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をぐらのさうし 巻之弐十六  作者: 小椋夏己
2026年  6月

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お忙しいのよ

 今日は朝からやることがあって忙しくて、実家に来たのはもうお昼でした。


 ご飯を食べ、晩ご飯の支度をして、他にもなんやかんやしてやっと座ってノートパソコンを広げてホッとしていたら、実家の家の電話が鳴りました。


「はい」


 いつからか家の電話に出る時は、この一言だけを言って出るようになりました。

 

 これはずっと前、まだまだ父が元気だった頃からです。それまでは仕事のこともあり、名乗ったりしてたんですが、そんなことしたらろくなことがないと父も私も学んだので、名前を名乗るのはやめるようになりました。


 一番ひどかったのはもうずっと前ですが、白い犬で有名になった携帯電話会社、冗談抜きで一日、それも私がいる時間帯ですからお昼前から夕方ぐらいの間に30回ぐらいかかってくる。ナンバーディスプレイを入れてなかったので、というか今も入れてませんが、仕事の電話もあるので出るしかない。出たら、当時CMとかで名前が売れたからか、ものすごーく得意そうに社名を名乗って勧誘してきました。もう生活も仕事もできない状態になり、父も私も最後の方は怒鳴りつけてましたね。それから先に名乗ることはしなくなりました。


 それでもその頃は名乗らなくても、あっちから先に会社名とか商店名とか名乗ってたんですが、最近はあっちから名乗るのが少なくなりました。「はい」とだけ言って出たら、じーっと黙ってこっちが何かいうのを待つんです。私はそういうのでどうしたんだろう、なんて思う性格ではないもので、あっちが何か言うまで同じくじーっと黙って受話器を持って黙ってます。そうすると大体が、何か困ったような様子で話を始めます。


 中には根性ないのか、こっちが黙って待ってたら黙って切ってしまうのもありますが、そういうのではこんなお仕事向いてませんよと思いながら受話器を置きます。


 と、ほんのついさっきのことですが、やっと人が一段落ついてパソコン広げたと思ったらまた実家の電話が鳴りました。「はい」とだけ言って出たらやっぱりしばらく黙って待ってたんですが、待ちきれなくなったのかあちらから、おそらく若い男性の声で、


「お忙しいところ恐れ入ります」


 と言うもので、


「本当に忙しいんですがなんでしょうか」


 と答えたら、


「あ、あ、あ、それでしたらまたあらためてお電話させていただきます」


 と、名乗りもせずに切りました。

 

 特にびびらせながら言ったわけじゃなく、ごくごく普通に「なんでしょうか」と言っただけなんですが、かなりびびったように逃げてったので、こういう人もこういうお仕事向いてないんじゃないかなーと思いつつ電話を切ったんですが、


「黙って切るのとどっちが根性あるのかな」


 と考えています。

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