第62話 大切な靴を預ける日と、冬の街で交わした小さな約束
朝の冷たい空気が窓の隙間から入り込み、シアは毛布の中でゆっくりと目を覚ました。
まだ日の出からそれほど時間が経っていないらしく、窓の向こうには淡い青色の空が広がっている。向かいの建物の屋根は夜露に濡れており、煙突から立ち上る細い煙が、風の弱い空へまっすぐ伸びていた。
階下からは、オットーが厨房で作業を始めた音が聞こえてくる。木鉢を置く鈍い音と、薪の燃える小さな音が重なり、シアにとってはすっかり馴染み深くなった朝の気配を作っていた。
シアは寝台から起き上がると、マルタから借りている厚い茶色の毛布を丁寧に畳んだ。冷えた床へ足を下ろし、窓辺の秋灯草へ目を向けると、黄色い花は今朝も変わらず咲いていた。
鉢の土を指先で確かめると、表面は少し乾き始めていたものの、内側にはまだ湿り気が残っている。先日水を与えてからそれほど経っていないため、シアは今朝も水差しを手に取らず、葉の状態だけを確かめた。
(寒くなってきましたから、お水の量にも気をつけなければいけませんね。せっかく元気に咲いてくれているのですから、長く楽しめるようにしたいです)
机の上には、図書館で借りた『窓辺で育てる季節の草花』が置かれている。昨日の夜に読んだ頁を思い出しながら、シアは鉢の位置を確かめ、窓から直接冷気が当たらないようになっていることを確認した。
それから、部屋の入口近くに置いた二足の靴へ視線を移した。
一足は、ベルフォード家を出た日から履き続けている自分の革靴。もう一足は、ニコの父親が営む靴屋から借りた、少し厚手の貸し靴だった。
昨日は朝から夕方まで貸し靴を履いて働き、足に痛みが出ないことを確かめている。普段の靴より足首の辺りが硬く感じられたものの、歩き方に大きな問題はなく、マルタとオットーにも様子を見てもらった。
今日はいよいよ、自分の革靴を修理に預けるかどうか、靴屋の主人と相談する予定になっていた。
シアは古い革靴を手に取り、踵の部分へ指先を添えた。
旅の途中では、足元のことを細かく考える余裕などなかった。朝になれば歩き、日が暮れる前に宿を探し、次の街へ辿り着くことだけを考えていた。
それでも、この靴は一度も壊れることなく、彼女を遠い公爵領まで運んでくれた。
(あの日、この靴を履いて屋敷を出たのですね)
懐かしさと呼ぶには、まだ複雑な記憶だった。
早朝の冷たい空気。誰にも行き先を告げずに出た屋敷。振り返らなかった門。そして、これからどうなるのか分からないまま歩き続けた道。
けれど、その道の先には《麦穂亭》があった。
マルタとオットーがいて、温かなパンの香りがあり、自分の名前を呼んでくれる人たちがいた。
シアは革靴をそっと床へ戻した。
「……今日も、よろしくお願いします」
誰に聞かせるでもなく小さく呟き、身支度を整える。
今日はいつもの革靴を履いて階下へ向かい、貸し靴は袋へ入れて持っていくことにした。仕事の間は昨日と同じように借りた靴を使い、夕方に靴屋へ向かうときには、自分の靴を預けられるよう準備しておくつもりだった。
もっとも、今日から修理を受けてもらえるかどうかは、まだ分からない。
靴屋にもほかの客の仕事がある。修理をお願いすることと、その日のうちに預かってもらえることは別なのだと、シアはきちんと理解していた。
◇
厨房へ下りると、オットーが大きな木鉢の中で生地をまとめていた。
作業台の上には丸パン用の生地が並び、壁際では火の入った窯がゆっくり温まっている。小麦粉の乾いた香りと薪の匂いが混ざり合い、外の冷たさを忘れさせるような空気が広がっていた。
「おはようございます、オットーさん。今日もよろしくお願いいたします」
「おう、おはよう。今朝は冷えたな。手が冷たいままだと仕事もしづらいから、先に温めておけよ」
「はい。ありがとうございます」
シアが手を洗い、温かな湯で指先を温めていると、店頭からマルタが顔を出した。
「おはよう、シア。今日は靴屋さんへ行くんだったね。昨日のうちに必要なことは確かめられたかい?」
「はい。貸し靴で一日働いても痛みは出ませんでしたので、修理をお願いしたいと思っています。ただ、足首の辺りが少し硬く感じることは、ご主人にもお伝えするつもりです」
「それがいいね。今日は店を閉めてから行くんだろう? 暗くなるのが早いから、片づけが長引かないようにしておこう」
マルタの言葉に、シアは慌てて首を振りかけた。
自分の用事のために店の仕事を早く終わらせてもらうのは申し訳ない。そう口にしかけたところで、マルタが穏やかに続けた。
「もちろん、仕事を途中で放り出すわけじゃないよ。いつもどおり終わらせて、それから行けばいいんだからね」
シアは一瞬だけ言葉を止め、それから小さく微笑んだ。
「ありがとうございます。私も、できるところから片づけを進めておきます」
「うん。それで十分だよ」
マルタは満足そうに頷き、店頭へ戻っていった。
シアは袋から貸し靴を取り出し、履き替えてから作業台へ向かった。
昨日と同じように足先の余裕を確かめ、紐を結ぶ。足首の辺りにはやはり少し硬さがあったが、立ち上がって歩いてみても痛みはない。
オットーはその様子を横目で見てから、棚の上に置かれた布を指さした。
「今日はこっちの生地を先に扱う。黒麦パンの予約分は俺が数量を確認してから進めるから、シアは丸パンの方を頼む」
「承知しました。丸パンの生地を並べる準備から始めます」
シアは指示された道具を揃え、作業台の上を整えた。
黒麦粉の入荷については、昨日から新しい知らせがない。
北方道路の補修が進んでいても、重量荷車の通行制限が続いている以上、注文した粉がいつ届くのかは分からなかった。店頭での黒麦パン販売は休止したままで、現在ある材料は、すでに受けている予約を守るために使われている。
シアは作業台の端に置かれた必要数一覧へ目を向けた。
昨日までの引き渡し分は記録済みで、今日の予約数量も確認されている。少し先の予約については、材料の到着状況によって改めて判断する必要があるものの、今の段階で予約を変更したり、別のパンへ置き換えたりすることは決まっていない。
オットーは黒麦粉の入った容器を確かめながら、静かに言った。
「今日の分は予定どおり焼ける。先の分については、昼にもう一度見ておこう」
「はい。必要数一覧も、今日の引き渡しが終わりましたら更新いたします」
「頼む。ただ、まだ足りなくなると決まったわけじゃないからな。分からないところは分からないままにしておいていい」
シアは頷いた。
その言葉は、今の彼女には以前より自然に受け止められた。
確かな情報がないことを、自分の努力不足だと思わなくてもよい。
分からないものを無理に決めず、必要な準備を進めることも、仕事の一つなのだ。
◇
開店前の準備が整う頃には、窓の外がすっかり明るくなっていた。
中央広場の方からは荷車の車輪が石畳を転がる音が聞こえ、通りを行き交う人々の足音も増えている。朝の冷たい空気の中で、焼きたてのパンの香りはいつも以上にはっきり感じられた。
最初に訪れたのは、仕事へ向かう途中らしい若い男性だった。
男性は丸パンを三つ注文し、代金を払うと急いで店を出ていった。そのあとには小さな子どもを連れた女性が入り、子どもと相談しながら胡桃パンと小さな白パンを選んだ。
シアは客の様子に合わせて声をかけ、パンを袋へ入れていった。
貸し靴を履いていることにも、昨日より少し慣れてきた。棚の前で向きを変えるときに足元を確かめる習慣は残っていたが、動作そのものがぎこちなくなることはなかった。
朝の忙しさが一段落したところで、入口の鈴が鳴った。
「おはようございます、シアさん!」
明るい声とともに入ってきたのは、靴屋の息子であるニコだった。
頬を寒さで赤くし、首元に巻いた布を片手で押さえている。まだ十歳ほどの少年だが、店へ入るときにはきちんと挨拶をし、会計台の前で足を止めた。
「おはようございます、ニコさん。今日はお買い物ですか?」
「うん! 母さんに頼まれたんだ。丸パンを四つください!」
「ありがとうございます。丸パン四つで二十銅貨になります」
シアがパンを袋へ入れている間、ニコは会計台の向こうから彼女の足元を覗き込んだ。
「あっ、その靴! 昨日借りていったやつだよね。ちゃんと履けた?」
シアは袋を渡しながら、穏やかに頷いた。
「はい。昨日は朝から夕方まで履いてみましたが、足に痛みは出ませんでした。今日も問題なく歩けていますので、仕事が終わったら修理をお願いしに伺おうと思っています」
「本当? 父さん、気にしてたんだよ。貸した靴が合わなかったら、別の方法を考えないといけないって」
ニコは安心したように笑った。
その表情を見て、シアは靴屋の主人が貸し靴を渡してくれたときのことを思い出した。
あの人は、靴を貸せばそれで終わりとは考えていなかったのだろう。
実際に仕事で使えるか、痛みが出ないか、修理が終わるまで安全に過ごせるか。そうしたことまで気にかけてくれていたのだ。
「ありがとうございます。お父様にも、よくしていただいて感謝しておりますとお伝えください」
「うん! でも、夕方に来るなら直接言えるね」
ニコはそう言ってから、少し考えるように首を傾げた。
「父さん、今日は革の裁断をしてるって言ってたから、夕方ならお店にいると思う。でも、修理をいつから始められるかは、父さんに聞いてね。僕じゃ分からないから」
「はい。もちろんです。お仕事のご都合もありますから、きちんと相談いたします」
シアが答えると、ニコは満足そうに頷いた。
そして、袋を抱え直してから、少しだけ声を潜めた。
「ねえ、シアさん。靴が直ったら、冬の道も歩きやすくなるかな?」
「そうですね。踵と靴底を整えていただく予定ですので、今より安心して歩けるようになると思います。ただ、冬の石畳は滑りやすいそうですから、気をつけなければいけませんね」
「うん。父さんも、雪が降ってなくても朝は滑るって言ってた。僕、この前、店の前で転びそうになったんだ」
ニコは少し照れくさそうに笑った。
シアはその様子を見て、思わず微笑んだ。
「お怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫! 転ぶ前に壁につかまったから。でも、母さんに走るなって怒られた」
「それは、心配されたのでしょうね」
「うん。だから今は、朝だけはゆっくり歩いてる」
少年は少し誇らしげに胸を張った。
シアはその言葉に頷き、柔らかく笑った。
「それはよいことですね。私も気をつけます」
ニコは嬉しそうに笑い、パンの袋を抱えて店を出ていった。
扉が閉まると、マルタが厨房から顔を出した。
「ニコが来ていたのかい?」
「はい。丸パンを四つお買い上げくださいました。靴のことも気にしてくださっていて、夕方に伺う予定だとお伝えしました」
「そうかい。あの子は本当に元気だね。靴屋のご主人も、息子がああして人と話すのを嬉しく思っているだろうよ」
マルタは微笑みながら、会計台の上へ追加の紙袋を置いた。
シアはその袋を受け取り、棚の下へしまった。
小さなやり取りだったが、靴屋へ行くことが少し楽しみになっていた。
◇
昼前になると、店の前を通る人の数が増えた。
広場で用事を済ませた人々がパンを買いに立ち寄り、店頭には時折、数人の客が並んだ。シアは注文を間違えないようにしながら、パンを包み、代金を受け取った。
その途中、一人の男性が黒麦パンの販売休止を知らせる紙の前で足を止めた。
「まだ入らないのか。先週も来たんだけどな」
男性は残念そうに呟き、棚へ視線を向けた。
シアは会計台の向こうから、丁寧に説明した。
「申し訳ありません。現在も材料の入荷日が決まっておりませんので、店頭販売をお休みしております。再開の日程が分かりましたら、お知らせを更新する予定です」
「そうか。いつものパンだから、ないと困るんだよな」
男性は少し眉を寄せた。
シアの胸が、かすかに緊張した。
怒鳴られたわけではない。男性の言葉も、店を責めるというより、普段食べているものが手に入らない不便さを口にしただけだった。
それでも、相手の声が低くなった瞬間、身体が反射的に強張りそうになった。
(大丈夫です。今は、分かっていることをお伝えすればよいのです)
シアは会計台の端に添えた手をゆっくり緩め、男性の言葉を待った。
男性は棚を見渡したあと、丸パンへ目を向けた。
「今日は丸パンにするか。四つもらえる?」
「はい。丸パン四つで二十銅貨になります」
シアは注文を受け、パンを袋へ入れた。
男性は代金を置きながら、少し困ったように笑った。
「悪いね。別に、あんたを責めてるわけじゃないんだ。ただ、いつも食べてるものがないと、つい残念でさ」
思いがけない言葉に、シアは顔を上げた。
男性は袋を受け取り、続けた。
「道が直らないと運べないんだろう? 店だって困ってるよな。早く戻るといいね」
「ありがとうございます。私たちも、入荷をお待ちしているところです」
シアが答えると、男性は頷いて店を出ていった。
扉が閉まったあと、シアは静かに息を吐いた。
以前なら、相手の不満を聞いただけで、自分が何か悪いことをしたように感じていたかもしれない。
けれど、今日の男性は、困っている気持ちを言葉にしただけだった。
そのことを理解できた自分に、シアは少し驚いた。
客が途切れたところで、観察用の紙へ今日の出来事を書き加える。
黒麦パンを希望して来店した男性が、販売休止を確認したあと、丸パンを四つ購入したこと。黒麦パンの再開を望んでいること。
ただし、丸パンを今後も購入するかどうかは不明であり、黒麦パンの代わりとして満足したかどうかも確認できていない。
そこまで書いてから、シアは筆を置いた。
客の言葉を記録することと、客の気持ちを勝手に決めることは違う。
その区別をつけられるようになったことも、ここで働く中で覚えた大切なことの一つだった。
◇
昼食の時間になると、マルタが温かなスープとパンを用意してくれた。
オットーは厨房の奥で使っていた道具を片づけてから席につき、三人は今日の予約について話しながら食事を進めた。
黒麦パンの予約分は、午前中までに予定どおり用意できている。
午後に引き渡す分についても、数量と相手先の確認は済んでいた。問題は、それより先の予約に対して、現在の材料がどこまで足りるかということだった。
オットーは必要数一覧を広げ、残りの黒麦粉と予約数量を見比べた。
「今日の分を引いたあとの数字は、これで合っているな」
「はい。今朝、昨日までの引き渡し分を反映し、今日の分は別に確認できるようにしてあります」
シアが答えると、オットーは頷いた。
「よし。これなら見やすい。先の予約については、やっぱり荷がいつ動くか分からないと判断しきれないな」
マルタは紙へ目を落とし、少し考えた。
「《銀鹿亭》にも、状況によっては相談するかもしれないと伝えてあるけれど、まだ具体的な話をする段階じゃないね。向こうだって、急に予定を変えられたら困るだろうし」
「そうだな。まずはハンスから次の知らせが来るかどうかだ」
オットーはそう言い、必要数一覧を閉じた。
シアは二人の会話を聞きながら、静かに頷いた。
今ある情報だけで、できることには限りがある。
しかし、だからといって何もしないわけではない。数量を確かめ、予約を整理し、必要になったときに相談できるように準備しておく。
それが、今の《麦穂亭》にできることだった。
食事を終える頃、マルタがシアへ視線を向けた。
「そういえば、今日は靴屋さんへ行くんだったね。仕事が終わったら、明るいうちに出られるようにしよう」
「ありがとうございます。ただ、店の片づけは最後までお手伝いしたいと思っています」
「もちろんだよ。でも、いつもより少し早く片づけを始めればいいだけだからね。仕事の順番を考えるのも、店を回すうえでは大事なことなんだよ」
マルタはそう言って微笑んだ。
シアはその言葉を聞き、少しだけ考えた。
仕事を最後までやり遂げることと、必要な用事のために時間を整えることは、対立するものではない。
自分の都合を伝えれば、周囲が迷惑するとは限らない。
そのことを、シアはまた一つ学んだ気がした。
◇
午後の営業は、午前中よりも落ち着いたものになった。
シアは棚の残りを確認し、予約分の引き渡しを手伝いながら、会計台の周囲を整えていった。
貸し靴の具合は、今日も問題なかった。
足首の辺りに感じる硬さは変わらないものの、痛みが増すことはなく、長く立っていても足の指先が圧迫される感覚はなかった。
夕方が近づく頃には、外の光が少しずつ赤みを帯びてきた。
中央広場の方から聞こえていた人々の声も落ち着き始め、通りを歩く人の多くが家路を急いでいるようだった。
最後の客が帰ったあと、シアは棚の布を整え、会計台の上を拭いた。
マルタは売上帳を閉じ、オットーは厨房の道具を片づけている。
「シア、こっちはもう大丈夫だよ。靴屋さんへ行く準備をしておいで」
マルタに声をかけられ、シアは手を止めた。
「ありがとうございます。残りの片づけは、何かございますか?」
「棚の方は終わっているし、会計も確認できたよ。あとは私たちでできるから、今日はここまででいい」
シアは少しだけ迷ったが、マルタの表情を見て頷いた。
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」
「うん。気をつけて行っておいで。修理の日程が分かったら、あとで教えてくれればいいからね」
オットーも厨房から顔を出した。
「靴屋には、今の靴でどこが気になるか、ちゃんと話してこいよ。踵と底だけじゃなく、歩いたときの具合も伝えた方がいい」
「はい。ありがとうございます」
シアは二人へ礼を述べ、貸し靴の汚れを軽く落としてから、袋に入れていた自分の革靴を取り出した。
修理をお願いする靴は、布で包んで持っていくことにした。
今は貸し靴を履いているため、もし今日から修理を受けてもらえるなら、そのまま自分の靴を預けることができる。
シアは必要な銅貨を財布へ入れ、外套を羽織った。
扉を開けると、夕方の冷たい空気が頬へ触れた。
空はまだ明るいものの、建物の影は長く伸びている。
シアは布に包んだ革靴を大切に抱え、靴屋へ向かって歩き始めた。
◇
靴屋は《麦穂亭》から歩いて行ける距離にあり、通りをいくつか曲がった先にあった。
店の前には、革靴の形をした小さな看板が吊るされている。夕方の風に揺れる看板の下では、窓から温かな灯りが漏れており、店内からは革を扱う独特の匂いが漂っていた。
シアは入口の前で一度立ち止まり、布に包んだ靴を抱え直した。
修理を頼むために来たのだと分かっていても、胸の奥には少し緊張があった。
四十八銅貨は、決して小さな金額ではない。
週給三百二十銅貨の中から支払うことになるため、冬用の外套を買う時期も考えなければならなかった。
それでも、靴を直さずに冬を迎えることの方が不安だった。
(今の私には、働き続けるための準備が必要です。靴を直すことも、その一つなのですよね)
シアは静かに息を整え、扉を開いた。
小さな鈴が鳴り、店の奥から革を叩く音が聞こえてきた。
「いらっしゃいませ!」
最初に顔を出したのはニコだった。
少年はシアの姿を見つけると、ぱっと表情を明るくした。
「あっ、シアさん! 本当に来てくれたんだね!」
「こんばんは、ニコさん。お仕事の途中に失礼いたします」
「大丈夫! 父さん、奥にいるよ。ちょっと待ってて!」
ニコはそう言って店の奥へ走りかけたが、途中で足を緩めた。
どうやら、朝に自分で話していたことを思い出したらしい。
シアが微笑んで見守っていると、ニコは少し照れくさそうに笑った。
「……店の中では走らないようにって、いつも言われてるんだった」
「ふふ。気をつけていらっしゃるのですね」
「うん。父さん、道具があるから危ないって」
ニコは今度こそ落ち着いた足取りで奥へ向かった。
シアは店内を見渡した。
壁には修理を待つ靴が並び、作業台の上には革の切れ端や糸、木製の道具が整然と置かれている。窓際には靴底の見本がいくつか並べられており、厚さや形の違いが分かるようになっていた。
しばらくすると、奥から靴屋の主人が姿を現した。
四十代ほどの男性で、袖をまくった腕には仕事でついた細かな革の粉が残っている。シアの顔を見ると、落ち着いた表情で頷いた。
「いらっしゃい。ニコから、今日来るかもしれないと聞いていたよ。貸した靴はどうだった?」
「こんばんは。お忙しいところ、ありがとうございます。昨日と今日、仕事で履かせていただきましたが、足に痛みは出ませんでした。店頭でも厨房でも、問題なく歩けています」
シアは丁寧に答え、足元へ視線を向けた。
「ただ、足首の辺りが少し硬く感じます。歩けないほどではないのですが、念のためお伝えした方がよいと思いまして」
主人は頷き、近くの椅子を示した。
「そうか。それなら、もう一度見てみよう。長く履いたあとに痛みがないなら悪くはないが、足首の動きが窮屈だと疲れやすいこともあるからね」
「はい。お願いいたします」
シアは椅子へ腰を下ろし、貸し靴の紐を少し緩めた。
主人は靴の履き口を確かめ、シアに足首をゆっくり動かすよう頼んだ。シアが言われたとおりにすると、主人は革の当たる位置を見ながら、少し考えた。
「ここだな。革が厚いから、普段の靴より硬く感じるんだろう。紐を締めすぎると動きにくくなるから、上の方だけ少し余裕を持たせてみよう」
主人は結び方を調整し、もう一度立って歩くよう促した。
シアは店内の空いた場所をゆっくり歩いた。
すると、先ほどまで感じていた足首の硬さが、少し和らいだように思えた。
「……先ほどより動かしやすいです」
「それならよかった。ただ、緩めすぎると踵が浮くから、そこは気をつけて。今の結び方で仕事をして、違和感が出たらまた相談してくれ」
「ありがとうございます。大切に使わせていただきます」
主人は頷き、シアが抱えていた布包みへ視線を向けた。
「それで、今日は修理の相談だったね」
「はい。先日見ていただいた革靴を、正式に修理していただきたいと思っています」
シアは布をほどき、靴を作業台の上へ置いた。
主人は一足ずつ手に取り、踵と靴底の状態を確かめた。
以前と同じように、踵の外側が少し減っている。靴底にも歩き癖による摩耗が見られるが、革の上部には大きな破れがなく、まだ十分使える状態だった。
「うん。前に見たときから、急に悪くなったところはなさそうだ。踵の補強と底の調整でいいと思う」
主人は靴を並べ、シアへ向き直った。
「見積もりは前に話したとおり、四十八銅貨。作業は二日ほど見てもらいたい。ただ、ほかの修理もあるから、今日預かって明後日に必ず渡せるとまでは言えないんだ。仕上がりを確かめてから渡すことになる」
シアはその説明を聞き、ゆっくり頷いた。
見積もりの金額は変わっていない。
作業期間も、おおよそ二日。
ただし、実際の受け取り日は仕上がりを確認してから決まる。
その区別を理解したうえで、シアは口を開いた。
「承知しました。お仕事のご都合もあると思いますので、急がせるつもりはございません。今の貸し靴で仕事ができることも確かめられましたので、今日からお預かりいただけるのでしたら、お願いしたいです」
主人は少しだけ微笑んだ。
「分かった。それなら今日預かろう。修理が終わったら、靴底の状態と履き心地を一緒に確かめてもらうよ」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
シアは深く頭を下げた。
主人は作業台の端から小さな紙を取り出し、修理内容と預かった靴の特徴を書き留めた。
その手元を見ながら、シアは胸の奥に不思議な感覚が広がるのを感じた。
長い旅を共にした靴が、自分の手から離れる。
それはほんの数日のことかもしれない。
けれど、あの日からずっと履き続けてきたものを、誰かに預けるという行為には、思っていた以上の重みがあった。
◇
「代金は、受け取りのときでいいよ」
主人がそう言うと、シアは少し驚いて顔を上げた。
「よろしいのでしょうか?」
「ああ。修理が終わって、実際に履いて確かめてもらってからで構わない。もちろん、預かったことはこの紙に書いておくから、安心してくれ」
主人は控えの紙をシアへ渡した。
そこには、踵の補強と靴底の調整、見積もり四十八銅貨という内容が記されている。
シアは文字を確かめ、丁寧に受け取った。
「ありがとうございます。大切に保管いたします」
「それと、貸し靴のことだけど、修理が終わるまではそのまま使っていていい。足に合わないと感じたら、無理せず持ってきてくれ」
「はい。ありがとうございます」
主人は作業台の上の革靴へ視線を落とした。
「ずいぶん長く履いている靴だね。手入れはされているし、革そのものも悪くない。大切にしてきたんだろう?」
その言葉に、シアは少しだけ息を止めた。
大切にしてきた。
確かに、そうだった。
新しい靴を簡単に買える暮らしではなかったし、旅の途中で履き替える余裕もなかった。
それでも、この靴を手放したくない理由は、金銭的なことだけではない。
「……はい。長い道を、一緒に歩いてきた靴なのです」
シアは静かに答えた。
主人はそれ以上詳しく尋ねず、穏やかに頷いた。
「そうか。それなら、これからも使えるように、きちんと直しておこう」
その何気ない言葉が、シアの胸へ深く染み込んだ。
過去の事情を説明しなくても、今の自分が大切にしているものを尊重してもらえる。
それが、どれほどありがたいことなのか。
シアは言葉を探したが、うまく見つからなかった。
代わりに、もう一度丁寧に頭を下げた。
「よろしくお願いいたします」
主人は頷き、靴を修理待ちの棚へ移した。
そこには、ほかの客から預かった靴も並んでいる。
シアの革靴は、その中の一足になった。
特別に扱われるわけではない。
けれど、必要な修理を受け、また持ち主のもとへ戻るために、きちんと預けられたのだ。
シアはその光景を見つめ、静かな安堵を覚えた。
◇
店を出ようとしたところで、ニコが奥から顔を出した。
「シアさん、修理お願いできた?」
「はい。今日から預かっていただけることになりました。貸し靴も、修理が終わるまで使わせていただけるそうです」
「よかった!」
ニコは嬉しそうに笑った。
その様子を見て、シアも自然と微笑んだ。
「ニコさんが教えてくださらなければ、貸し靴があることも分かりませんでした。本当にありがとうございます」
「えへへ。僕は父さんに聞いただけだよ」
ニコは少し照れくさそうに頬をかいた。
けれど、すぐに思い出したように顔を上げた。
「そうだ、シアさん。修理が終わったら、僕が《麦穂亭》に知らせに行ってもいい?」
シアは一瞬だけ考えた。
ニコが知らせに来てくれることはありがたい。
ただ、靴の修理が終わったかどうかを判断するのは主人であり、受け取りの予定も店の都合に合わせて決める必要がある。
「ありがとうございます。ただ、お父様のお仕事のご都合もありますので、まずはご主人に確認していただけますか?」
「うん! 父さん、どう?」
ニコが振り返ると、主人は作業台の向こうで少し笑った。
「修理が終わって、仕上がりを確かめてからならいいよ。ただし、勝手に終わったと思って知らせに行くんじゃないぞ」
「分かってるよ!」
ニコは胸を張って答えた。
主人は苦笑しながら、シアへ向き直った。
「仕上がったら、ニコに知らせを頼むこともできる。もちろん、こちらから無理に急がせることはないからね」
「ありがとうございます。お知らせをいただけましたら、仕事の都合を確認して伺います」
シアが答えると、ニコは満足そうに頷いた。
「じゃあ、できたらちゃんと伝えるね!」
「はい。よろしくお願いいたします」
シアは二人へ礼を述べ、店を出た。
外へ出ると、夕方の空は先ほどより暗くなっていた。
通りの向こうでは、店じまいを始める商人たちの声が聞こえる。荷車を引く男性が石畳の上をゆっくり進み、家路を急ぐ人々が外套の襟を立てて歩いていた。
シアは足元へ目を向けた。
今履いているのは、借りた靴だ。
いつもの革靴は、靴屋の棚に預けられている。
それでも、不安は思っていたほど大きくなかった。
預けた靴がどこにあるのか分かっている。
誰が修理してくれるのかも分かっている。
いつ頃仕上がる見込みなのか、どのように受け取るのかも、きちんと説明してもらえた。
そして、もし困ったことがあれば相談してよいと言われている。
(預けるというのは、失うこととは違うのですね)
シアはそう思い、ゆっくり歩き始めた。
足元から伝わる感触は、まだ少しだけ慣れない。
けれど、その靴もまた、今の彼女を支えてくれている。
冬へ向かう街の中で、シアは一歩ずつ《麦穂亭》への道を歩いた。
◇
店へ戻る頃には、窓の向こうに灯りがともっていた。
《麦穂亭》の扉を開けると、厨房から温かな匂いが漂ってくる。マルタが夕食の準備をしており、オットーは作業台の片づけを終えたところだった。
「ただいま戻りました」
シアが声をかけると、マルタが顔を上げた。
「おかえり、シア。どうだった? 靴屋さんにはお願いできたかい?」
「はい。今日から修理を受けていただけることになりました。踵の補強と靴底の調整で、見積もりは四十八銅貨のままです。作業は二日ほどだそうですが、仕上がりを確かめてから受け取りになります」
「そうかい。よかったね」
マルタは安心したように微笑んだ。
オットーも頷き、シアの足元へ視線を向けた。
「貸し靴の方はどうなった?」
「修理が終わるまで使わせていただけるそうです。足首の硬さについても相談しましたら、紐の結び方を調整していただきました。先ほどより動かしやすくなっています」
「それならよかった。ただ、慣れたからって無理はするなよ」
「はい。気をつけます」
シアは丁寧に答えた。
マルタは鍋をかき混ぜながら、少し笑った。
「それにしても、よかったじゃないか。ずっと気にしていた靴を、ちゃんと直してもらえるんだから」
「はい。ありがとうございます」
シアは胸元で手を重ねた。
「修理をお願いするまでは、少し迷っていました。お金もかかりますし、仕事の間に履く靴のことも心配でしたので。でも、マルタさんたちや靴屋さんに相談できて、安心してお願いすることができました」
マルタはその言葉を聞き、穏やかに頷いた。
「そういうことだよ。何かを決めるとき、全部一人で考えなくてもいいんだ。もちろん、最後にどうするかを決めるのはシアだけれど、相談することまで遠慮しなくていい」
シアは静かに頷いた。
自分で決めることと、一人で抱え込むことは違う。
その違いを、今日もまた教えてもらった気がした。
◇
夕食の席では、靴の修理のことだけでなく、明日の仕事についても話した。
黒麦粉の入荷については、今日も新しい知らせが届かなかった。
北方道路の補修は続いており、重量荷車の通行制限も解除されていない。仕入れ先からの注文量変更や紛失の報告もなく、材料がいつ届くのかは依然として分からないままだった。
マルタは必要数一覧を確かめながら、少し考えた。
「明日は、先の予約についてもう一度見ておこうか。まだ変更するわけじゃないけれど、材料の残りを確かめておけば、必要なときに相談しやすいからね」
「そうだな。今日の引き渡し分を反映して、残りの数を見ておこう」
オットーは頷き、シアへ視線を向けた。
「シア、明日の朝、必要数一覧をもう一度確認してもらえるか?」
「はい。承知しました。今日の引き渡し分を反映し、予約変更とは別の確認用の紙として整理しておきます」
「頼む。数字が見やすいと助かる」
シアは頷いた。
店の問題は、まだ解決していない。
けれど、今日一日を振り返ると、靴の修理という別の問題は、少し前へ進んでいた。
すべてのことが同時に解決するわけではない。
それでも、一つずつ準備を進めることはできる。
そのことが、今のシアには大切に思えた。
◇
夕食を終え、自室へ戻ると、窓の外には夜の街が広がっていた。
向かいの建物の窓から漏れる灯りが、石畳の一部を淡く照らしている。遠くでは鐘の音が響き、昼間の賑わいが少しずつ静けさへ変わっていくのが分かった。
シアは外套を脱ぎ、机の前へ腰を下ろした。
靴屋から受け取った控えの紙を取り出し、内容をもう一度確かめる。
踵の補強。
靴底の調整。
見積もり四十八銅貨。
受け取りは、修理が終わってから。
そこに書かれた内容は、どれも今日、自分で確かめて決めたことだった。
シアは紙を丁寧に折り、帳面の間へ挟んだ。
それから、机の上に置いていた小さな財布を手に取る。
修理代として使う予定の四十八銅貨は、まだ財布の中にある。代金は受け取りのときに支払うことになったため、今夜の時点では支払いは済んでいない。
シアは銅貨の数を確かめ、必要な分を分けておくことにした。
冬用の外套については、まだ購入していない。
以前、店先で見かけた青灰色の外套が気になっていたが、靴の修理代を支払ったあとの手持ちも考えなければならなかった。
今すぐ買う必要があるのか、それとももう少し様子を見てもよいのか。
その判断は、まだ急がなくてもよいように思えた。
(まずは靴をきちんと直していただいて、それから考えましょう。冬は近づいていますけれど、慌てて全部を決める必要はありません)
シアは財布をしまい、窓辺の秋灯草へ目を向けた。
黄色い花は、夜の灯りの中でも柔らかな色を保っている。
昼間には気づかなかったが、葉の一枚が少し窓の方へ傾いていた。シアは鉢を動かさず、そのまま様子を見ることにした。
植物にも、それぞれの向きや成長の仕方がある。
自分の都合だけで何度も位置を変えるより、今の状態を見守ることが必要な場合もあるのだろう。
シアは図書館で借りた本を開き、寒い時期の手入れについて書かれた頁を少し読み進めた。
そこには、植物の変化を確かめながら、水やりや置き場所を調整することが大切だと説明されていた。
シアはその文章を読み、今日の靴屋でのやり取りを思い出した。
主人は、貸し靴の足首が硬く感じるという話を聞き、紐の結び方を調整してくれた。
最初から別の靴へ替えるのではなく、今の靴を安全に使えるように考えてくれたのだ。
そして、自分の革靴についても、まだ使える部分を残しながら、傷んだところを直すと言ってくれた。
何かが傷んだからといって、すべてを捨てなければならないわけではない。
必要なところを整えれば、また使い続けられるものもある。
シアは本を閉じ、胸元の銀のペンダントへそっと触れた。
母の形見である小さな銀の飾りは、今も変わらずそこにある。
ベルフォード家を出た日から、シアは多くのものを置いてきた。
家族との関係も、婚約者との未来も、伯爵令嬢として求められていた役割も。
けれど、すべてを失ったわけではなかった。
自分の手でできることがあり、働く場所があり、これからの暮らしを考える時間がある。
そして、今日のように、自分が大切にしているものを預けられる相手もいる。
(私は、少しずつ人を信じられるようになっているのでしょうか)
その問いに、すぐ答えは出なかった。
今でも、初めて会う人の表情を気にしてしまうことがある。相手の声が強くなれば、身体が反射的に強張ることもある。
過去の記憶が、簡単に消えるわけではない。
それでも、以前とは違う。
マルタとオットーには、困っていることを相談できる。
ミレイユとは、一緒に街を歩き、図書館へ行き、何気ない時間を楽しむことができた。
レオンハルトと話すときも、以前より自分の考えを口にできるようになっている。
そして今日、靴屋の主人へ、大切な靴を預けることができた。
それは小さな出来事かもしれない。
けれど、シアにとっては確かな変化だった。
誰かに任せることは、すべてを諦めることではない。
自分で考え、相手の言葉を聞き、納得したうえでお願いすることもできる。
その選択を、今日の自分はできたのだ。
シアは机の上を整え、帳面を閉じた。
明日は、また《麦穂亭》での仕事が待っている。
黒麦粉の問題は続いており、店の予約を守るために確認しなければならないこともある。
靴の修理も、まだ終わっていない。
それでも、今日できることは進められた。
シアは灯りを落とし、寝台へ入った。
マルタから借りた厚い毛布を肩まで掛けると、冷えた身体がゆっくり温まっていく。
窓の外では、遠くの鐘が夜の時刻を告げていた。
その音を聞きながら、シアは靴屋の棚に預けた革靴のことを思い浮かべた。
長い旅を共にした靴。
知らない街へ辿り着くまで、自分を支えてくれた靴。
今は修理を待っているけれど、また履ける日が来る。
そのとき、自分はどんな道を歩くのだろう。
シアは静かに微笑んだ。
(きっと、これからも知らないことがたくさんあるのでしょうね。でも、今は少しだけ、その先を楽しみに思えます)
以前なら、未来を考えることは怖かった。
何を命じられるのか、誰に叱られるのか、どんな失敗を責められるのか。
そんなことばかり考えていた。
けれど、今は違う。
明日の仕事を考え、次の休日を楽しみにし、冬の街を歩くための準備をしている。
まだ知らない景色を見たいと思うことさえある。
シアは毛布の中でゆっくり息を吐き、目を閉じた。
遠い街で始まった新しい暮らしは、今日も静かに続いている。
その暮らしを守るために、彼女はまた一つ、自分の意思で選ぶことができた。
修理を待つ靴が戻ってくる頃には、冬の気配も今より濃くなっているかもしれない。
けれど、その季節を迎えることを、シアはもう以前ほど恐れていなかった。
温かな毛布に包まれながら、彼女は穏やかな眠りへ落ちていった。




