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【完結】思い込みで死亡フラグ回避に奔走します!  作者: いか人参
番外編

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殿下の大いなる決断 最終


クレメンスは、涙を拭ったサシャーテの隣に席を移し、彼女と沢山の言葉を交わした。


初めて会った時のこと、今日までの日々のこと、それよりも前のこと、そして、これからのことを。

夜会に間に合うようにと昼前から設定されたこの場であったが、心を通わせた二人の会話が尽きることはなく、気が付けば日は傾きもう準備をしないといけない時刻となっていた。



サシャーテのことを迎えに来た侍女に彼女のことを託すと、クレメンスも夜会の用意のために踵を返す。



「とても幸せそうですね。」


控えていたアイザックが姿を現した。

そう言いながらも、クレメンスのことを見て瞳を滲ませている彼の方が感極まっているようであった。



「ああ。お節介を焼いてくれたお前のおかげだな。私は良い臣下を持った。」


「お褒めに預かり光栄に存じます。」


例えようのない喜びを隠すため、胸に手を当てワザと畏まった礼を取ったアイザック。

普段と違う彼の姿に、クレメンスは興味深そうにすっと目を細めた。



「お前も早く身を固めるといい。」


「いえそれは…」


「なんだ、何か困り事か?」


何年もの間恋愛をこじらせ散々周囲に迷惑と心配を掛けてきたというのに、クレメンスは自信に溢れた顔を見せてくふ。

相談なら乗ってやるぞと言わんばかりに片眉を上げて美しい青い瞳を輝かせた。



「困り事というほどでは…意中の相手が中々この手に落ちてくれなくてでしてね、少しばかり手を焼いている程度です。しかし、私は元より長期戦の方が得意ですから、じっくりと時間をかけて外堀を埋めて囲み、私なしでは生きていけないよう心身ともに伝え続けていく所存にございます。」


「…おい、呉々も罪は犯すなよ。」


「ふふふ。私の深い愛を伝えるだけですよ。何も心配はいりません。」


「・・・」


仄暗い瞳で笑う顔を見たクレメンスは表情を失くして口を閉ざす。

側近が犯罪者にならないよう、至急相手の特定とその者の身の安全を確保しなければ…とクレメンスは頭の中で必死に対アイザックの方針を固めていた。




***




今宵王宮で開かれる夜会は、レイ王国の現国王であるダイダロフ・ルーメンの誕生祭と銘打っているものであり、国外からの貴賓に加えて国内の高位貴族達も招待されていた。


レイ王国の貴族で賑わう会場に、貴賓として招待された各国の要人達が入場してくる。その後、サシャーテの手を取るクレメンスが現れた。


美しい優雅な足取りで皆の前へと進み、時折互いに目線を合わせて微笑み合う様子には仲の良さが滲み出ており、周囲の目を釘付けにしている。


そして二人は、王座の左に位置する椅子の前に立った。



全員が配置についたことを確認すると、アイザックが王宮演奏隊の指揮者に合図を送り、躍動的で華やかな演奏が始まった。


その演奏に合わせて、国王と王妃が姿を現した。この国の最高権威者であり今回の主役の登場に、会場内から割れんばかりの拍手が鳴り響く。


玉座に座る国王に向け、クレメンスとサシャーテの二人は恭しく頭を下げた。




本来であれば、国王からのお言葉を賜り主要貴族から王族への挨拶が始まるのだが、その前にクレメンスが動いた。

顔を上げたクレメンスは自身の椅子に座ることなく、国王の前に跪く。



「国王陛下、お伝えしたいことがございます。」


突然跪くクレメンスに会場から戸惑いの声が聞こえたが、玉座までは距離があるため彼が何を話しているか聞くことはできない。その代わりに彼の背中に好奇の視線が集中する。



「申してみよ。」


「私は、サシャーテ王女殿下と縁を結びたく存じます。今ここに我らの婚姻を認めて頂きたいのです。」


「で、殿下!」


王に向かっていきなり結婚の話をし出したクレメンスに、サシャーテも慌てて隣に跪く。

まさか自分達の結婚の話をするとは夢にも思わず、いきなり当事者となってしまったことに動揺を隠せない。



「私のことはクレメンスと呼んで欲しい。私もサシャーテとそう呼びたい。私が結婚する相手は王女ではなくサシャーテ自身だからな。」


隣に跪くサシャーテにそっと耳打ちをした。

フッと笑うクレメンスを見たサシャーテは顔を真っ赤にして俯いてしまった。何も言えずに彼の隣で縮こまっている。




「性急な話だな。」


長い顎髭を指で撫で付けながら、眉間に皺が寄る。



「私は、兄上の分まで好いた相手のことを愛したいのです。それが私の幸福であり、この他に望むことなど何一つございません。」


動揺ひとつ見せなかった国王がクレメンスの言葉に目を見開いた。彼と同じ透き通るような青い瞳が揺れ動く。


彼の兄のことはこの国では禁句であり、亡き者として扱わなければならない。幼い頃からそのように弾圧してきたはずなのに、目の前のクレメンスの口からはっきりと『兄上』と紡がれたことが信じられなかった。


そして何より、国に刃向かったとされる兄のことを想うクレメンスの姿に、胸から込み上げるものがあったのだ。

今この時にあの子が好きな相手との結婚を申し出ていれば何の問題もなかった、あの時代だからクーデターを起こす他ならなかった。人を愛せる優しい子にそこまでさせたのはこの国であり、自分の責任だ。


為政者として強く正しく振る舞うために長年押さえ込んでいた感情が溢れ出てくる。




「お前に兄などおらぬ。」


遠くを見たまま言い捨てた国王。

彼の一言で一瞬にして緊張が走った。その突き刺すような緊張が真正面からクレメンスを襲い、嫌な汗が額に滲む。

会話の聞こえない貴族達でさえ、緊迫した空気に顔色を悪くしていた。



「だが、お前のその想いを喜ぶ者はおるかもしれぬな。」


国王は、長年一緒に暮らしてきた息子だから分かる程度のほんの僅か笑みを見せた。

兄がいなくなってからは一切見ることのなかった父親の優しい顔、そして自分のことを肯定してくれたことにクレメンスは胸の奥が熱くなる。


目の前に跪き目頭に手を当てるクレメンスのことを見た国王は玉座から立ち上がった。

突然のことに驚く参加者達に向け、国王は大きく手を掲げた。



「諸君、今ここに我が息子であるクレメンス・ルーメン王太子とリヒト王国サシャーテ・リヒト王女の婚姻を宣言する!」


為政者として堂々と張り上げられた声はよく通り、参加者への耳にまで届く。


一瞬間が開いたものの、次の瞬間には会場内は歓喜の声が溢れた。

国王の宣言を受け、手を繋いで並んで立つクレメンスとサシャーテの二人に惜しみない拍手と皆の嬉しそうな笑顔が向けられる。


屋内だというのに、どこからか紙吹雪やら花吹雪まで飛んできて、祝福ムードに包まれた。

心からの祝福を受ける二人の姿に、かごを手にしたアイザックがハンカチで目元を拭っている。



「順序が逆になってすまない。サシャーテ、私と結婚して欲しい。この命の限りを尽くして愛し抜くことを誓う。」


「ええ喜んで。私は幸せにございます。」


瞳を潤ませるサシャーテにそっと寄り添うクレメンス。


ふと会場を見渡すと、ルード公爵家として参列していたフランツと目が合った。無表情だが頷いてくれたことに、クレメンスの中に説明し難い感情が沸いた。好敵手に認めてもらえたようなそんな誉に近い感覚が。

そしてその隣に視線を移すと、今度はエルザの姿が目に入った。



『どうかお幸せに』


唇の動きだけで伝えてきたエルザ。心からの祝福と笑顔と拍手をクレメンスへと届ける。彼女の想いを受け取った彼は、僅かに顎を引いた。


エルザへ抱いていた感情が恋に恋していたのか本物の恋だったのか未だに分からない。だが、彼女と出会っていなければ違いなく今の自分はいなかっただろう。

彼女と出会って感情が動いたことは紛れもない事実であり、己を成長してくれたきっかけそのもの。

人として友人として大切な人であることにはなんら変わりない。


だから、どうか君も幸せに。



フランツがいる以上自分がそのようなことを言うのは野暮だと思ったため、クレメンスは口の中だけに留めた。




「サシャーテ、せっかくの祝いの場だ。私と一曲踊ってくれぬか?」


笑顔で了承したサシャーテの手を取り、共にダンスフロアへと移動する二人。

彼らの登場に合わせて一度曲が止み、そしてまた最初から演奏が開始される。


ゆっくりとしたリズムで紡がれる美しい音色と共に、クレメンスのファーストダンスが始まった。




こちらで殿下の話は終わりとなります!ずっと心配していた彼ですが、ようやく彼らしい幸せを手にしました(´∀`)


次はオルドの話を書こうと思っています。また機会ありましたらよろしくお願いします!


長いのに、ここまで読んでくださった方本当にありがとうございます!


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