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第四話


     間・4(ハク視点)


 2011/7/21──三年前


 殺し屋を続ける上で、気をつけないといけないことはいくつもある。

 例えば、無理な依頼を受けないことだったり、強大な組織を敵に回さないことだったり、将来性のある人とは親しくすべきだということだったり。

 そういうことを学んでいく上で、自分が非情になっていくのを感じた。何度も、親しくしていた人が、失敗して堕ちていくのを見てきた。何度も、縋って伸ばされた手を、蹴落としてきた。

 そうしないと、この世界では生きていけなかった。

 つい二ヶ月前だって、『殺さない殺し屋』は、長い付き合いの灰田さんの頼みを断った。

 彼女の頼みは、大きくなり過ぎた『タイターン』を潰してほしい、というものだった。きっと灰田さんは、このまま『タイターン』が取り返しのつかない悪行に手を染める前に、彼らを止めて欲しかったのだろう。

 けれど、『タイターン』は強大な組織で、『タイターン』を潰すなんて無理な依頼だったのだ。だから、クロさんは断った。

 オレたちが住んでいるのは、そういう非情な世界だ。この世界で過ごしていれば、誰だってそう割り切るようになる。少なくともオレは、そう割り切った。

 一方で、セツがどう思ったのかは分からない。同じように割り切ったのだろうか。もしかしたら、割り切れていないのかもしれない。

 なんたって、彼はまだ十四歳なのだ。

 そうでなくても、羽田さんはセツにとって────



 そんなことを考えたのは、クロさんの一言がきっかけだった。

「セツがちょっと怪しい動きをしてるから、注意しておいて欲しい」

 それは数日前で、灰田さんがうちの事務所に来てからちょうど二ヶ月が経った、ある日の出来事だった。その時は、まさかセツがオレたちを裏切るはずがないと笑い飛ばしたけれど、思えばクロさんはそういうことを考えていたのだろう。

「怪しい動きって、まっさか。どうせ、好きな女の子が出来てコソコソしてるとか、そんなところっすよ」

「そうだといいんだけどね。……まぁ、私たちの稼業に考え過ぎなんて言葉はないし、念の為に頼むよ」

「あい、わかりました」

 そんなやり取りを交わしてから、オレはセツの見張り役についた。

 見張り役と言ったって、そう難しいことではない。とりわけセツに関して言えば、癖も嗜好も知り尽くしている。いつもの任務の片手間にこなせる位だった。

 そういう訳で、セツの見張り役としての日々が続いた、数日後の今日。

 初めて、セツが怪しい動きを見せた。

 前日に大きな任務を終えた影響で、殺し屋稼業が丸一日休みになっていたからか、事務所からふらっと姿を消したのだ。もちろんオレも、後を追うように外に飛び出た。

 彼は尾行に気づく様子もなく、すいすいと迷いなく歩いていく。歩くにつれて、どんどん治安の悪い地域へ進んでいく。そしていよいよ、この街の一番治安が悪い裏路地までやってくると、その中でもぼろっちい雑居ビルに入っていった。

 オレは、セツの乗ったエレベーターが四階に止まったのを確認してから、ひとまず考えをまとめることにした。

 これが、クロさんの言っていた怪しい動きなのだろう。だとすると、本当にセツは、『殺さない殺し屋』を裏切ろうとしているのだろうか。

 やはりオレには、セツが『殺さない殺し屋』を裏切っているとは思えなかった。

 けれど、それはそれとして、この先に何があるかは確認しておいた方がいいように思える。

 問題は、室内の見張りとあって、難易度が跳ね上がっていることだった。

 最悪の場合に使える逃走経路や、セツへの言い訳なんかを一通り考えて、それから例の雑居ビルに入ることにした。警戒度をぐんと上げながら、非常階段で四階まで上る。

 すると、その先の薄暗い空き部屋から、セツの声が聞こえてきた。どうやら、誰かと話しているらしい。

 息を潜めて、足音を消しながら、近づく。

 近づくにつれて、火薬とタバコの匂いが鼻腔をくすぐった。

『……さんは、……をしといてよ。その間にオレが、……しとくから』

『でも、……だよ。だって、僕は……』

 声が小さくて、何を話しているのか、聞き取れない。

 セツと話しているもう一人の声も、どこか聞き覚えがあるような気はするものの、誰か分からないでいた。せめてそれが誰かだけでも、情報収集しておこうと決めて、摺り足で近づく。

 ドアの縁に体を寄せて、部屋の中の様子を覗いた。

 部屋自体の広さは、精々八畳くらい。真っ昼間だというのに、カーテンが閉め切られていて薄暗い。そんな部屋の隅っこに、木で出来た机と椅子があって、そこにセツは座っていた。

 机の上にガンオイルやらスポンジやら解体された銃身が散乱しているから、きっとメンテナンスをしているのだろう。それで、火薬の匂いがしたわけだ。

 そのすぐ脇で壁にもたれかかりながら、タバコを吸っていたのは、──あのジョーカーさんだった。

 セツとジョーカーさんに、何か関係があるとは。……つい最近まで、ジョーカーさんはセツのことを覚えていなかったのに。

 思わず、喉が鳴る。

 俄然、会話内容が知りたくなる。

 だって、あのジョーカーさんが、セツと共に怪しい動きを見せているのだ。何でもかんでも曖昧にして、決断から逃げようとする、あのジョーカーさんが。

 どこか浮き足立った気分で、二人との距離を詰める。

……今にして思えば、この時に引いておけばよかったのだ。ここが、限界すれすれの引き時だった。そうすれば、クロさんに事態を伝えられたし、あんな最悪の結末を迎えはしなかっただろう。

 こんな地に足つかない状態では、失敗するだなんて、誰よりもオレが知っていたはずだ。でも、この時のオレはどうかしていた。

 落ち着かないまま、その部屋に足を踏み入れたのだ。

 その瞬間、銃のメンテナンスに意識を向けていたはずのセツが、こちらを向く。

 口元に悪ぶった笑みを貼り付けるセツ。

 相変わらず、タバコを吸ったままのジョーカーさん。

「ハクがこんなに分かりやすく、近づいてくるだなんて、珍しいな。……そんなに動揺したんだ?」

 そして、一つの銃口が、オレの胸に向いていた。


     4(井上奈々視点)


 2014/2/28──現在


 目が覚めると、鉄筋コンクリートがむき出しの天井が現れた。

 ここは、どこだろう?

 寝ぼけ眼を擦りながら、辺りを見回すと、床も壁も一面むき出しの鉄筋コンクリート、窓の一つもない、殺風景な部屋にいるらしいと分かった。物も、アタシが今寝ているベッドを除けば、ほとんど何もない。

 ゆっくりとベッドから身を起こすと、すぐ隣から声がした。

「起きたか、女」

 声の方を振り向いて、ベッドのすぐ隣で、地べたに腰掛ける男を見つけた。眼鏡の奥の目つきがひどく悪くて、勘違いされそうな人だな、という印象を抱く。

「あなたは、誰? ここはどこ?」

 真っ先にそう尋ねると、男はニヤッと笑った。

「いいね、直接的なのは嫌いじゃない。回りくどいのよりは、よっぽど」

 それから男は、首回りを抑えながら肩を回して、「ずっとこの体勢で、お前が起きるのを待ってたおかげで、凝ってやがる」と忌々しそうに呟いた。

「回りくどいの……?」

「あぁ。最近、回りくどいのが逃げやがって。これだから回りくどいのは、嫌いなんだ」

「え?」

「……いや、こっちの話だ」

 そう言って、男は何かを思い出すように、黙り込んでしまった。

 鉄筋コンクリートむき出しの壁や床や天井、窓のない部屋、ふかふかのベッド、言葉遣いの悪い男、状況の分からないアタシ。……つながりは、一向に見えてこない。

 そんなもどかしさを抱えながら、男が話を再開するのを待つ。

「……俺は朱良治。男。二十九歳。この街に住むゴミの端くれ。好きなものは金と酒、嫌いなものは殺し屋。そしてここは、俺が持つビルの一室だ」

 ようやく、男──朱良治は、一息に質問に答えた。

 気になることはいくつもあったが、緊急性の高いものを選ぶ。

「ビルの一室? アタシはどうして、ここにいるのかな?」

「誘拐したからだよ。俺が」

「……誘拐?」

 その言葉は、受け入れるには少し非日常的すぎる響きを孕んでいた。

 同時に、納得できる一言でもあった。殺伐とした部屋と、眠らされていた私と、言動の荒い男を、見事につなぎ止める一言ではあった。

「でもきっと、アタシを誘拐する意味なんて、ないよ」

「意味がない? それは一体、どういうことだ?」

「家族がいないんだよ、アタシ。五年前に姉を亡くしてから、一人も。だから──」

「身代金をせしめることは、できない?」

 先回りして述べられた言葉に、頷く。

 すると、誘拐犯はげんなりした顔を作った。

「おかしな女だな、ったく。誘拐犯に身代金の心配なんてするなよ、気持ち悪い」

「心配じゃないよ。こうやって自分の価値を下げれば、無傷で解放してくれるかと思ったんだ」

「それに、誘拐なんてしてんだ。お前が天涯孤独なことくらい、知ってる」

「……つまり、目的は身代金じゃない? なら?」

 朱良治は眼鏡を外すと、はぁっと息を吹きかけて、それからハンカチで汚れを拭き取った。綺麗になったレンズ越しに、目を見据えられる。

「お前、家族って何だと思う?」

 唐突に話が切り替わる。

 私を誘拐した理由は話したくない、ということだろうか。それとも、家族についての話と関係している、ということだろうか。

 誘拐と家族が関連するとは思えないけれど。

「わからないな。アタシには家族がいないから」

「でも、五年前まではいたんだろ? 姉が」

「ろくな姉じゃなかったけどね。内気で臆病で、一人じゃ何もできないような姉だったから」

 その上、恋に恋する少女みたいな人だった。そして、どこかの偉い人と恋に落ちて、厄介ごとに巻き込まれて、呆気なく死んでしまった。

 ろくでもない姉だ。

「だから強いて言うなら、アタシにとって、家族はろくでもないものだよ」

「違いねぇ。ろくでもない奴の家族は、当然、そう思うよな」

 俺もだいたい同意見だな、と男は続けた。

「そりゃ、ろくでもない人間でも、男と女がいるだけで子供は生まれるんだ。そして、子供が生まれて変わる奴もいれば、変わらない奴もいる」

「そうだね」

「でも、人間ってのは、帰属意識を得ないと生きていけない生き物だ。家族でケアできなかった承認欲求は、別のどこかで満たさなきゃならない。だから、家族がいない奴にも、『家族』はいる」

 アタシに、聡や龍一がいるように。

 話を聞いていて、何となくこの男も家族に恵まれなかったのだろう、と思った。そしてアタシが聡や龍一と出会ったように、朱良治も『家族』と出会ったのだろう、とも。

「お前、『タイターン』って知ってるか?」

「いや」

「……まぁ、そういう不良組織があったんだよ」

 また、話が切り替わったのだろうか。

 そう思ったけれど、違った。

「その『タイターン』は、俺にとっての『家族』だった。生みの親とは比べられないくらい、家族らしい『家族』だった。側から見れば、認め合って、傷を舐め合ってるようにしか見えなかったかもしれないが」

「そう思うのは、舐め合わなきゃいけない傷を、家族から負わされたことのない人間だけだよ。その痛みはわかるよ、一応。アタシにも家族より家族らしい『家族』がいるから」

「由良聡と三上龍一か?」

「アタシのことを知ってる、って言ってたのは、あながち嘘じゃなかったんだね」

 そう言うと、朱良治は吐き捨てるように笑った。

 今まで話してきて、わずかながらこの男のことがわかったような気がしていた。きっと、アタシも朱良治も家族に恵まれず、代わりに素晴らしい『家族』と巡り合った。アタシの『家族』が正義感の強い聡や龍一だったのに比べて、彼の『家族』が不良組織だったという違いこそあれど。

 まるで同じ境遇を先に進む、人生の先輩みたいな人だ。出会い方が違えば、友達になれたかもしれない。

 そう思いかけて、すぐに考え直す。何年、何十年経っても、アタシは誘拐なんて誤った手段は選ばない。アタシは人質で、この男は誘拐犯だ。そこを取り間違えちゃいけない。

「それで、この家族の話が、アタシを誘拐したのと、どう関係していくのかな?」

 毅然として、そう問い詰める。

 朱良治は、やはりその余裕そうな笑みを崩さないままだった。

「まぁ、そう結論を急ぐなよ。時間はたくさんあるんだから。……『タイターン』を知らなかったってことは、『タイターン』が潰されたことも知らないよな?」

「そうだね。潰されたの?」

「あぁ。たった一人の少年の殺し屋にな」

 少年の殺し屋? この街には、殺し屋なんて稼業が存在するのだろうか。しかも、少年の殺し屋だなんて。実に『非日常』的なフレーズだ。

 いや、それ以前に。

「たった一人が不良組織を潰してしまったんだ?」

「そうだ。あの殺し屋は、一番直線的で直接的な手段を取りやがったんだ」

「それは、具体的には、どんな手段で?」

「別に、何だっていいだろ。あの時のことは、思い出したくないんだ」

 言葉が、静かにこの小さな部屋に響く。

 男の口元にあった笑みは、いつの間にかどこかに消え行く。

「……とにかく、『タイターン』は一人の殺し屋によって潰された。そしてその過程で、『タイターン』のトップだった灰田波依が死んだんだ」

「灰田さんは、あなたにとってどんな人だったの?」

「俺にとって? ……多分、母親みたいな人だった」

 だとしたら、灰田波依という『家族』を亡くし荒んだ結果、この人は誘拐を犯したのだろうか。そうすると、アタシも聡や龍一を亡くしたら、同じように犯罪に走るのだろうか。

 いくら想像してみても、聡と龍一がいなくなった先が思い浮かばなかった。

 それに、男の話もそれほど簡単なわけではなかった。

「でも、それだけなら、お前を誘拐したりはしない。そんなに俺は弱くない。……誘拐なんてもんに手を染めることになったきっかけは、また別にあるんだよ」

「また、別に?」

「あぁ。それは、五日前の話だ……」

 その言葉から始まった話は、まるで後日談みたいなエピソードだった。

 灰田波依を亡くした朱良治は、三年もの間、失意に暮れた日々を送ってきた。そんなある日、灰田波依と思わしき人物から、手紙が送られてきた。その手紙には、『タイターン』を潰した殺し屋・セツの遺品につながる鍵が同封されていた。

 もしかしたら、灰田波依はまだ生きているのかもしれない。あるいは、セツの遺品とは、灰田波依のことを指しているのかもしれない。

 そんなことを考えた朱良治は、とりあえず、手紙の送り主からの接触を待った。

 しかし。

「『タイターン』を潰した少年の殺し屋の仲間が、鍵を盗みやがったんだ。油断してたんだよ。……よくよく考えてみれば、そりゃあ、かつての仲間の遺品だなんて、奴らが一番欲しがるものだってのに」

 朱良治は当然、全力を尽くして鍵の行方を追った。

 そして、辿り着いた先が、──由良聡。つまり、アタシの『家族』だった。

「多分、あの由良聡って野郎は、『タイターン』を潰した殺し屋の一味なんだよ。そして今は、鍵の保管者役についてるとかだろう。だから、奴の弱みを握って優位に立つために、お前を誘拐した」

 と、男は言う。

 アタシは、その言葉を聞いても、未だに納得がいっていなかった。もちろん、聡が殺し屋の一味だという話に。

 だって、あの聡だ。正義感に燃えていて、悩んでいる人がいたら、誰彼構わず助けちゃうようなあの聡だ。姉が死んで以降ぽっかり空いていた穴を、優しく埋めてくれたあの聡だ。

 けれど、それと同時に、どこかでストンと腑に落ちるものがあった。例えば、彼の腕には痛々しい刀傷が広がっていた。あんな傷、普通に暮らしていたら出来ようがないものだ。

 それだけじゃない。聡の正義には、どこか刃みたいな鋭さが潜んでいる気がしていた。

 誰かを救おうとする時、邪魔になる物を強引に蹴飛ばす勢いがあった。到底思いつかないような、ゾッとする用な方法を提案することがあった。背筋も凍るような目付きをすることがあった。

 それこそ、殺し屋みたいに。

 まさか、それだけで男の言うことを鵜呑みにするわけではないけれど。

「つまり、あなたの最終的な目的は、鍵を奪い返すことなのかな?」

「あぁ、そうだな」

「それなら、問題はないね。もしあなたが嫌じゃなきゃ、提案があるんだけど」

「……提案?」

「アタシが全面的にあなたに協力して、鍵を取り戻せるようにするよ。何なら、聡を説得してもいい。その代わりに、それ以降の聡とアタシの安全を保障して欲しいんだ」

「安全保障、……ってぇと、鍵を奪い返した後、仕返しついでに由良聡を殺したりしないでほしい、ってことか?」

「そうだね」

 そんな提案を持ちかけると、考えもしなかったのだろう、朱良治はアタシを味方につけるメリットを吟味し始めた。あるいは、アタシが裏切る可能性を考え始めた。

 もちろん、アタシに裏切るつもりはない。

 結局、重要なのは、アタシにとって例の鍵がどうでもいいものだということだった。アタシにとっては、そんなよくわからないものより、ずっと聡の方が大事だ。一方で朱良治にとっては、鍵が何よりも優先される。だから、お互いの利益が矛盾しない。

 しばらく経って、予想通り朱良治は首を縦に振った。

「いいぜ。その提案、乗った。……お前みたいな気の強い女は、嫌いじゃないしな」

 それから男は少し考えて、そしてもう一度口を開く。

「なら、その手始めに、由良聡をおびき寄せるためのメールを送ってくれよ。文面は、そうだな──」

 それから、朱良治に言われた通り、携帯を操作して、SOSのメールを作り上げていく。要約すると、大体「『タイターン』の生き残りを名乗る男に攫われました。男はある鍵を所望しています。どうか、心当たりがありましたら、三月五日に、どこそこへ来てください」という感じだ。

 これできっと、聡は鍵を持って来てくれるだろう、

 残った問題は、その聡のことだった。

 本当に、聡は殺し屋の一味なのだろうか。少なくとも、アタシが接してきた彼は、殺し屋とは真反対にいるような人物だった。

 けれど、人間は一側面を切り取って語れるほど、簡単な生き物じゃない。関わる人間が変われば、つける仮面も変わる。そういう風な生き物だと思う。

 かつて生きていた姉が、アタシの前ではおっとりしていても、恋に落ちた相手の前ではしっかり者のように振舞っていたように。

 だから、朱良治の提示した可能性を、真っ向から否定することはできなかった。もしかしたら、本当に殺し屋の一味なのかもしれない。今まで何人も殺してきた、冷酷な人間なのかもしれない。

 だとしても、由良聡と呼ばれる個体に、あの人情味あふれる正義漢の一面が消えて無くなるわけではないのだろう、とも思った。少なくとも、アタシの視点から切り取れば、その一面は確かにあるはずだった。

 当然、まだ困惑はある。

 でも、そう難しいことばかりを考えないようにしよう。

 結局、今、すべきことは、ただアタシと聡の安全を確保することだけだ。

 そして、それが完遂できた後にでも、ゆっくり聞けばいいのだ。聡が、本当に殺し屋なのかどうかは。例えば、聡の家でお茶でも啜りながら。

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