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第二話


     間・2(灰田波依(はいだはい)視点)


 2011/5/14──三年前


 その日は曇りで、やけに風が強かった。

 むき出しにされた鉄の階段を上る間も、風は吹きすさび、落ちてしまわないかという不安がつきまとった。

 ようやく数十段を上り切り、錆びた扉に行き着く。この先に、事務所があるのだ。

 ドアノブに力をかけると、ギィーッと古めかしい音を立てて扉が開いた。

「あ、灰田さん。こんちはっす」

 物が散乱した机でカップラーメンを啜る青年が、右手を挙げた。

 チチチチ……、と壊れかけの電球が鳴る。天井についた電灯が、もう、一つ壊れているせいか、部屋の中は薄暗く感じられた。

 六畳間の部屋は、相変わらずガラクタが散乱している。びっしり文字が敷き詰められたメモ、何かのハウツー本、ペティーナイフ、ドライバー、釘、銃弾……

 そして、青年の横では、首元にマフラーを巻いた少年が、ヘッドホンをつけながら体を前後に揺らしていた。どうせまた、売れないミュージシャンが路上で配っているCDでも、聴いているのだろう。

「ハク、クロさんがどこか知ってる?」

「……クロさんなら、奥の部屋で書類の整理をしてますよ」

 そう言って、青年が奥のドアを指差す。

 礼を言ってから、足の踏み場に気をつけて、私は移動を始めた。

 奥の扉を目指す途中、ふと気になって、例の少年の頭に手をのせた。彼は驚いてこちらを見上げ、私だと気づくと、またヘッドホンの向こうに興味を戻した。

「ハク、セツをよろしくね」

 そう言うと、青年──ハクは神妙そうに頷いた。

 それから、ようやく奥の扉にたどり着く。

 ドアノブに力を込めると、やはり古めかしい音が鳴り、紙の束と向かい合う男が姿を現す。

「灰田さん? 久しぶりですね。どうかしましたか?」

「久しぶりだね、クロさん。今日は、その……」

 男を前にして、何の話から切り出そうか悩む。

 どう話したら、この男は味方になってくれるだろうか?

「クロさんは、うちの組織のこと、どこまで知ってる?」

「うちの組織って、『タイターン』のことですか? あなたが総長を務める?」

「うん、そうだね」

 『タイターン』。私がトップに座る組織の名前だ。

 巷では不良グループだとか呼ばれている組織だ。……私にとって『タイターン』は、決して不良グループではないけれど、仕方がない。

 今、『タイターン』がやっていることは、不良グループと言われて仕方がない、あるいはそれ以上に良くないことだった。

「クロさんも知ってるよね? うちの組織が、不良グループって呼ばれてることは」

「そうですね。この街でこの稼業をしていたら、誰でも知ってますよ」

「もうね、私が仕切るには、『タイターン』は大きくなり過ぎたんだよ。顔すら知らない奴が、『タイターン』所属だと言って、悪さをしてるくらいなんだ。だから──」

「だから、『タイターン』を潰してほしい、ですか?」

 先回りして、言いたい内容が口に出される。

 こうやって他人の口から聞くと、いかに無粋な頼みをしようとしていたか浮き彫りになって、情けない。

「そうだね。それが今日の私の用件だよ」

 それから、依頼料ならいくらでも払うよ、と続ける。

 男は静かに目を瞑っていたが、少しすると瞼を開き、申し訳なさそうに無精髭を撫でた。

「申し訳ありませんが、その任務はお受けできません」

 薄々予感していた答えだった。

「それは、クロさん達が『殺さない殺し屋』だから?」

「えぇ。仰る通りです」

 『殺さない殺し屋』には、ある決まりがある。

 その信念のもとに動く彼らにとって、私の任務は無理難題なのだろう。

 仕方がない、と割り切ったつもりで、挨拶を置き土産にその場を後にする。けれど心の内は、そう簡単に割り切れないでいた。

 頼みの綱が、切れたのだ。

 焦りだけが増していた。


     2(クロ視点)


 2014/2/28──現在


 問題が起きたのは、一昨々日のことだった。

 その日、昼前に目が覚めた私は、同僚からある荷物を受け取るために家を出た。受け取り場所はとある駅前のベンチだったので、電車を使うことにした。

 道中、変装をしていくという趣旨のメッセージを送った。もしも荷物の受け渡しが見つかっても、私が誰かを特定されないためだ。職業柄、私は、それなりに変装もできる。

 返信には、同僚がどんな格好で来るのかが載っていた。

 曰く、黒のローブで来るようだった。それで、顔を隠すのだとか。

 同僚は昔から黒のローブが好きだった、と思い出す。それに、変装が苦手だったことも。

 それからさらに数十分電車に揺られていると、もう一度、携帯が震えた。「次は、◯◯駅〜」と間延びしたアナウンスを聞きながら、メールフォルダを確認する。

『それでは、今日渡した鍵の保管はよろしくお願いします。オレはできる限り早く、その鍵が何に使えるのかを調べるので』

 一瞬、送り先を間違えたメールだと思ってしまった。

 しかし、確かに「鍵」は今日受け取るはずだった荷物だ。

 電車が駅に近づき、車内がわずかに揺れる。負の加速度が体にかかる。

『どういうことかな? 私はまだ、鍵を受け取ってないと思うけど……』

 とにかく、メールを飛ばす。

 返信は、すぐにきた。

『さっき駅前のベンチで渡した、あのアタッシュケースの中に入っています』

『そもそも私は、今、その駅前のベンチに向かっている途中だよ。……今のところ君からは何も受け取ってない』

『本当ですか!? でしたら、もしかしたたオレが荷物を渡したのh、関係ない一般人だったかもしれません』

 急いで書き込んだのだろう、誤字だらけのメッセージが届く。

 二、三度メールのやり取りを続けるうちに、私にもぼんやりと事態の概要が掴めてきた。どうやら同僚は、関係ない一般人を変装した私だと勘違いして、荷物の「鍵」を受け渡してしまったらしい。

『でも、おかしいです。オレ、いつもの合言葉を使いました』

 少しは落ち着きを取り戻したのだろうか、誤字は見つからない。

『合言葉?』

『えぇ。……ですから、決まり文句みたいなアレですよ。オレ、『ネズミ』の合言葉を使ったんです』

 説明が届いて、ようやくピンと来た。

 同僚の言う合言葉とは、私たち『殺さない殺し屋』が重要な話し合いなんかで必ず使う、いくつかの受け答えのことだ。これを答えられるかで、相手がどこかのスパイではなく、確かに『殺さない殺し屋』だとわかる算段なのだ。

 例えば、『ネズミ』の合言葉だと、最初の答えが『猫』で、二つ目の答えは『ペットショップ』というように。

『……それなら、偶然正しい答えが返ってきたのかもしれないね』

『はい。あるいは、どこかのスパイで、以前合言葉を盗聴されていたのかもしれませんが』

 なんにせよ、今更悔やんでいても仕方がない。

『割り切るほかないね。……荷物を渡してしまった相手について、詳しく教えてくれるかい?』

 その後届いた一般人(仮)についての情報を保存しながら、少し考えてみる。

 同僚の言う通り、この男子高校生らしき歳の青年は、どこかのスパイなのだろうか? 高校生でスパイなんて馬鹿らしいように思えた。思えたが、そんなことを言い出したら、殺し屋なんて職業自体が馬鹿らしいのだ。人を殺して生計を立てようだなんて。

 この街には悪人が溢れていて、特に私たちよりわかりやすい悪人だなんて、枚挙にいとまがない。我が街は、元々不良グループが治めていた土地なのだ。

 最悪の事態を想定して動こう。

 目的地だったはずの駅を乗り過ごしながら、心の中でそう決めた。

『とりあえずハクは、予定通り、例の鍵が使える鍵穴について調べておいてくれ』

『わかりました。ですが、鍵の方はクロさんひとりで大丈夫なのですか?』

『大丈夫かは分からないな。でも、何とかしなくちゃね。……私が二番目に嫌いなものは予定を邪魔する人間で、一番は予定がうまく回らない時間なんだよ』



 それから例の一般人(仮)を探すのに二日をかけ、彼の身元が割れてからは、詳しい情報を集めるのに時間をかけていた。

 ハクの言う通り、スパイかもしれないし、あるいはまた別種の危険な人間かもしれないのだ。最悪の事態を想定すると決めた以上、時間をかけて接触すべきだろう。

 以下、その情報。

 名前は由良聡。高校二年生。十七歳。

 幼い頃に両親を亡くしており、今は叔母からの仕送りで一人暮らしをしている。最寄りの桜東高校に入っており、スポーツ、学業、ともに高水準。通知表はいつも五段階のオール五で、成績も態度も模範的な生徒だとか。

 両親を殺された過去故か、正義感が強いようで、学内外問わず慕われている。その分、不真面目な生徒などには嫌われている模様。

……聞いている限りでは、まるで悪人には見えないが。

 しかし、これで気を抜くまい。それこそ、どこかのスパイなのだとしたら、これくらいの偽装工作は朝飯前だろう。

 そして今日は、彼の交友関係を洗い出すつもりだ。聞いたところによると、顔の広い彼にも、特に親しい二人がいるらしい。

 井上奈々と、三上龍一。

 その二人の正体も含め、まだまだ調べなければいけないことは山積みである。

 午後四時前、やはり由良聡を追って、私はどこにでもありそうな住宅街に溶け込んでいた。十数メートルを空けて前に見えるのは、学校帰りのターゲット。

 今時珍しい学ランを着て、まっすぐに家を目指している。その前髪は長く、目にかかっているのが見えた。しかもその髪は白色で、図らずも目を引く。おかげで尾行は簡単だった。

 しかし、今日もまた一直線に帰宅なのだろうか。

 尾行を始めてから今まで、人助けどころか、誰かと遊びに行く姿さえ見せてくれない。こうなると、交友関係を確かめるのは難しいが────

「……あの、すみません」

 考え事をしながら尾行を続けていると、突然背後から声をかけられた。

 ぎくっと、心臓が音を立てる。

 懐に手を忍ばせて、ひんやりとした金属の感触をあてにしながら、ゆっくりと振り向くと。

……そこには、私の半分くらいしかない男の子が立っていた。

「あの、すいません」と、繰り返す少年。

「どうかしたのかな?」

「ネズミ、見てませんか?」

 思わず、目が点になる。

 この現代にネズミを探しているのか、この少年は? まさか、いるはずがない。

 そう口にしようとして、ふと頭の片隅に何かが引っかかった。

……ん? ……ネズミ?

「おもちゃのことじゃないですか? この子が言ってるのは」

 引っかかった違和感に、しきりに首を傾げていると、また背後から声がした。

 また、振り向く。

 そこで「こんにちは」と頭を下げていたのは、例の男子高校生だった。

 由良聡。

 ぎくっと、心臓が音を立てる。

「君が探しているネズミは、これかな?」

 そう言って彼は、ネズミのおもちゃを取り出した。ちょうど、ドラえ◯んが怖がりそうなやつ。

「うん」と嬉しそうに受け取る少年。

 なるほど、これが例の人助けの現場だそうだ。

「ありがと、お兄ちゃん」

「もう無くさないように、気をつけるんだよ」

 そうやっておもちゃを渡す、その隙に袖がまくれ、ふと、彼の細くて白い腕が露わになる。そこには思いがけない、思わず目を背けたくなるような痛々しい刀傷が付いていた。

……刀傷?

 そんなことに気を囚われている内に、少年はおもちゃを抱え、その場を後にしてしまった。

 残される、気まずい二人。

「初めまして。よくおもちゃのことだって分かったね、君」

「それほどでもありませんよ。初めまして」

 由良聡は微笑む。

 わずかに、その白い髪が揺れた。

「──じゃ、ありませんよね?」

 ぎくっと、心臓が音を立てた。

「と、いうと?」平然を装って、言葉の真意を測る。

「あなたですよね? ここ最近、僕のことを尾けていたのは」

 誤魔化しようもないほど直球な回答が、有無を言わさず投げ込まれた。

 言葉に詰まる。

……バレていたのだろうか。私の尾行が。

 そんな、バカな。

 これでも私は、プロだ。ハクほどでないにしても、一般人に尾行がバレるとは思えない。それこそ、どこかのスパイなのだとしたらまだしも。

 目の前の少年への警戒レベルをぐんと上げて、恐る恐る尋ねる。

「私が言うことじゃないのかもしれないけど──」

 そこで一旦、咳払いを挟んで。

「どうして尾行に、気づいたのかな?」




 そうして本題に入る前に、立ち話もなんですから、と彼の家へと通された。

 ほいほいとついていくべきか悩んだが、家の中にあるのだろう例の鍵に目が眩んだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、という諺もある。

 道中も、そして彼の家に着いてからも、由良聡は怪しい動きを見せず、「つまらないものですが」とお茶を出されてから、話は再開した。

「僕、気配に敏感な体質なんです。後ろに立たれたら分かる、みたいなレベルじゃなくて。……かくれんぼって、知ってますよね? あれ、僕だけ鬼をさせてもらえなかったんですよ。強すぎるからって」

 由良聡は、自分用にも淹れていたお茶をすすって、そう言った。

「ですから、尾行されていることに、すぐ気づいたんです。それからは、念のためにカメラを設置していて……」

 そう言って取り出した小型カメラには、確かに身を潜める私の姿がキャッチされていた。

「なるほど。これを見て、私の尾行に気づいたということかな?」

「はい、そういうことになりますね」

「君、随分ずれた感性を持っているんだね。普通、尾行されてると気づいたら、警察に駆け込むと思うけど」

 ましてや、尾行者を家に招いたりはしないだろう。

 出されたお茶に視線を落とす。あるいはこのお茶に、毒でも盛られていたりして、と考えていると、「毒なんて入っていませんよ」と軽やかに注釈を付けられて、調子が狂った。

「いえ、尾行には慣れているので」

 やはり軽やかに、彼はそう言う。

「尾行に? 君のことが好きな女の子に、よくストーキングされていた、とか?」

「いいえ。……そんな特殊な状況でなくても、この街では尾行なんてよくあることでしょう」

「まさか。尾行自体が特殊な状況だよ。よくあるはずがない」

 確かに、この街は悪人で溢れている。

 けれど、それはあくまで裏の事情だ。学生への尾行が日常茶飯事なはずない。

「話を戻しましょう。……今は、僕がどうしてあなたを家に招いたか、についてでしょう?」

「そうだったね」

「はい。というのも、実は僕にも、尾行される覚えがあったんです。そして、あなたからの接触を待ってたんです」

「私からの接触?」夕方に近づき、伸びてきた髭に、無意識に手を伸ばす。「と、いうと?」

「ここ最近、僕の周りでおかしなことが起きていたんです。そしてそれらが、どうにもこの尾行と関係している気がしたのです」

「気がしただけで、尾行者を家に?」

「えぇ。確信めいた予感でしたから」

 由良聡がお茶を口に含む。

 彼の言う『おかしなこと』とは、きっとハクから鍵を受け取った時のことだろう。

 もしも由良聡がただの一般人で、偶然合言葉を口にしたのだとしたら、それは随分おかしな体験に違いない。

 そんな予想を立て──それは実際正しかったわけだが──、けれど、それだけじゃなかった。

 由良聡が、案の定ハクと鍵の話をし終えた後、てっきり彼は例の鍵を取り出すのかと思った。間違えて受け取ってしまい悪かったという趣旨の謝罪の言葉と一緒に。

 しかし鍵は行方知れずのままで、代わりに一枚の紙が取り出された。

「妙なアタッシュケースを受け取ってから、数日後に届いたものです。手紙、と言うよりかは……」

 濁された言葉は問い質さずに、その手紙のような用紙に目を通した。

『拝啓、親愛なる仇敵へ

 挨拶略。僭越ながら、貴方様の大事にしているらしい井上奈々様は攫わせて頂きました。解放して欲しくば、例の鍵を返すように。受け渡し場所は追って、手紙で連絡します。

 末筆ながら、俺たちの邪魔にならない範囲で貴方様の多幸をお祈り申し上げております。

陰ながら貴方様を見守る仇敵S』

 思わず、顔をしかめる。

 その文面は、ハクが鍵を盗んだ相手に宛てた手紙によく似ていた。

 何となく、状況が飲み込めてくる。

 この手紙──というより脅迫状の送り主は、ハクが鍵を盗んだ相手なのだろう。そしてその相手は、鍵を受け取った高校生・由良聡を『殺さない殺し屋』の一味だと考えている。

 事態がややこしい方へと向かっているのを感じた。

「それで、君はこれからどうするつもりなのかな?」

 脅迫文に従って、鍵を返すつもりなのかな? そう続ける。

「悩んでいます。どうにも手詰まりのような気がして」

「手詰まり?」

「たとえ鍵を渡しても、奈々を返してもらえるか分からないじゃないですか。……女の子を誘拐しちゃうような悪人が、素直に要求を飲むように思えないでしょう?」

「そうだね」

 そして、鍵を返してしまえば、『鍵を持っている』という優位性を手放してしまうことにもつながる。

「かと言って、鍵を渡さないわけにもいきません。奈々は大切な友達ですから」

 由良聡は、そのまま困った顔を作った。

 それを見て私は、わずかに戸惑い、迷ってから、語ることにした。鍵の正体とこれからの提案について。

 肺に溜め込んだ空気を吐き出してから、重たい口を開ける。

「……君に鍵を受け渡したのは、実は私の仲間なんだよ。君の予感通り。手違いで渡してしまってね。できれば返して欲しいんだけど、どうかな?」

「それは、できかねます」

「君は知らないだろうけど、その鍵はすごく重要なものなんだよ。私のすごく大事な人の遺品につながるものなんだ。だから、どうにかできないかい?」

「すみません。僕にとって、奈々もすごく大事な人なので」

 当然だ、家族みたいに大事な友人の無事がかかっているのだから。脅迫状を見せられた時から、そう簡単に話が進むとは思っていない。

 本題はこの先。

「それは、井上奈々の身の上が心配だから鍵は返せない、ということだよね? だとしたら、提案があるんだけど」

「提案、ですか?」

「もし私が例の脅迫状を送った相手から、井上奈々を助けてきたら、鍵を返してくれるのかな?」

 そう言うと、由良聡は考え込んでから、すぐに首を横に振った。

「それでは、脅迫状通りに鍵を返すのと同じです。僕は、それ以降の安全を保証して欲しいんです」

 なるほど。

「では私が、その後の君たちの安全まで請け負うと言ったら?」

 はたと、ティーカップに伸ばそうとしていた彼の手が止まる。

「……どうやって僕らを守るつもりなんですか?」

 不審そうな視線が注がれる。

 その疑問も当然だ。

 相手は、真っ向から脅迫状を送ってくるような悪人。対する味方は、学生を尾行するようなひ弱そうな不審者。

 そこで私は、一番の秘密を口にすることにした。ゆっくり。

「実は私はね、殺し屋なんだ」

 言葉は、弾けそうなほどふわついていた。

────実に、口馴染の悪い一節だった。


「殺し屋……」

 由良聡は、その響きを確かめるように、繰り返す。

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