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【完結】POD Enemy  作者: D-delta
エピソード3 疲れと生存

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第九十八話 生き残るためには……

皆さまあけましておめでとうございます。更新するのに年を越してしまいした……。

登場人物の感情を書くのに少し手間取ってしまってのこの更新の遅さです。やはり難しいものです、登場人物の感情を書くというものは。

 深く静かな夜。銃声が響くこともなく砲撃音が轟くこともない静かな夜。闇夜の森の中、ただ草木が風で微かに揺らぐ音だけが通っていく。

 時刻は午後八時。

 草木と闇夜の暗さで身を隠し、息を潜める生存者たち。一人一つの缶詰めという貧相な食事を終えてから、美保とアイーラは疲れによってぐっすりと寝てしまい、レイテットと雛は見張りついでに休息を取っていた。

 レイテットと雛、実質二人きりの時間が訪れる。


「雛君、ここからどうする?」

「……どうしようか」


 レイテットの問いに、雛は珍しい答えを告げた。その雛の表情はどこか弱って迷っている。いつものように〝みんなで生き残る〟という意志を持った目は、今はない。

 そんな雛の表情からレイテットは察して「また一人でなにか背負い込んでない? 私たちと出会った最初の時みたいに」と柔らかく優しく問う。


「背負い込んでいるつもりはないんだけどな……」

「でも知らず知らず背負い込んでる。そうでしょ?」

「そうだな……そうなる」


 血の滲んだ包帯に包まれて既になにも見えない右目、残った左目で雛は夜の星空を見つめた。ここまで幾度も生き残る方法を思考し、悩み、迷い、その末に疲れた顔が遥か遠くで輝く星と向き合う。

 そしてこれから先を生き残る方法を思い悩んだ挙句、雛の横顔は星の輝く夜空を見上げる。その横顔をレイテットは持ち前の底抜けな明るさで見つめる。


「今度はなにを背負っているの? 私たちのこと? それとも自分のこと?」


 レイテットが柔らかく尋ねる。

 雛は吐き出すように夜空から地面へと視界を移して「レイテットのこと、アイーラのこと、美保さんのこと、自分のこと……全部だ」と答えた。


「全部、ねぇ……そんなに心配なの?」

「心配だし、怖い」

「怖いの? 私がここにいるのに?」

「俺たちは戦っているんだ。俺の作戦が、俺の誤った選択が、誰かの命を殺してしまうことだってあるんだ。俺は、みんなの安全を保障出来る訳じゃない……! 俺自身の安全でさえ! レイテットともう会えなくなるなんて怖いんだ……!」


 生死が一瞬で決まる戦闘で、彼女たちの誰かを失うかもしれないという気が狂いそうな心配。

 自分の作戦一つで彼女たちの生死を決めてしまう重い責任。

 選んだ選択が間違っているかもしれないという自らへ向けた凄まじい疑心暗鬼。

 全員の安全を保障出来ない圧倒的な不安。

 嘘でしか安全だと言えない己に背いた嘘。

 そして自らが死んだその時、レイテットともう会えなくなるという恐怖。

 雛は頭を抱えて、その胸の内にある重いものを涙と共に吐き出す。


「私もみんなも死んでない。雛君が取ってきた選択が間違ってない証拠でしょ? だからこうして、ね?」


 レイテットは雛を抱きしめる。その温もりで涙を乾かそうとして、その声で雛を優しく包んで。


「雛君だけに責任は押し付けない。私も雛君と同じものを背負うから、だから私たちと一緒に戦って、今を私たちと生きて」


 その言葉を、レイテットの身体を強く感じていく。

 温もりが雛の身体に広がり、胸の内にあった重い物は涙となって流れて乾く。


「分かった」


 雛は嬉しく、そう一言だけを告げた。

 そうして二人は抱き合う。お互いに広がっていく温もり。その温もりが愛を育み、その他のあらゆるものを忘れさせる。

 温かく、熱くなっていく愛。肌と肌を重ね、唇と唇を重ねて二人の意識は夜と共に深くなっていく。


「レイテット」

「なぁに?」

「これからのことなんだが……」


 雛の声。勇気を出してこれからのことを告げようと口を開く。


「みんなで確実に生き残るために、超重戦車型を倒そうと思う」

「うん! それでどうするの?」


 超重戦車型『PODE』を倒すと、決意を持った雛。レイテットはいつものように信頼を持って問う。


「実は、具体的な作戦はまだ決まっていない。ただ今言えるのは、ここで超重戦車型を倒さないとかなり離れたところにある街に逃げなければならないってこと。逃げた先にある街がどのような状態か分からないし、安全とは限らない。でもこの街の状況は分かる。あの超重戦車型を倒せればこの街の物資を可能な限り俺たちの物に出来るんだ」


 雛が事細かに告げると、レイテットは話全部を理解しようとして難しい顔をした。


「えーと、つまりあの大きいのを倒してこの街を私たちの物にする……ってこと?」

「うーん、大雑把に言えばそうなる。うん」


 レイテットの大雑把な解釈入りの理解。雛は言いながら頷く。


「まぁいいや今は……それより続き、しよ?」


 レイテットの誘うような色気のある声。

 雛は愛した相手のその声に誘われ、再び唇を重ねる。愛を育んで深めていく。



  ※



 時間は過ぎて、時刻は午前零時。

 雛とレイテットは疲れるまでお互いを感じ合い、愛し合い、その末に二人はお互いに寄り添って眠っていた。

 そして今この時は美保が目を覚ます。


「あら? 朝?」


 その疲れて病んだ目で闇夜の森を見つめ、朝かどうか空を見上げる。

 ゆっくりと流れる星空。美保の目に映る光景は朝のものではない。

 目が覚めたばかりの美保の身体が起きようと動く。


「んー……美保さん?」


 美保の動きで、身体を揺さぶられたアイーラはふと目を覚ました。


「あ、寝ていたのにごめんね」

「ん? 私は別に大丈夫ですよ」


 疲れの色が入った優しげな声の美保。アイーラは美保に身体を寄り添わせ、同じ星空を見つめる。

 その二人の様子はまるで親子か姉妹のよう。


「美保さん、最近大丈夫ですか?」


 明らかに疲れている美保を心配してアイーラは尋ねる。

 しかし美保は口を開かず、答えない。ここで正直に口を開けば心配をかけてしまう。年長者として、今までレイテットとアイーラの世話をしてきた身として、美保は自分のことで周りに心配をかけたくなかった。それがどれだけ自身が疲れていてもだ。


「大丈夫よ、私は大丈夫」


 美保はそう自身に言い聞かせるような嘘、自身の疲れを隠す嘘を言う。

 そんな家族のようで姉妹のような美保の言葉を、アイーラは多少の心配を残しながらも信じて疑わず「そうですか……」と告げた。


「ねぇ、アイーラちゃん」

「なんですか?」


 なにかを決心したかのような美保の目。アイーラは首を傾げる。

 美保は口を開く。


「私ね、雛君から離れてレイテットちゃんとアイーラちゃんとで一緒に遠くの街まで逃げようと思うの。このまま雛君と一緒にいればまた戦うことになるわ」

「でもそれじゃあ雛君が!」


 美保が雛を見捨てる決心を告げると、アイーラはすぐに反対した。

 その時、美保の様子が変わる。

 感情を昂らせて病んだ目。湧いて出てくる憎しみを顔に出す。


「私は死にかけたの……! このまま雛君と一緒に戦い続ければレイテットちゃんもアイーラちゃんも、そして私だっていずれは死んでしまう! 救援が来るって言って嘘を吐いた雛君なんてもうどうだっていいの!」


 それは現実逃避。

 それは救援が来るという嘘を吐いた雛への憎しみ。

 美保が吐き出したのは雛に責任の全てを押し付けて、家族のように慕うレイテットとアイーラと一緒に逃げることだった。

 これがどれだけ現実逃避だとしても、どれだけこれから先が無策だとしても、一般人の美保にとってはこれで心を保つしか出来ない。


「え、美保さん……でも私は……」

「アイーラちゃん、よく考えて。私とレイテットちゃんで逃げて生き残るか、雛君と死ぬか。そのどっちかよ」


 アイーラは迷う。

 美保が言うことを理解出来ない訳ではなく、だからと言って自身を救ってくれた雛を見捨てるのは違う。

 今まで親しく家族ように慕っていた美保。右目を失ってでも自身を救ってくれた雛。

 そのどちらかをアイーラは正しいと判断しなくてはならない。


「さぁどっち?」


 美保の表情が憎しみから笑みへと変わる。まさしく自身が正しいと思ってくれるのを望んでいる顔だ。

 しかしそんな美保の思惑は通らず、アイーラは「考えさせてください」と告げてどちらが正しいという判断を避けた。


「そう……じゃあ明日までに考えておいて。明日すぐに雛君から離れるから」


 美保はそう告げる。

 これ以上の会話は続かず、少ししてアイーラと美保の二人は再び眠りについた。

 時刻は午前一時。闇夜は続く。

 生存者たちが次に目を覚ます時、新しい夜明けがどう映るか。それはまだ分からない。


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