オルドの襲来①
「いつにも増して分厚いな……」
夜遅く、軽く夕飯を済ませてから夫婦の寝室へと戻ってきたメンシスは、ベッドに寝転びながら手紙を読んでいるエルザに声を掛けた。
「おかえりなさい、メンシス。ええ、多分今回のは何か要件があるはずなんだけど…」
エルザは何十枚と連なっている便箋の束に目を通していく。
彼女が読みやすいようにと、メンシスはベッドサイドに置いてあったランプの位置を調整した。
「………あったわ!え……お兄様が大事な用でこちらに来たいって。しかもなるべく早くって。何かしら…嫌な予感しかしないわ。」
何十枚に渡る過剰な美辞麗句の中、ようやく要件となる箇所を見つけたエルザ。
途切れることなく届くオルドからの手紙は、毎度飽きないほどのエルザ愛が詰まっており、尋常でないほど物質的な厚みがあるのだ。
そのため、メンシスは一眼見ただけでそれがオルドからの手紙であることを悟っていた。
そして、見つけたことに一瞬喜んだものの、エルザは不穏な雰囲気を感じてすぐに顔を歪めた。
「断るわけにもいかないだろ。休みを取るから、オルド殿の予定に合わせてくれて構わない。」
「え、でも…メンシス今忙しいんじゃ……」
連日帰宅が遅く、夕飯を共にしていない二人。
夜中も寝室で仕事をしていることが多いため、エルザは心配そうにしている。
「問題ない。」
「ひゃあっ!」
いつの間にかエルザのすぐ隣に腰掛けていたメンシスが彼女の頭をわしゃわしゃと片手で撫で付ける。
手紙に視線を落としていたエルザは驚いて変な声を上げた。
「それに、俺がいない間にお前が連れ去られたら困るからな。」
「そんなことあるわけ……」
メンシスの言葉に対して否定できなかったエルザは視線泳がせた。
あの兄ならやりかねないかも………結婚もなんとか認めてもらってここ数ヶ月平和に過ごせているけれど、油断させていただけかもしれないわ。
隙を見せないように、ちゃんと幸せアピールをしないと!兄と揉め事なんて勝てる気がしないわ…
「……不安だな。心配になるから人の目に触れさせないようにしているのに。身内相手だと厄介だな。」
「へ……今なんて……??」
「ん?別に何も。エルザは黙って俺に愛されていればいいって当たり前の話をしていただけだ。」
「なっ………」
今までより遠慮のなくなったメンシスは途端に甘い雰囲気を出してエルザへと詰め寄る。
一方のいつまで経っても慣れないエルザは無謀にも逃れようと身を捩った。
「ん」
そんなことでメンシスから逃げられるわけがなく、あっけなく両手首を拘束されたエルザにメンシスの甘い口付けが降ってくる。
多少無遠慮になっても強引になっても、メンシスの触れる手が優しいことには変わりない。
「愛してる。」
耳元で囁かれ、エルザは全身から力が抜け落ちた。抱きしめてくるメンシスに体を預ける。
彼の優しさと甘さに溺れながらエルザの夜はふけていった。
***
それから数日後の午後、さっそくオルドがエルザ達の元へとやって来た。
この日のために休みを取ったメンシスと共にエルザが玄関で出迎える。
「お兄様、いらっしゃい!」
「愛しのエルザ。今日という日をどれだけ待ち侘びたことか…エルザ、少し痩せたかい?あいつに酷い扱いを受けてはいないだろうね?困ったことがあればいつでもこの僕に言うんだよ。どんな時だって一番に駆けつけるから。いつでも戻って来て良いんだからね。」
「お兄様………」
「ご無沙汰しております。オルド殿。」
キラッキラの眩しい笑顔でずかずかとモノを言うオルドと顔面蒼白のエルザ、そして顔色一つ変えない無表情のメンシス、なんとも言えない空気が漂っていた。
エルザと物理的に距離が離れたせいで、メンシスに対する攻撃力が増したらしい。
「お兄様!立ち話もなんですから、中に入りましょう。今日は大事なお話があって来てくれたのでしょう?」
「エルザ、この僕にはお前の顔を見ること以上に大事なことなんて何も無いよ。だからどうか、もっとよく顔を見せてくれ。僕の可愛いエルザ。」
エルザの介入虚しく、オルドは憂いを帯びたキラキラの瞳を向けてくる。
相変わらず顔の良いオルドはそれだけで攻撃性が凄まじく、エルザは思わず目を瞑った。
その隙にと、オルドは彼女の頬に触れようと手を伸ばしてくる。
「コートをお預かり致します。」
だが、タイミング良く現れた使用人によって遮られたしまった。
その後ろで、メンシスはよくやったと言わんばかりに頷いている。
「まぁいいさ。用があって来たのは事実だからね。」
相変わらずエルザしか視界に入っていないオルドは笑顔を曇らせることなく、彼女に向かってふわりと微笑んだ。
「エルザ、お前に会わせたい人がいるんだ。」
だが、その声はどこか切なげで不安そうな色をしていた。
個人的に出したくてウズウズしていたオルドのお話です!前置きが長くなってしまったので、分けて掲載します。




