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炎垂れて、命燃ゆ ─炎宿す少女、灯火を掲げる─  作者: 東歌
生存適性統理育成選抜試験編
12/25

それは炎ではない

ルーカスさんが膝をつく。


「……ルーカスさん」


何も言わない。言えないのだろうか。


当然だ。さっきからずっと、気を張って戦っていたのだから。


やがて、ブザーが鳴り響く。


『対象者の身体的異常を察知。転送します』


そしてルーカスさんも、ダリアさんやノアさんと同じく脱落した。


私の背後で、タイルさんがフッと息を吐き出す。


「……あと一人」


ただただ作業をこなすような、冷たい目。


こっちが、本物のタイルさんだ。


「トモリちゃん、私の期待を裏切らないね。ねえタイル、この子面白くない?」


元の姿に戻ったアリシアさんがはしゃいだ様子で言う。


「全くもって面白みを感じない」


吐き捨てるようにそう言った。


「なんで、わざわざ入れ替わるようなことしたんですか」


別に、タイルさんとアリシアさんが入れ替わる必要など無かったはずだ。


どうしてわざわざリスキーなやり方をしたのか。


「アリシアが言うことを聞かないからだ」


アリシアさんが答えてくれると思っていたが、意外なことにタイルが答える。


「アイツは面白そう、試験で戦ってみたいとか言って聞かなかった。こうやってお前を試すことができたら、真面目にやっても良いと言ったからこのことをしたまでだ」


「タイルだって、結果的に面白いものを見れたでしょ?」


「さっき面白くないと言ったはずだ」


「えー、つれないなあ」


アリシアさんは口をへの字に曲げ、不満そうな顔をする。


なんだかアリシアさんがいると、戦場にいるという意識が薄くなる気がする。


「でもね……」


アリシアさんが私の方に近づいてくる。

私の顔を覗き込む。


「まだなんだよねえ」


「はい?」


私は思わず聞き返す。


「まだ」とは何を言いたいのか、私には検討がつかない。


「なんか、まだ隠してる気がするの」


「もうなにも隠してることなんてないですけど」


本当になにもない。アリシアさんの前で炎の権理も使っているんだし、隠していることはない。


「もういいアリシア。さっさとやるぞ」


タイルさんが戦闘態勢に入る。


こちらへ一歩踏み出してきた。ガラスの破片を踏むことも厭わず、ザリザリと破片を踏み潰すような音を立ててやってくる。


次の瞬間、銃声がこだました。


反射的に横へ跳ぶ。なんとか回避でき、銃弾は先程まで私が立っていた部分の床を抉る。


私の身体能力で、これを避け続けるのは厳しいかもしれない。


──炎纏えんてん


一時的な身体能力強化。気休めには丁度いいだろう。


間髪入れずにもう一弾放たれる。


アリシアさんからの発砲だった。


避けながら、タイルさんに一気に詰め寄る。


もしタイルさんの権理が言葉での命令能力だとするならば、喋る暇もなく攻撃すれば──。


「Kneel」


炎纏えんてんの身体能力強化でも間に合わなった。私は言葉通り、膝をつく。


強く床に叩きつけられる。


恐怖。


身体が、心が理解しようとしてしまっている。


この人には勝てない、と。


「残念、トモリちゃん。もっとお話したかったなあ」


戦場に似合わない気の抜けた声。


せめてもの抵抗で、私は朱色の炎を出す。手のひらが、少し暖かくなった。


「終わりだ」


タイルさんが銃を構える。


指が引き金にかかる。


発砲される。


そのときだった。


胸の奥で、何かが揺らぐ気配。


手のひらの炎がぐらりと揺れる。


「……ん?」


朱色の炎が、徐々に色を変えていく。


朱色から、紫色へ。


紫色から────


蒼色へ。


それと同時に暖かみが失われる。


青い炎は、赤い炎より熱いはずなのに熱くない。むしろ、冷たいのだ。


そしてこの炎は、何も燃やしていない。


蒼い炎が揺れる。


ただ、目に見えない何かが消滅していく。


身体を縛りつけていた感覚がふっと消える。


焼ききれたかのように。


「……なんだそれは」


タイルさんが、分からないものを見る目をしていた。


「……あはっ」


アリシアさんが笑い声をあげる。


「トモリちゃん、期待を裏切らないね」

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