それは何を焼く
モニターの向こうで、トモリの炎が揺れている。
ただし、色が異なる。
「なんだあれ……」
いつもの朱色ではなく、深い蒼色になっている。
そして目の色は、いつもの淡い紅色ではなく透き通るような蒼色になっていた。
髪の色も、いつもはグレーを基調とした髪に、淡い紅色なのに、紅色の部分が炎と同じく深い蒼色になっている。
それだけじゃない。何も燃えていないのだ。
意味が分からなかった。
いつもの朱色の炎だったら他の物も燃えていたのに今は、床も壁も、ガラス片も。
「何あれ……ルーカス、あの権理のこと知ってた?」
隣にいるダリアが呟く。
その声には、困惑と、驚きの感情が混じっていた。
「いいや、知らない」
「双権理が今覚醒したってこと?」
「……分からない。けど、双権理を持つ人なんてかなり稀だ」
ノアが呟く。その目には、「ありえない」という文字が刻まれていた。
「炎、だよね?」
誰かに向けた訳ではないダリアの問い。
だが誰も答えられない。
「違うんじゃないかな」
そう言ったのはノアだった。
「え、どういうこと?」
「風の流れがおかしいからね」
「風……」
「そう。普通炎が揺れれば空気も揺れる」
ノアが目をモニターに向けた目をより細めて言う。
「でもあれは違う。空気が動いていない」
炎なのに、熱がない。
炎なのに、空気を乱すことはない。
ありえない状況が起きている事実。
俺は直感で感じた。
俺たちは今、とんでもないものを目にしているのではないか、と。
モニターの中でタイルが言う。
「Stop」
一瞬だけトモリの身体が硬直する。
だが、すぐにまた動き始めた。
「消えてる……」
ダリアが声をあげる。
違う。
消えているのではない。
あれは────
「焼かれてる……」
「焼かれてる?」
ノアが聞き返す。
自分でも何を言っているのか分からなかった。
だが、自分の中ではその表現がいちばんしっくり来たのだ。
「いやでも、炎じゃない……?」
俺は自分で言ったあと、すぐ思い直した。
炎ではないものが、何かを焼けるわけがない。
「何言ってんだ、俺」
【残りグループ数:3】
俺の左腕についた腕時計に、そう表示された。
「グレイス、残りのグループは見つかったか?」
俺は窓から情報収集をしているグレイスに話しかけた。
「ちょっと待って……あ、いた。ちょうど戦ってる最中」
「じゃあそこに行く」
俺はグレイスに呼びかける。
だが、グレイスはのりで貼り付けられたかのように動かない。
「どうした?」
俺はグレイスの視線の先を追う。
そこには静かに佇む銀髪の少年、白髪を一つに結んだ少女に、グレーの髪をした少女が跪いていた。
グレーの髪の少女の手には朱色の炎が浮かんでいた。
「あのグレー髪の女の子、見える?さっきから炎の動きがおかしい」
俺は彼女の炎に注目する。
確かに、その炎は普通では考えられないほど大きく揺れ動いていた。
やがて、炎は紫色へ変化する。
段々と、紫色の中に蒼色が混ざっていく。
そして、完全に澄んだ蒼になる。
「色が変わった……髪も目も。さっきの炎とは違いすぎる……双権理?」
グレイスが言う通り、これは双権理である可能性が高い。だが……
「本当に双権理なのか?」
「え、これが双権理じゃないならなにになるの?」
この現象を双権理以外で片付けられることはないだろう。
『権理って言うのはね、世界の法則に触れて干渉する力のものなんだよ』
かつての祖父の言葉を思い出す。
だとするなら、あれば何に触れている?
いや、違う。
きっとこれは、そんな単純な話ではないのだろう。
あとで解析すればいい。
俺は最後に蒼色の炎を目に焼きつける。
「いい。もう行こう」
俺がそういうと、グレイスはしばらく間を置いてから返す。
「……わかった。アッシャー」




