気がした。
でも、何を言えばいいのか分からなかった。
「……で」
「で?」
やっと私が言葉にした一言を、ルーカスさんはそっくりそのまま返した。
「終わりじゃないですよね」
ルーカスさんの目を、じっと見つめる。
絶対に、この視線だけは逸らさない。
「次、どうしますか」
身体は冷えきっているのに、心が少し熱くなっていくような気がした。
さっきの炎のせいなのか、はたまた他の何かなのか、私には分からない。
「私はここで終わりたくないです」
言い切る。
迷いはなかった。
本当の意味での「負け」のレッテルを、タイルさんたちに貼られたくなかった。
ルーカスさんが、少し目を細めた。
その真意は分からないけれど。
ただ一つ言えるのは─────。
さっきとは、少し違う空気になっていること。
……なんだろう。
上手く言葉にできないけど。
肩に掛けられたブレザーが、少しだけ重い。
でも、嫌ではなかった。
むしろ、その重さをまだ外したくないと思っている自分がいた。




