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あの果てしない空の果て  作者: kai
陽光掃討作戦編
44/46

44.三歩進んで二歩下がる

『有巣・無堂のS級ラジオ!』

無堂「さぁ始まって参りましたS級ラジオ!」

有巣「え?何これ。」

無堂「さて本題ですが...有巣さんって巨乳派ですか?それとも貧乳派ですか?」

有巣「えぇ...どっちでも良いだろ......」

無堂「えーおもんな。つまんない男はモテませんよ。」

有巣「余計なお世話で〜す。」


たぶん続かない

「1日1歩、3日で3歩......」

現れたり消えたりを繰り返しながら、骸のような龍は渋谷上空でとぐろを巻いている。

「俺だけでも、1日に5歩進めれば......」

龍の名は有巣仁理。強さに憧れた、哀れな男である。



「すみません。」

斑目の緊張を、間の抜けた声が破る。

「......はい。」

振り向くと、見るからに優しそうな好青年がそこに居る。

「えっと...その白いのって何なのかわかります?」

サラサラな茶髪。何の装飾もない服に、ダメージの入っていない新品のジーンズ。そのラフな服装から、斑目は彼が戦いに来たのではないただの民間人であると推定した。

「多分、結界ですかね。うちの代表が何とかするので、気にしなくて大丈夫ですよ。」

「そうですか...良かった。」

胸を撫で下ろし、青年は微笑む。

「危ないので、私の近くには居ない方が良いですよ。」

「お気遣い、ありがとうございます。」

男の名は石動翔太(いするぎしょうた)。今はまだ、クラス指定の無い男である。



「趣味が悪いですね。魔獣さん。」

水を固めて剣を作り、舵原は笑みを浮かべる。

視線の先には人型の魔獣。民間人をいたぶって遊んでいる。

「その呼び方、納得出来ないなぁ。」

僅かに顎を上げ、魔獣は言う。

魔人(まひと)って呼んでくれよ。」

魔人(まじん)でしょう。日本語すらマトモに扱えないとは、やはり知能もたかがしれているんですね。」

「言語は交渉の手段だ。そして、交渉は弱者の手段だ。」

「まるで、自分が強者側であるかの様な物言いですね。」

沈黙。

刹那、魔人は骨を拾って投げる。

そして、舵原は水を鋭く飛ばし、骨を両断した。

「ウォーターカッター!たとえ液体でも、速度か密度があれば鋼鉄すら両断出来るんですよ!」

「ンヒィッ!!!」

魔人は掌から銃が出現させ、即座に発砲する。

しかし、危なげもなく回避する舵原。

「銃弾回避するとか!!それでも人間かよ!!」

「その言葉、お返ししますよ。人間の兵器を使うなんて、それでも魔獣ですか?」

銃弾を水で受け止め、そのまま射出する舵原。

「んぎぃ!?」

魔人の頬を掠めた銃弾は、魔力を中和し白煙を上げる。

「祈りを受けた銀の弾丸。誰に仕込まれたんですか?」

頬から流れる構造液を拭い、魔人は嗤う。

「ハッハ。訊く気なんてねェだろ。確信に満ちた顔してる。」

顎を引き口を開け、尖った舌を出す魔人。

舌の上に、魔法陣と口が浮かぶ。

「術式展開ィ!!」

魔人から大量の魔力が溢れ出す。

「『害幡葛籠(がいまんかつろう)』!!」

術式結界が完成すると、中には骨で出来た壁が構築される。

「結界内のどこへでも俺の手が届く!!何でも作り出せる全能の領域だ!!!」

天蓋が白く染まり、そこからロードローラーが出現する。

「潰れちまえよ!!!!」

「結界術の対策は2つ。一つは破壊、もう一つは上書き......」

両手を組んで魔力を練る舵原。

「受け売りだけどね。」

大量の魔力が舵原から溢れ出す。

「な......!?お前!まさか...ッ!!」

「異能解放『天禍鏖蓋(てんかおうがい)』」

青い結界が通路をこじ開ける。魔人の結界を上書きし、舵原の能力が空間に溢れ出す。

能力結界『天禍鏖蓋』。舵原良也の能力『水操作』の第二層を核とした効果の拡張。

『水操作』の第二層効果は、空間内に存在するあらゆる液体の支配である。

「“潰れちまえよ”でしたっけ?」

舵原良也。有巣仁理の高校時代の同級生であり、良き理解者であり、親友である。

「そのまま、お返ししますよ。」

舵原良也。高校一年生でAクラス認定を受け、一級能力免許を取得した、頭脳明晰、文武両道の好青年。

「うあ...あ......あぁ......!!!あがっ、がああ!!!」

そして舵原良也は、たった2ヶ月で魔力の扱い方をマスターし、たった2週間で能力の第二層に到達し、たった2日で能力結界の構築のコツを掴んだ。

「無様ですね。ああはなりたくないものです。」

いわば、天才である。

舵原が能力結界を解いた直後、近寄る影が一つ。

「やぁ、兄さん。」

男の名は舵原秀也(かじはらしゅうや)

舵原良也の弟である。

「秀也......?どうしてここに?」

「どうして?そりゃあ......」

秀也はマスクを外し、継ぎ接ぎだらけの顔を露見させる。

「兄さんを殺すためだよッ!!」

氷が通路を覆う。

「戦う理由の方は訊いてないんだけどね。」

良也は、湿度が下がるのを肌で感じた。

「お前はいつもいつも!!そうやってスカして!“何も問題無い”って!自信を持って!!」

能力結界解除後は能力が疲弊する。故に、能力の運用はおろか、起動すら困難な状態になる。

「何もかもを持ってて!!僕から全てを奪って!!」

能力の疲弊はすなわち脳の疲弊である。故に、高度な操作を要する魔力の練成は困難になる。

「お前が天才だから!!僕は比べられて!!貶されたんだ!!」

空気が揺らいだ。

巨大な悪感情による、霊力の漏出だ。

「お前がいるから!!僕は!!!」

そこで、良也は秀也に駆け寄り、強く抱き締めた。

「僕は......!!」

秀也の目から涙が溢れる。

「......秀也。」

「...兄さん......」

「...ごめん。今まで、...いや、今でも見えてないかもしれない。」

漏出していた霊力が蒸散する。

「秀也。」

目を合わせ、良也は秀也の冷たい肩に手を置く。

「頑張ったんだね。」

「......ごめん、兄さん。」

白い息が秀也の口から漏れる。

良也の指先から、凍結が始まった。

「兄さん。僕は...ただ、誰かに認めて欲しかったんだ。」

秀也は静かに、良也の手を退けようとする。

しかし、良也は手を離さなかった。

「......やっぱり、兄さんは優しいな。」

強情な良也の手を、秀也は力の入らない手で握る。

「僕は別に、兄さんを憎んでなかった。兄さんには能力があって、なんでも出来て、誰とでも仲良くなれて、だから皆に褒められる。けど、兄さんが悪いんじゃない。」

半分ほど凍結した顔面で、秀也は微笑む。

「僕はただ、兄さんに認めて欲しかった。」

「秀也。全部終わったら一緒に帰ろう。父さんも母さんも心配してる。」

「2人が?」

「あぁ。いつも警察署に行って、“秀也を捜してください”って。」

「心配なんて...してないと思ってた。」

「実の息子の心配をしない親なんて居ないよ。」

微笑み合う両者。

「でも...もう......」

その時、

「はぁい!しんみりしてるとこ失礼するよ!」

どこからか現れた有巣がパン、と手を叩く。

「有巣!結界の解析は?」

「終わった〜。後は解除するだけ。」

トン、と有巣が秀也の肩を叩く。

すると、通路を覆っていた氷が即座に消滅した。

「速いね。相変わらず。」

「体温はゆっくり上げな。いきなり上げると温度差で風邪ひくからな。」

そう言い、傍に座る有巣。

「その凍傷は能力適合障害による物だ。だから治すには能力を消すしかないんだ。悪いな。」

迷わず首を横に振る秀也。

「僕が悪いんだ。僕が」

「ただ。」

秀也の言葉を遮る有巣。

「ただ、だからといって解決するわけじゃない。戦闘能力の無い一般人が1人...いや、2人増えた訳だからな。」

「あぁ...ごめん。」

ばつが悪そうな良也を見て、秀也がハハ、と笑う。

「と、いうことで」

その時、有巣のスマホからけたたましい着信音が響いた。

「マジか......ッ!!」



線路の上にて、真っ直ぐな杖を振る新城。

「有巣が見てたアニメみてぇな構図だな。」

ホームには人が溢れかえっている。

そして、新城と相対するのは三体の魔人と5人の鉄仮面。

「わざわざ不利な屋内まで来てやったんだ。」

杖が空を切り、低い音を鳴らす。

その時、1人の鉄仮面が1歩前へ出る。

「いやはや。いやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやッッッ!!!!!」

鉄仮面を外し、男は充血した目を更に見開く。

「いやはやッッッッ!!!!!」

男は鉄仮面を落とし、ブツブツに荒れた頬を引き裂かんばかりに掻きむしる。

「すばッ!!すばッ!!!素ン晴らしいッ!!!!」

ゴキッ、と音を立てて男は首を真横に傾ける。

「ン是非ィ!!我が主に献上せねばァ!!!」

雷鳴。同時に、男の肉体が衝撃に耐えかねて四散する。

しかし、次の鉄仮面が仮面を外し、ブツブツの顔を露わにする。

「ンヒィ!!」

「はは。きめぇな。」

独特な音を立て、杖がレーザーのような光を帯びる。

「コンパクトに戦うのは苦手なんだがな。」

杖を斜めに振り、魔人と鉄仮面を一掃する新城。

「素ン晴らしいッッッ!!!実にィ!!実に素ン晴らしいィッッッッッッ!!!!!」

「すばラララララ!!!!」

「素晴らしい!!!素ン晴ルァしい!!!!」

ホームに溜まった民間人が次々と喚き始める。

その様子を見て、新城は長い溜め息をついた。

「お前ら全員グルかよ。」

事前に、天道穂香...から話を聞いた有巣仁理から、皆に共有された情報がある。

永井信彦。綾取廻事件にて、天道穂香を討つべく出撃した能力者。彼の能力『転写』は、自身の死後、事前にマーキングした相手に自分の記憶や意識を植え付ける能力だ。なお、魂の同一性が担保されないため、転写前の人格と転写後の人格は、厳密には同一人物ではない。

「んじゃあ!!派手にやれるなぁ!!!」

加えて転写前、マーキング時の肉体に刻まれた能力は、転写後の精神にも引き継がれる。

「素ン晴らしいィィィイイイ!!!!!!」

轟音。天蓋が弾け飛び、民衆は焼け焦げ、将棋倒しになる。

「す」

独特な音を立て、レーザーの剣がホームを輪切りにする。

「範囲攻撃持ち相手に、相性の悪ぃ能力だな。」

新城の背後で電車が止まり、窓が割れて中から大量の“男”が出て来る。

「申し遅れましたねェ......」

先頭の1人を残し、雷撃によって他の“男”が全滅する。

「私の名はアンノウン・アンダー・アンジェラレジアン。敬虔な、信心深い、純潔の教徒です。」

鉄仮面を外さないその様子に、新城は間違いなく“本体”を感じた。

「本命登場...って訳か。」

間違いなく、アンノウン本体にも雷撃は命中していた。しかし、彼は撃沈していない。

(有巣が言ってたな。電気は電気抵抗?が少ねぇモンの方に優先して通るから、水に濡れてるヤツとか、車の中に居るヤツは雷に撃たれても無事だ、と。)

金属同士がぶつかる音。

アンノウンは直剣で応戦している。

「やはりィィ!!ン私の眼に!!狂いは無かったァァアアッッッ!!!」

レーザーがアンノウンの剣を避けている。当然、新城もその事に気付いた。

(『草薙剣』に兄弟が居る...か。俺ぁ馬鹿だから良くわかんねぇけど。)

数秒間で幾百ものやり取りを繰り広げる両者。

その間、ずっと騒ぎ続けているアンノウン。

そして、決定打に欠ける新城。

「ンお強いィィィ!!!」

杖の先端が額にクリティカルヒットし、アンノウンは大きく後ろに飛ばされる。

「素ン晴らスィイイイ!!!!」

軽々と壁に着地するアンノウン。

直後、新城の周囲の空間が大きく歪み、

「献・上・せ☆ね☆ばッッッ!!!」

莫大な重力の奔流が新城を潰さんと伸し掛る。

「そしてェェ!!そしてソシテそしてそ☆し☆てッッッッ!!!!!!」

地面が大きく凹む。流石の新城も顔を歪め、喉の奥から低い呻き声を漏らす。

「粛清せねば。」

全身の骨が軋む。

そして、ポケットの鉛筆が折れる音が新城の耳に届いた。

(鉛筆......?)

ふと、新城の足りない頭にある考えが浮かぶ。

「っっっらぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

危うく地に伏しかけていた新城が上体を起こす。

「なにッッッ!?!!?!?」

雷鳴。次の瞬間、新城のつま先がアンノウンの顎を捉える。アンノウンの身体は、僅かに残った天井を破壊して遥か上空まで跳ね上げられた。

再度の雷鳴。新城はアンノウンより上に跳び、踵で蹴り下ろす。

(有巣は......)

未だ、白い龍はもっと高い場所でうねっている。

(......まだ忙しいか。)

「余☆所☆見ッッッ!!!」

熱線が新城を掠め、背後のビルを両断する。

「素ン晴らしい反応速度ッッッ!!!素晴らしい!!素ン晴らしいィィッッッ!!!」

新城が杖を構え能力発動の体勢に入る。

しかし、雷撃は発生しない。

(電池切れか......!!)

「電池切れデ☆ス☆かッッッ!!!」

アンノウンは雲に乗り新城を追い掛ける。

能力による制御を失った新城は抵抗する暇もなく、アンノウンの熱線を至近距離で浴びてしまう。

「頑強ッ!!通電どころか熱にまで耐性があるなんてッッッ!!!」

新城右玄の電気耐性は身体適格ではなく、常在能力『蓄電』によるものである。そして、そのことを柊陣営は知らない。

「身体適格にも限界があるッ!!アナタの!!最も得意とする技!!最も親しい属性でッッッ!!!」

新城の耳元に寄るアンノウン。

「アナタを破壊します。」

雷撃。その衝撃波で周囲の建造物が一気に崩壊する。

再度の雷撃。熱と音で空気が揺らぐ。

再度の雷撃。その時、

新城の眼が光る。

「鳴式」

新城の拳が電撃を帯びる。

「大技同士のぶつけ合い!!!生命の躍動!!素晴らしい!!素ン晴らしいッッッ!!!」

エネルギーが膨張する。

「それでは!!!此方も受けて立たねばッッッ!!」

両者の間に緊張が走る。

「『轟』!!!!」

「破壊せねばァァァ!!!!!」

拳同士が正面からぶつかる。

新城の拳骨にヒビが入る。一方、アンノウンには対してダメージが無い。

技を出し切り、両者は大きく後ろに跳ぶ。

「互角ッッッ!!素ン晴らしいッッッ!!!」

「ズルしただけだろ。外付けの能力でイキってるだけのカスが。」

危なげもなく着地する両者。

「その意気、素晴らしい。しかし、しかししかししかししかししかししかししかししかしィィィ!!!」

雷鳴。新城は傍に落ちていた鉄パイプで剣を止める。

「戦いは結果論!!カスだろうがクズだろうが!!!勝てば“正義”なのデスッ!!!」

舌打ちする新城。

(共振パンチでもダメなのか......)

新城の『轟』は、有巣のそれとは違い、電撃で拳を振動させるものである。故に、電導性の高いアンノウンの装備に撃てば、電気が散らされ精度が落ちる。

しかし残念ながら、新城は共振の原理を知らない。

鉄パイプが焼き切れたため、大きく後ろに飛ぶ新城。

「おやぁ?お気に召しませんでしたかねぇ?」

新城は電磁力で杖を呼び寄せる。

「他でもない有巣仁理様の言葉なんですが、ねぇ。」

「アイツを神格化すんじゃねぇよ。」

新城が浮遊する。

同時に、周囲の瓦礫が浮遊する。

「有巣はただのやる気のねぇガキだ。」

「神を......信じないのですね?」

新城は答えない。

緊張が高まる。

アンノウンの口から、鋭く息が入り込んだ。

「―――エキスパンション」

結界が構築される。

周囲の空間にアンノウンの魔力が流れ出す。

「『アンリミテッド・ノワール』」

アンノウン・アンダー・アンジェラレジアンの能力名は『ノワール・オブ・トロイア』。変幻自在の闇を操り、あらゆる能力の効果を再現する能力である。

「闇はすなわち万物の裏!!!」

一度に生み出せる闇の量には限りがある。

「万物を再現しうる!!神からの寵愛ッ!!!」

その能力結界『アンリミテッド・ノワール』は、取り込んだ相手を闇に溶かすことで、闇の量を増やす効果を持つ。

「神聖な...能力なのです......」

一方、新城は右手で掌印を組んでいる。

「神聖な......神聖な...アナタ......?」

彼が用いているのは簡易結界の一種である。

有巣仁理考案、菅原紗良(すがわらさら)開発、そして舵原良也直伝の簡易結界『(トバリ)』。

「寵愛を...受けている......?」

世界からの寵愛を受ける者のみ使用を許される、神聖魔法の一つである。...とされている。

結界術や魔力が使えない者のための、能力結界への対抗策である。

「“霹靂”」

打撃がアンノウンを弾き飛ばし、結界の外壁を割る。

「結界を解いたのに何故ッッッ!!!???」

「効果が効く前にぶん殴りゃ勝てんだよ。」

などと言いながら、新城の左腕は黒く染まり溶解している。

「終わりにしよう。」

新城の鼻から血が滴る。アンノウンの能力が効いているのだ。

顔を手で覆い、アンノウンは大きく仰け反る。

「いやはや!いやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやいやはやッッッッ!!!!」

上体を起こし、両手を大きく広げるアンノウン。

「素晴らしい!!!素ン晴らしいッッッ!!!」

仮面の下の隙間から血が滴る。疲弊した状態で能力結界を使用したためだ。

両手を新城に向け、目を合わせる。

「アナタこそ、神に相応しい。」

刹那、新城が動いた。

右手に握られているのは、真っ二つに折れた鉛筆の片方。そして、その先端はアンノウンの仮面の隙間から素肌に刺さっている。

「アナタこそ!!!世界の救世主にッッ!!!!」

電撃。アンノウンの身体が大きく跳ねて痙攣する。

「あっ、あがッ!あがががががががガガガがが!!!!!」

肉の焦げる匂いが鼻を突く。

数秒後、力を失い、アンノウンが膝から崩れ落ちた。

「鉛筆の芯、黒鉛って素材らしいな。」

新城は鉛筆を投げ捨てる。

「電気を通すらしいな。」

新城は乱雑にアンノウンの仮面を剥がす。

「っはは。汚ぇ顔。」

肌が荒れていない。つまり、適合しない能力を与えられていない、ということである。

「寵愛か。似たようなもんだろ。」

アンノウンに背を向けて歩き出す新城。

ポケットに手を突っ込むと、ガシャ、と音がする。

「あぁ...スマホ、壊れたか......」

男の名は新城右玄。

皆に『霹靂神(ハタタガミ)』と呼ばれる男である。



大量の魔獣を前に、構造液塗れの斧を握り直す井桁。

「めっちゃ多いな......みんなのとこにも居るのか?」

「いないよ。」

魔獣の群れが道を開け、中央から魔人が現れる。

「人型の魔獣......?」

魔人(まひと)って呼んでくれよ。」

魔人(まじん)じゃなくて?」

発砲音。井桁は危なげもなく銃弾を斧で弾く。

そして、舌打ちする魔人。

「どいつもこいつも当たり前のように銃弾避けやがって。」

「人間の武器使ってる方がおかしいと思う。」

「お前もあの水野郎と同じこと言うのか。」

「......水野郎?」

井桁の眉間に皺が寄る。

「...そいつをどうした。」

魔人がニヤッと笑う。

「殺した。」

衝撃。

斧を振り下ろした余波で床が割れ、瓦礫で魔獣がいくらか潰れる。

「ぶっ殺す!!!」

「カッカすんなよ!!人間!!!」

2度の発砲。しかし外れる。

魔人が掌から鎌を出し、井桁の横薙ぎを受ける。

「んオッ!?」

しかし、その重さに耐えかね、魔人は大きく横に飛ぶ。

壁に凹みを作った魔人は、体勢を立て直してニヤリと笑う。

「強い!けどな......」

井桁蒼太は本来、非能力者である。しかし現在は、まじかる☆マーゴの能力によって能力者5人と接続中である。そのため、『恵体』『無尽蔵』『会心』『超速再生』の効果を共有し、『核融合』に生み出されたエネルギーを使用出来る状態にある。

「軽いんだよ。」

慣れない能力は使用しても効果が落ちる。故に、現在の井桁は共有された5つの効果を完全に発揮出来ていない。だが、会心カウントが50回を超えれば、『会心』のバフ効果によって『恵体』が引き出せる。

(多分、会心が入ってたら殺せてた...運がねぇな......)

現在、撃破数53に対して井桁の会心カウントは5回。

不運中の不運である。

(会心が発生すれば......!!)

その時、斧が割れた。

「な......っ!?」

「トドメぇッッッ!!!」

鎌が眼前まで迫ったその時、

「かと思った?」

井桁は、指先でつまんで止めた。

「なに!?」

そのまま柄を掴み、魔人を放り投げる。

しかし、魔人は空中で反撃の構えをとる。

「ンハァ!!」

身を伏せて鎌の横薙ぎを避ける井桁。

しかし、本命は、

(斧......!!)

井桁が先程まで持っていた斧と同じデザインのものである。その斧が、井桁の脇腹に命中した。

「ぐ......ッ!!」

斧の刃先は間違いなく鋭利であった。

井桁のものに比べれば威力も十分である。

「ッはぁ!?」

井桁は脇腹から流血している。

しかし、斧は肉に到達せず、皮膚の深さで止まった。

「へへ。軽いな。」

「バケモンがぁぁああ!!!」

鎌を落とし斧を落とし、魔人は無様に走り始める。

「逃げるな!!!」

無論、ノータイムで追い掛け始める井桁。

しかし、魔人は羽毛布団を出して井桁の視界を塞ぐ。

「クッソ!卑怯だぞ!!」

井桁が布団を退けた時、既に魔人は遠くまで走ってしまっている。

「待て!!」

その健脚で追いかける井桁。

このままなら追い付ける。

このままなら。

「なん......」

足が止まる。

視線の先には魔人の背中。

その向こうには、宮本双葉。

「宮本さん!!」

「井桁くん!?この人は!?」

魔人は掌から銃を出して構える。

「避けろ!!!!」

「えぇ!?!?」

身体を捩り回避行動をとろうとする宮本。

次の瞬間、発砲音が長い廊下に響く。



「天道穂香ァ!!」

あまりに威勢の良い声で呼ばれたため思わず振り返りそうになる穂香。しかし、有巣と綾取の言いつけを思い出してぐっと堪える。

「駄目かぁ...駄目なのかぁ...仕方ねぇなぁ......」

その時、

「助けてくれ!天道穂香!!」

有巣仁理の声。

思わず振り返ってしまう穂香。

長髪の男が、変声機と大きな瓢箪を構えている。

しかし、瓢箪の効果は発動しない。

「あれぇ?壊れたのかぁ?」

次に、男の視界に名札が映る。

「......有巣仁理?」

次の瞬間、穂香が瓢箪に呑み込まれた。


通常、素人が撃つ銃の命中率は限りなく低い。理由は、反動や弾道の制御が素人には出来ないためである。

魔人であっても例外ではない。複数回の使用経験があれど、走りながらでは命中率は著しく低くなる。

命中率。確率が関与する事象。

宮本双葉は直前まで会心カウントを貯めていた。バフ効果とは違い、カウントと会心率はマーゴの能力によって共有されはしないものの、先程までの宮本だけは100%銃弾を回避出来る状態になっていた。

「みやっ......!」

しかし、天道穂香の封印によりマーゴの魔力に乱れが生じ、『想ひ紡ぐ連星(ミラキュラステラ)』による接続が一瞬だけ途切れた。

それにより、一瞬だけ『会心』はOFFになり、宮本双葉の会心カウントがリセットされた。

「宮本さん!!!」

宮本は50%の確率で銃弾を回避出来る可能性があった。逆に言えば、どれだけブレていても50%の確率で命中するのだ。

「宮本さん!宮本さん!!!」

宮本に駆け寄る井桁。

銃弾は、宮本の心臓に命中していた。


「天道が......封印された......!?」

Tips:能力結界の掛け声

能力結界を展開する際の掛け声には個人差がある。理由は、能力結界がここ数年で開発されたばかりの能力であり、まだそこまでメジャーではないためである。

以下は本編に登場したもの。

・「異能解放」

初出:五十嵐唯織

最も使用者が多い掛け声。一昔前のBLEACHブームの流れを汲むもの。

・「二層解放」

初出:有巣仁理

おそらく有巣しか言っていない。目的は「俺は第二層に至っているんだぜ」という名目の威嚇である。なお、能力結界を展開した時点でほとんど勝ちが確定するので意味は無い。

・「術式展開」

初出:名無しの魔人

この掛け声は術式結界への使用がメジャーなのでかなりマイナー寄りの使い方。魔術や霊術の使用者は混乱を誘う意味で使用することがある。有巣もこれに変更するか検討中。

・「エキスパンション」

初出:アンノウン・アンダー・アンジェラレジアン

結界名が横文字の者が合わせて使いがち。しかし、アンノウンにそんな美学は存在しない。誰かに教わった訳でもなければ、誰かの真似をしている訳でもない。彼は「お告げ」だと信じてやまないのである。

・その他の例

「奥義」「空間閉塞」「大技」「真打」「卍解」「領域展開」など

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