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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
生存適性統理育成選抜試験編
16/25

終わらせない選択

正直、安心していた。


身体の違和感も、全部どうでもよくなるくらいには。


この世界で、渡り合えるかもしれない武器を手に入れたから。


あのまま続けていたらどうなっていたか、自分でも分からない。


分からないけど、多分あまりよくない方向にいっていた気がする。


「とりあえず座れよ」


私が扉の前に寄りかかっていたのを見てか、ルーカスさんは私に座るように促した。


「あ、別に大丈夫です……」


少し嫌な予感がしていた。


一刻も早くここから逃げてしまいたかった。


「そんなすぐに終わる話じゃないし、座れよ」


ルーカスさんはこちらに歩み寄ってきた。


─────まずい。


慌てて避けようとしたが、遅かった。


既に私の手首とルーカスさんの手は触れ合っていた。


ルーカスさんに、気づかれてしまった。


私の体温が今、異常に低いことを。


「なんだよ、これ」


「別に、平気です。初めて使った能力だし、ちょっとおかしいだけで……」


自分でも、言い訳のようなことを言っていたのがわかった。


ふとルーカスさんの方を見ると、ブレザーを脱ぎだしていた。


何をするのだろう、そう思ったとき。


ふわりと、ルーカスさんのブレザーが私の肩に乗った。


「え、ちょっ……」


「いいから着とけ」


遠慮の言葉を言うまでもなくルーカスさんはキッパリと答えた。


そして私はそのまま座らされる。


布越しに、少しだけ温かさが伝わってきた。


……さっきまで、こんなに寒かったんだ。


「で?これが『ちょっと』なのかよ」


「でも私が、あそこで頑張らなきゃいけなかった……ですよね?」


私がもしあそこでなにもしていなかったら、それこそ本当の意味での「負け」だった。


「それで倒れたら意味ねえだろ」


「でも、結果的には大丈夫で……」


「大丈夫じゃないだろ」


他の言葉より一線を画して強調された言葉で、私は顔を上げた。


「今のお前の状態で『大丈夫』なんて言われても少しも信用出来ない」


ルーカスさんは止まらず話し続ける。


「倒れてねえから?無事だから?」


一拍置いてこう続けた。


「そんなの、結果の話だろうが」


視線を逸らすことができない。


「次同じことして、全く同じ結果になる保証あるのかよ」


「それは……」


ルーカスさんが言っていることは、全てごもっともな意見だった。


反論の余地は残されていなかった。


「でも!」


気づけば声が出ていた。


自分でも驚く声量。


「無茶するかも、どこまでやるかも、全部私一人で決めることですよね?」


ここで引くわけにはいかなかった。


理由はよく分からないけど、ここで引いたら何かが終わるような気がした。


「俺にも選ばせろ」


思わず、は?と口にしてしまいそうだった。


意味が分からなかった。


選ぶ?何を。


しばらく、ルーカスさんは何も言わなかった。


何かを考えているような、私が話しかける隙を与えない表情。


「……お前さ、もう少し自分のこと考えろ」


やっと捻り出した言葉のように言った。


私は何も言えなかった。


また、沈黙が流れる。


何か言わなきゃいけない気がした。


でも、何を言えばいいのか分からなかった。


「……で」


「で?」


やっと私が言葉にした一言を、ルーカスさんはそっくりそのまま返した。


「終わりじゃないですよね」


ルーカスさんの目を、じっと見つめる。


絶対に、この視線だけは逸らさない。


「次、どうしますか」


身体は冷えきっているのに、心が少し熱くなっていくような気がした。


さっきの炎のせいなのか、はたまた他の何かなのか、私には分からない。


「私はここで終わりたくないです」


言い切る。


迷いはなかった。


本当の意味での「負け」のレッテルを、タイルさんたちに貼られたくなかった。


ルーカスさんが、少し目を細めた。


その真意は分からないけれど。


ただ一つ言えるのは─────。


さっきとは、少し違う空気になっていること。


……なんだろう。


上手く言葉にできないけど。


肩に掛けられたブレザーが、少しだけ重い。


でも、嫌ではなかった。


むしろ、その重さをまだ外したくないと思っている自分がいた。

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