炎の跳躍
真っ黒だった世界に突如光が差した。
雀が鳴く音がうるさいほどに耳に入る。
私はゆっくりと目を開く。
そこは見覚えのない教室だった。
窓が空いていて、だからあんなにうるさかったのか、と理解した。
雀は太めの木の枝にちょんと佇んでいて、可愛らしかった。
そうだ私、アリシアさんに奇襲されて……皆はどうなっているのだろう。
私はすぐに腕時計を見る。
【残りグループ数:8】
2日目の昼頃という時間なこともあり、グループの数はだいぶ減っていた。
そしてミニマップで私の現在地を確認する。
私は先程奇襲された棟とは別の棟まで移動していた。
きっと誰かが私を運んでくれたのだろう、今すぐ皆のところに合流して少しでも貢献しなきゃ。
私は教室の窓に張り付いた。
右から左へと視線を走らせる。
すると、長い黒髪が目に入った。
ルーカスだ。
ローズさんが目に入る。
彼女は突如、アサルトライフルを構える。
今までに無いほど嫌な予感がした。
ローズさんが模擬弾を放つ。
壁に叩きつけられたのは──
ノアさんだった。
金髪が揺れる。
そして間もなく、ノアさんは消えた。
流れ星のように一瞬の出来事だった。
でもそれは、流れ星のように綺麗なものではなくて、とても残酷なものだった。
生存適性統理育成選抜試験。
改めてその名前を思い出した瞬間だった。
ダリアさんもここからは見当たらない。
二人とも脱落してしまった可能性が高い。
今すぐ向かわなければ、と立ち上がったその時だった。
「眠り姫のお目覚めだね」
後ろから、するはずのない人の声がする。
血の気がサッと引いていく感覚がした。
「やっほー、ビックリした?」
先程まで雀がいたところに、アリシアさんがいた。
投げ出された足をブラブラと動かす。
「アリシアさん……」
「あ、警戒してるでしょー。私だって、トモリちゃんを傷つけたくてやった訳じゃないんだからね。文句はタイルに言ってよ」
私が何も言わずとも流暢にペラペラと話す。
「アリシア、無駄話しないで」
箒に乗ってやってきたセイラさんがそう言いながらこちらに近づいてくる。
次の瞬間、箒が鋭く空気を裂く。
速い。
私は身を翻し回避する。
「あ、避けるんだ」
上から声が降る。
セイラさんが天井近くまで上昇していた。
背後から気配がする。
私が振り向くとアリシアさんがいた。
素早アリシアさんの傍を通り抜けた。
これで一瞬だけど、時間は稼げる。
そう思った時。
私が進んだ先にも、またアリシアさんはいた。
明らかにおかしい。
ついさっきの出来事なのに、あまりにも移動が早すぎる。
そっと後ろを振り向く。
そこにもまたアリシアさんはいた。
二人に分身している。
「どっちが本物でしょーか?」
ニコニコと純粋な笑みを零す。
一瞬判断が遅れる。
それをセイラさんは見逃してくれなかった。
攻撃が来る。
私は反射的に床を蹴る。
セイラさんがこちらに向かって箒を振る。
衝撃が走った。
なんとか剣で受け止められたが、身体が後ろに弾かれる。
私はすぐに立ち上がった。
セイラさんは、空いていた窓から外に出ていて、誰からも攻撃されないであろう安全地帯から攻撃を繰り出そうとする。
『権理は極力使わないようにしたいです』
昨日の自分の発言を思い出す。
この状況だと、もう使うしかない。
私は剣に炎を付ける。
模擬戦用の剣だったので壊れないか心配だったが、防火性のようで燃えることは無かった。
私は走った。
まっすぐに、窓へ。
「そこから逃げるの?」
違う。
窓枠を踏み台に私は飛んだ。
身体がグワンと浮かぶ。
「え───?」
セイラさんの目が大きく見開かれた。
やっぱり。
この距離だったら、剣だけでも届く。
剣に付いた炎がより一層強く燃え上がる。
剣を振る。
切ったのはセイラさんじゃない。箒の穂の部分だ。
私はすぐさま木の枝を掴む。
そして勢いを付けて木に登った。
セイラさんの箒は穂が無くなったことにより、箒は飛行能力を失う。
「あ……」
セイラさんの体勢が崩れ、彼女の身体が大きく傾く。
箒から滑り落ち、落下する。
『危険を察知。転送します』
セイラさんの腕時計から、無機質な音が響いた。
強い光が辺りを包む。
そしてセイラさんの姿はどこかへと消えた。
「わーお」
アリシアさんが手で小さく拍手をしながら感嘆の声を上げる。
分身の姿はもう無かった。
「まさか飛び出すだなんて。ふつーそんなことしないよ?」
「別に、反射的にそうしただけ」
私は木の枝から建物内にジャンプして入り込む。
ルーカスのところに行かなきゃ。
そう思い走り出した。
「私の相手はしてくれないんだ」
アリシアさんの声がどんどん遠くなる。
「セイラがやられたんなら私戦う意味ないし。別に追いかけなくていいよね」
ずっと何かを喋っていた。
最後の方は、何を言っているのか私には聞こえなかった。
トモリちゃんの背中がどんどん遠ざかる。
「まさかあんな行動出るだなんて」
私は小さく笑った。
「普通、外に飛び出さないでしょ。怖いとかって思わないのかな」
私はセイラが落ちていった場所を見つめる。
「でも、私の仕事はこれからだよね、タイル」
本人に聞こえることのない言葉を言う。
「またすぐ会おーね、トモリちゃん」
私はどこまでも続きそうな長い廊下を一人で歩く。
「あなたが気づいてくれるか、分かんないけど。期待してるよ、トモリちゃん」




