第九十一話 巨砲
やっと更新出来た……
休息に入る生存者たち。静寂はこの場を包み、生存者たちの声と発せられる音だけが聞こえてくる。
時刻は午前十一時。既にお昼の時間である。
「美保さん、足の方はもう大丈夫ですか?」
「うん、良くなってきたわ。ちょっと動かしてみるわね」
美保の火傷した足を数分掛けて冷やし、ヒリヒリとした火傷の感覚を薄くしていく。もはや火傷の感覚は気にしないほどになっており、美保は試しにと立って足を動かせてみせる。
「良い感じね、問題なく動かせるわよ」
「やったぁ!」
「ありがとね、レイテットちゃん」
「はい! どういたしまして!」
会話の終わり際に見せる元気なレイテットの笑みに釣られ、自然と美保もまた笑みを見せる。
「さーて、洗濯の続きやらなくちゃ」
雛に見せた暗さはレイテットの笑みのおかげか、今はその様子を見せることはない。美保本来の明るさで自分のやることを頭に入れていた。
そうして美保が洗濯するために動き出すと、周りも合わせて動き始める。
「私は洗濯物を洗っているから、その間に洗濯機止まったら誰か干していてくれると助かるわ」
美保がそう告げると、洗濯物を洗いにリビングから離れて行く。
しかし家の中に『PODE』が侵入したこともあり、一人で行こうとする美保を雛は心配して「まだ家の中に敵がいるかもしれません、手伝います」と名乗り出た。
「雛君は、弾薬数えるのとか武器の管理とか他にやらなきゃならないことがあるんじゃないの?」
年上らしく告げる美保。その声はいつもの調子で冗談半分に艶かしい。だが、雛は冗談など関係なしに真っ直ぐな真面目さで美保を見つめる。
「確かにそうですが、今はなによりも命が大事です。二人で行動していれば安全なので手伝います」
「そんなに言うなら、じゃあ手伝ってもらうかしら」
そのまま美保は続けて「来なさい」と告げ、雛を連れてリビングから離れていく。
それから美保と雛による洗濯に二時間ほどの時間を要する。美保と雛は洗濯を終わらせ、洗濯物を全て干してからリビングに戻ってきた。
リビングでは、アイーラとレイテットが携帯ゲーム機で暇を潰している光景があった。
「あ、戻ってきた」
「んー? ホントだ」
美保と雛が戻ってきたのを目にしたアイーラが一言告げる。その一言でレイテットは美保と雛が戻ってきたことに気が付き、二人をその視界に入れた。
「さてさて洗濯でお腹空いちゃったし、そろそろお昼ご飯食べましょうか」
「はーい!」
「お腹ペコペコー」
丁度時刻は午後の一時。まだ朝ご飯を食べていない状態であり、流石にレイテットもアイーラもお腹を空かせていた。先ほどまで洗濯をしていた美保は尚更である。
もちろん「そうですね」と告げる雛もお腹を空かせているが、過去の訓練で空腹に慣れており、表情に空腹の二文字はなく柔らかな表情を浮かべていたままだった。
「まぁお昼ご飯と言ってもまた缶詰めだけどね」
缶詰めといういつもの貧相な食事に苦笑する美保。続いてレイテットが「今はこんな世の中ですから仕方ないですよ」と告げ、アイーラは「でも美味しい物は食べたいよねー」と告げた。
三人が告げたすぐその後、仕方ないと分かっているレイテットも含め、彼女たちは三人揃って溜め息を吐いた。結局、美味しいものが食べたいという欲が表に出てしまった瞬間である。
「とりあえずは食べよう。どんな食事だろうと食べられる時に食べないと……またいつ敵が来るか分からないから」
次の戦いに備える気持ちで、どこまでも真面目に雛は告げる。安全であったこの家ももはや戦場、緊張感を持たなければいけなかった。
「そうね、今は四の五の言わず食べないと」
美保の発言と共に彼女たちは雛の言葉を理解し、戦いに備えるための緊張感を持ち始める。
「そうとなれば、すぐにでも――」
美保がそう言おうとした瞬間のこと。街の方から凄まじい轟音と一瞬の揺れが家に訪れた。
轟音と一瞬の揺れに美保の言葉はあっという間に遮られる。
そして一瞬の揺れは家そのものから屋内の物までガタガタと音を立てて揺らし、生存者たちの恐怖心を煽った。
まさに咄嗟のことだ。恐怖心を煽られた生存者たちはすぐさま武器を手に取り、殺されないよう慌てて姿勢を低くする。
「な、なに!?」
「攻撃ですか!? どこから!?」
「今武器持ってるからすぐ撃てるよ」
武器をその手に取った生存者たちの足並みは揃わず、咄嗟の轟音と揺れで混乱に陥ってしまったまま中途半端に戦闘態勢へ入る。このまま迎撃を行おうとすれば半端に自らの位置を晒して生存者の誰かに死傷者が出るだろう。
誰かが死ぬかもしれない状況。
雛は一層の危機感を持って「落ち着いて! まずは冷静に状況確認を」と告げた。
「あ、うん!」
「分かったよん」
雛の言葉で混乱から一転、混乱が続いている美保を除き、即座に思考を切り替えて落ち着きを取り戻せたレイテットとアイーラは窓の外から敵を見る。
「あ、なにあれ……アイーラの目からもあれ見える?」
「えーと、どれどれ」
窓の外を見て一番にレイテットが〝なにか〟を視界に入れる。続いて生存者の中で一番目の良いアイーラも「あれ、なにあれ?」と〝なにか〟を視界に入れた。
「レイテット、アイーラ、敵を見つけたのか?」
すかさず雛が〝なにか〟を見つけたレイテットとアイーラに問う。
「敵なのかな? かなり大きい戦車が街の中を進んでる」
「うん、右に同じく」
雛は「大きい戦車?」と、レイテットとアイーラの答えたことが気になり始め、自分の目で確かめるために双眼鏡を取って街の方を見た。そして見ればすぐに大きい〝なにか〟が視界に映り、その正体が分かってくる。
全長40mを超す巨体。その巨体の全長を伸ばしていると言っても過言ではない砲。その姿はドイツが使用していた80cm列車砲らしきもの、しかもその色は半透明の緑色だ。
明らかに人間が使っているものではない。色の時点で敵なのは確実である。
「ドイツの列車砲……この家に攻撃を仕掛けてきたナチスの兵士はまさかコイツから来たのか」
「ドイツの? でもさ、列車なんでしょ? 街のあの場所には線路もなにもないよ」
雛が推理を深める横で、レイテットがヒントになる決定的なことを告げた。
雛はレイテットの告げたヒントを頭に入れ、列車砲と思しきその巨体の下を注視する。見れば見るほどその巨体の下には列車砲を動かすための線路がない。
「レイテットの言う通り、線路は確かにない。だとすると……」
雛はあらゆる兵器を勉強してきたその記憶から、列車砲に酷似した兵器を思い出そうとしていく。
そして眉間にしわを寄せている間に記憶から引き出されるが如く雛は思い出す。
「そういえば列車砲に酷似したドイツの超重戦車があったな。名称は確か、ラントクロイツァーP1500モンスターだったか。この超重戦車なら移動に線路がいらない理由も分かる」
雛は〝なにか〟の更なる正体を告げ、見事に言い当てた。間違いはない。列車砲と思しきその巨体は超重戦車なのだ。
しかし言い当ててもこの場で分かるのは雛だけというのが事実。
「らんとくろいつぁー?」
「なにそれ」
超重戦車と正体が分かっても兵器に詳しくないレイテットとアイーラは超重戦車や列車砲自体よく分からない。雛たちの話が耳に届かず、恐怖心を煽られたままの美保は尚更分からないだろう。
「こほん、とにかくだ、あの超重戦車がいる限りは俺たちの命は常に危険に晒される。今すぐあらゆる状況に備えてあの超重戦車に対して対策、もとい作戦を練らないとならない」
「それじゃあ早速色々やらなきゃだね!」
「あぁ、すぐにでも始めよう」
新たな敵の発見。それは一個体の神よりも強大な敵。
更なる戦いが始まる。
ようやくあの超重戦車を出せた。ずっと温めていたから個人的にスッキリ(^ω^)




