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マンデーパニック! 〜変なTシャツと犬、ちょっとだけ勇気。会社のアイドルと二人で月曜日が楽しくなるまでの物語〜  作者: ゆゆこりん


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第43話:許可


 八月上旬。

 猛暑日が続く中、俺と天草ひよりさんの関係は順調に進んでいた。


 おこげの散歩デートも週末の日課になり、たまに平日の夜ご飯を一緒に食べるようになった。

 あの嵐の夜のキス以来、手をつなぐことも自然になった。

 ……まあ、会社では相変わらず「同僚」のふりをしているが。


 ある土曜日の夜、俺のスマホが鳴った。

 実家の母からだ。


『もしもし、勝利? 元気にしてるの?』

「ああ、元気だよ。どうした?」

『どうしたもこうしたもないわよ。お盆休み、帰ってくるの? ムギもあんたに会いたがってるわよ』


 ムギ。実家の柴犬だ。今年で十二歳になるおばあちゃん犬だ。

 俺が上京してからめっきり元気がなくなってしまっているらしい。


「ああ、今年は帰るつもりだよ。……休み取れたし」

『あら、本当? 嬉しいわねぇ。お父さんも喜ぶわ』


 電話を切った後、俺はふと考えた。

 実家に帰るなら、ひよりさんも誘ってみようか。

 ムギにも会わせたいし、何より両親に紹介したい。

 付き合い始めてまだ一ヶ月も経っていないが、俺の中ではもう「この人しかいない」と決まっている。


 翌日の早朝。

 夏の散歩は朝が早い。

 いつもの公園でおこげの散歩待ち合わせをしたとき、俺は切り出した。


「あの、ひよりさん」

「はい? どうしました?」


 ひよりさんは今日のTシャツ『水羊羹』をパタパタさせながら振り返った。

 涼しげな文字だが、気温は三十度を超えている。


「来週のお盆休みなんですけど……もしよかったら、一緒に俺の実家に行きませんか?」


 ひよりさんが固まった。

 目が点になっている。呼吸が止まったんじゃないかと心配になるほど硬直している。


「えっ……ご実家、ですか?」

「はい。ムギにも会ってほしいし……その、両親にも紹介したくて」


 ひよりさんの顔がみるみる赤くなっていく。

 口をパクパクさせて、何か言いかけてはやめ、また言いかけてはやめ。

 最後には俯いて、蚊の鳴くような声で言った。


「……行きたい、です。でも、ご迷惑じゃないでしょうか。その、私なんかで……」

「迷惑なわけないじゃないですか。父も母も、きっと喜びます。……俺も、一緒に行きたいです」

「……はい」


 ひよりさんが嬉しそうに、でも今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。


 ◇


 その週末、俺たちはデパートに出かけた。

 実家への手土産を選ぶためだ。


「どうしましょう、勝利さん。お母様は何がお好きですか? 甘いもの? それともお煎餅とか?」


 ひよりさんは真剣そのものだ。

 デパ地下の和菓子コーナーを行ったり来たりしている。

 目が回るほど商品を見比べている。


「そんなに気負わなくていいですよ。母さんは甘いものなら何でも好きだし、父さんは酒があればいい人だから」

「ダメです! 第一印象が大事なんです! ここで失敗したら、私の将来が……あ」


 ひよりさんが口を塞いで赤くなった。

 「将来」と言ってしまったことを恥じらっているらしい。

 俺はニヤけそうになるのを必死にこらえた。


「じゃあ、この季節限定のフルーツゼリーにしましょうか。見た目も涼しげだし」

「そうですね! あと、お父様には地酒の飲み比べセットを……」

「お、いいですね」


 結局、両手に紙袋を抱えることになった。

 でも、彼女がこんなに真剣に選んでくれたことが嬉しかった。


「……あ、そうだ。勝利さん」


 買い物が終わって一息ついているとき、ひよりさんがカフェでアイスティーを飲みながら言った。


「あの……服、どうしましょう」

「服?」

「はい。いつもの……Tシャツじゃ、ダメですよね?」

「さすがにそれは……ねぇ」

「ですよね……」


 ひよりさんがしょんぼりした。

 いや、実家に『水羊羹』で行ったら伝説になるが、さすがに親が心臓発作を起こすかもしれない。


「大丈夫ですよ。ひよりさんは会社に行くときの服なら、どれも素敵ですから」

「そうですか? 地味じゃないですか?」

「全然。……それに、俺はTシャツ姿も好きですけどね」

「もう……場所をわきまえますよ、私だって!」


 ◇

 

 その夜、暁さんに報告に行った。

 エスポワールのリビングで、暁さんはおこげを撫でながら俺をじろりと見た。


「お前、それ意味分かってんのか?」


「……はい。本気です」


 俺は姿勢を正して答えた。

 単なる帰省旅行じゃない。結婚を見据えた挨拶だという意味だ。


 暁さんは深いため息をついた。

 そして、おこげの頭をワシワシと撫で回した。


「……早いな、展開が」

「すみません」

「いや、いい。あいつが選んだ相手だ。それに、ムギとかいう犬も喜ぶだろう」


 暁さんは立ち上がり、冷蔵庫からビールを取り出した。プシュッという音が静かな部屋に響く。


「……犬を悲しませるなよ。それだけだ」


 それが、不器用な兄なりの許可だった。


「はい。絶対に」


 俺はビールを受け取り、暁さんと乾杯した。

 ひよりさんはキッチンで夕飯の支度をしながら、真っ赤な顔でこちらの様子を伺っていた。

 その背中が、なんだかとても愛おしかった。


 キッチンにおかわりを取りに行った暁さんとひよりさんが何やら話している。

 暁さんがいつものようにからかっているんだろう。

 

 そんな、暖かい雰囲気にも酔いながら、母親へのメッセージを打った。


『二人に紹介したい大事な人と、一緒に帰るわ』

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― 新着の感想 ―
 え、キス…と手を繋いだ…だけで、結婚までいくんだ!  ピュアだ!  絶対マネできない!  そして、Tシャツ変だって自覚あったんだ!
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