43.渋谷、開戦
Tips:有巣探偵事務所
有巣が大学を辞め、事業申請を通したため生まれた事務所。“探偵”の名を冠することで、Aクラス以下の人員も合法的に警察や評議会からの依頼を受けられる。
『最下位は...ごめんなさ〜い!獅子座のあなた!』
「最下位か。ツイてねぇな。」
情報番組の星座占いを観ながらお茶漬けを味わう有巣仁理。その様子に、まじかる☆マーゴは首を傾げる。
「ひとり、占いとか信じるんだね。」
「んー、信じる信じないじゃないな...運が悪い時の逃げ先みたいな。ツイてない時に納得出来るというか。」
「へぇ。」
『ラッキーアイテムはハンカチです!』
「ハンカチか......」
『11位は蠍座のあなた!ラッキーアイテムは伊達メガネです!』
「伊達メガネ!?そんなものが勧められるとは。」
目を丸くする舵原良也。
「舵原、蠍座なのか?」
井桁蒼太が訊く。
「あぁ。一応、伊達メガネを持っておこうかな。」
「そんなの何処で使うんだ...?」
『10位は牡牛座のあなた!ラッキーアイテムはタオルです!』
「俺のはタオルか。」
「伊達メガネよりは役に立ちそうだね。」
『9位は魚座のあなた!ラッキーアイテムは割り箸です!』
「割り箸!?」
面食らった様子の酢漿菜々。
「ってか9位かぁ...今日ヤバいかもなぁ......」
「酢漿ちゃんは占いとか信じるんだね。」
綾取廻に訊かれ、酢漿は胸を張る。
「まぁ!女子力あるからね!!」
「それって関係あるの?」
「あるよ!めっちゃある!」
『8位は双子座のあなた!ラッキーアイテムはメモ帳です!』
その時丁度、無堂瑞希がやって来たため、綾取が声を掛ける。
「無堂ちゃん、8位だって。」
「えー...微妙ですね。ラッキーアイテムは?」
「メモ帳らしいよ。」
「メモ帳...一応持っておきましょうかね。」
『7位は天秤座のあなた!ラッキーアイテムはヘアゴムです!』
「髪を結べば良いのかな。」
「手首にでも付けておけば良いのでは?」
「なるほど。そうしようかな。」
自室の炬燵で横になっている新城右玄。
『6位は射手座のあなた!ラッキーアイテムは鉛筆です!』
(そういえば、有巣が「出来ることは全部やっとけ」っつってたな...)
「鉛筆か......」
『5位は牡羊座のあなた!ラッキーアイテムはキーホルダーです!』
首を傾げる白井響香。
「キーホルダー?」
「私の貸そうか?」
そう言うのは天道舞香。
「良いんですか?」
「もちろん!こういうときの占いは信じた方がいいからね!」
「では、出来るだけ頑丈なのでお願いしますね!」
『4位は水瓶座のあなた!ラッキーアイテムはマスクです!』
「マスク...!」
「普通に不織布のやつですかね?」
「一応ガスマスクも持っとこうかな!」
「ですね!私も持っておきたいです!」
「じゃあ後で仁理くんに頼もう!」
トレーニングルームにて、倒立腕立て伏せを片手で行う斑目詩織。
「7...8...9...1580...」
『3位は乙女座のあなた!ラッキーアイテムは軍手です!』
「軍手...!?っわッ...!!」
集中が途切れてうつ伏せに倒れてしまう斑目。
(女性が主な視聴者の星座占いで軍手...!?軍手持ち歩いてる成人女性なんて不審者でしかなくない...!?)
少し考え、斑目は独り言ちる。
「......なるほど。一応持っとくか。」
『2位は蟹座のあなた!ラッキーアイテムはハサミです!』
「らしいですよ!!」
アジトのリビングで談笑する井桁と舵原に突撃する宮本双葉。
「宮本さんは蟹座なのか。」
「“らしいですよ”と俺たちに言われても。」
ふふん!と腕を組む宮本に、2人は怪訝な顔をする。
「ハサミください!!」
「備品関連は斑目さんに言ってください。」
『そして、1位は山羊座のあなた!』
自室でギターを弾く天道穂香が、僅かに顔を上げる。
『思いがけず良い結果が舞い込む日!自分から行動すると良いことがあるかも!?ラッキーアイテムは名札です!』
(名札......?)
部屋の中を見回す穂香。すると、机の上にあるネームホルダーが目に入る。
(あれ...懐かしいな。)
ギターを置き、ネームホルダーを手に取る穂香。このネームホルダーは、知り合った当初の有巣が「名前が覚えられない」と穂香に渡した物だ。
(結局、名字でしか呼ばれなかったなぁ......)
その時、穂香のスマホにメッセージが入る。
送り主は有巣だ。
(......!有巣さんはやっぱり頭が良いなぁ......!)
2026年3月9日、20時55分。
渋谷に現着したのは無堂、舵原、井桁、新城、酢漿の5人。
「本当に動きがありませんでしたね。...でっかい妖はいますが。」
「気味が悪ぃな。」
無堂と新城が不審がる中、舵原が伊達メガネの位置を直す。
「柊が予告したのは渋谷駅の爆破だけですからね。他のことをすれば警戒される、と踏んだんでしょう。」
舵原の予測は概ね正しい。
有巣の考えでは、21時までに柊側が動きを見せれば有巣以外のメンバーを撤退させるつもりだったのだ。つまり、21時まで陣営を動かさず有巣の単騎出撃を許さなかった柊の判断は間違っていなかったということになる。
そして、眉をひそめる井桁。
「それ、本当に着けていくの......?」
「あぁ。俺の能力的に、眼鏡が邪魔になる間合いに入られればその時点で負けが確定するからね。」
「良いねぇ!似合ってるよ!」
元気溌剌な酢漿が、スキップしながら前へ出て振り向く。
「早く行こ!」
渋谷駅上空で、何かが蠢いている。
「お おゥ おウさ おうさつつつツツツつ」
多量の霊力を放ちながら、妖は地上を見下ろす。
その時、妖の上から、白い液体の様な物がドーム状に流れ始めた。
「ん...?」
魔力の気配を察知し、無堂が上を向く。
遥か上空から流れる魔力の奔流は、情報伝達の隙を与えず、瞬く間に周辺の街を覆う。
「結界!?なんで!?」
「結界が張られるとなんかマズいのか?」
後頭部を掻きながらあっけらかんとしている新城。
「マズいですよ!!撤退はおろか、ぞ」
瞬間、無堂と酢漿が倒れる。
その様子を見た井桁が目を丸くする。
「おい、これマズいんじゃ......!」
「結界で外と分断されたのか......」
自身の目の前に魔力で壁が出来たため、即座に破壊を試みる穂香。しかし、結界はビクともしない。
「穂香さん!無闇に触らないでください!」
隣に出現したマーゴが伝える。
「ど、どうすればいいですか......?」
「わかんないです......ひとりの所に行けなくて......!」
(『草薙剣』が通らない......!?)
別の場所で、斑目もまた結界を破ろうとしていた。
(能力結界じゃないのか...?なら、有巣くんでも破れないかも......!)
結界の中央、ドームの最も高い場所を見る斑目。
無論、霊力の無い彼女に、妖を視認する能力は無い。
しかし、
(揺らいでいる...?)
「!?ヤバい!!!」
「ぉうさツううううウウウううう!!!!!」
妖が渋谷を破壊すべく霊力を溜め始めた次の瞬間。
一筋の青い閃光が妖を穿つ。
すると、瞬く間に妖が黒煙となって消滅する。
閃光を放ったのは...
「なんだ、アレ......?」
井桁らの視線の先に浮かぶのは、真っ白な龍。
しかし、翼はおろか、肉や消化器官すら存在しない。ただそこには、大量の魔力と霊力、そして圧倒的な存在感だけが煌々と輝いていた。
「なんか、神化した有巣みたいだな......」
「形がだいぶ違うけどね。」
眉をひそめ、思考を巡らせる舵原。しかし、新城がそれを遮るように歩き出した。
「新城さん。今は動かない方が」
「いや、寧ろ今動くべきだろ。」
迷いなく言い放ち、新城は振り返る。
「あのホネホネが何だろうが、俺らの敵を一匹ぶっ飛ばしたんだ。なんなら味方の可能性まであるだろ。」
一瞬、言葉を失う2人だが、新城の言葉に納得して前に出る。
「確かに、俺たちのやることは変わらないしな。」
「“臨機応変な対応を”ですね。俺たちは有巣に現場を任されたんですから。」
(白い...龍...!?しかも私にも見える......!)
斑目は、龍の中で何かが煌めくのを見た。
「......ハハ。回りくどいことを。マーゴ!」
「はい!何でしょう!」
「皆に伝えて。」
その時、舞香、穂香、宮本、白井、井桁の脳内にマーゴの声が響く。
『ひとりからの指示を伝えます!上空の水餃子は変身したひとりなので放置しても問題ありません!しかし、これ以上目立てば狙われるため身を隠すとのことです!』
フフ、と微笑む舞香。
(やっぱひーくんなんだよなぁ!)
『今後の作戦は予定通り進行します!結界外との連絡が取れない上に、瑞希さんと菜々さんの分身体が消えたので戦力も大幅に不足していますが、待機班は参戦せず襲撃に備えてください!』
首の名札を掴み、力強く頷く穂香。
そして、自身の太ももを叩き続けている宮本。
(78...79......80......)
『そして最後に!絶対に自分の命を優先すること!危ないと感じたらすぐ避難すること!』
刀の鞘に手をかける白井。
『それでは、健闘を祈ります!ご武運を!』
「...らしいぜ。」
指示を伝え、斧を背中から外す井桁。
「サッと片付けて晩酌でもしましょうか。」
自身の周りに水を浮かべて舵原が言う。
「ハハ。そりゃ良い。」
そして、腕を組んだまま、新城が微笑む。
「今日は400万のワイン開けようぜ。」
Tips:妖
主に身体が霊力で構成されている非実体。平たく言えば精霊の霊力版。高位のものは自我や言語能力、特殊な術式などを持つこともある。
・術式
魔術や霊術の“型”を指す語。しかし、一般に浸透していないため能力を指す語として使う者も居る。




