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【完結】POD Enemy  作者: D-delta
エピソード1 強く生きる雛

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第九話 数の暴力

 時刻は午後一時。太陽は真ん中辺りに昇っており、丁度昼間だ。

 その太陽の下でガスマスクを被った自衛隊員――ゼラが一人歩いていた。


「昼か」


 そう呟き、ゼラは太陽を見上げた。

 太陽はさんさんと輝いている。空を照らし、ホルムスクの街を照らし、そしてゼラを照らしていた。

 太陽に照らされている中、ゼラは『PODE』のぬめりとした音が聞こえないか警戒をしていた。もしも聞こえてくれば近くにいるということになる。


「いないな」


 微かな物音も聞き逃さないように聞き耳を立て、いないと判断出来たゼラはショッピングモールへとゆっくり移動していく。

 なるべく車道や歩道は進まず、建物の裏などを進んでいく。建物の裏は陰になっており、一目見ただけではいることに気付かれない。

 見つかりやすい場所を避けて見つかる危険性を低くしていっているのだ。ゼラにとって無駄な戦闘は避けたいところだ。


「……」


 物音を立てないようにしているゼラは移動していく。89式小銃の銃口を前に向けて慎重に移動していくと、ショッピングモールの駐車場に到着した。

 駐車場には普通の乗用車もトラックもない。


「ここにあった車は全て取り込まれたか」


 こういう異常事態であれば車は放置されていて当たり前だが、駐車場にあるべき車が一つもないとなると明らかにおかしい。そして行き着く答えは必然的に『PODE』が取り込んだということになる。

 よって、車という効率的な移動能力を持った個体があちこちにいると言っても良い。


「面倒だ」


 ゼラは一言呟き、目的地であるショッピングモールに進んだ。

 駐車場を横切るようにしてゼラは銃口を常に前にして、進んでいく。

 駐車場は広く、見通しが良い。視界が確保されて敵を発見しやすい反面、敵にも見つかりやすい。

 ゼラは発見される前に敵を発見するよう意識して視界を広く持った。

 ゼラの視界内に敵はいない。ぬめりとした音も聞こえない。


「……!」


 敵がいないと判断出来ると、敵が来ない内にゼラはショッピングモールの入り口まで走った。入口はガラス張りの扉になっており、外側から内側の様子を確かめられる。


「いない」


 ゼラは警戒をしながら物音を立てないよう扉を開き、ショッピングモール内に進入した。

 ショッピングモール内で手に入れるものはヘリ墜落の時に失くしてしまった標準のバックパックの代わりになるリュックサック。

 もし他に使えるものがあるのならば、ゼラはリュックサックに入れてくるつもりでいた。


「ん?」


 ぬめりとした足音に気付くゼラ。視線を二階に続くエスカレーターの方に向ける。


「ぁぁ……兵士、いた」


 ゼラの視線の先には人間そっくりに声を出す人型の『PODE』がエスカレーターの前で立っていた。そしてその声に反応してか、声を出した個体の周りにぞろぞろと人型の『PODE』が集まってきた。

 数えるだけで五十体ほどいる。そのどれもが人間と同じように顔の細部や身体的な違いなどの特徴的な違いを持っていた。

 この数に対してゼラはたった一人。幸い集まっている人型の『PODE』は武器を持っていない。武器の面ではゼラの方が有利だ。


「兵士」

「いた」

「軍」


 集まった『PODE』の口々から「兵士」や「いた」など単純な単語が出され、緑一色の多数の目がゼラに集中した。

 ゼラは人型の集団に89式小銃の銃口を向け、アイアンサイトで敵の心臓部を狙う。

 両者は睨み合う。相手を殺ろうとしている。


「食べる」

「殺す」


『PODE』の食欲に忠実な声とゼラの純粋な殺意の声が重なる。

 その声を皮切りに戦闘は始まった。

 多数の人型が全力で走り出す。まさに獣如く己の食欲に従った行動だ。

 エスカレーターを雪崩のように駆け下りる『PODE』たちに対してゼラはセミオートで89式小銃の引き金を引いていく。一発一発確実に敵の心臓部を狙い、迫ってくる『PODE』を蒸発させていく。


「食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う食う」


『PODE』たちが本能に従って「食う」と何度も言いながらゼラに迫った。まるで呪文を唱えるかのように何度も「食う」を繰り返し言い続けている。


「八匹」


 後ろに下がりながら正確に発砲しているゼラが殺した数を数えるように言った。

 引き金を二回引く。敵の人型二体の心臓部が貫かれ、蒸発した。しかしそれでも数が減っているように見えず、次から次へと緑の身体がゼラに向かって走っている。


「キリがない。試しにやってみるか」


 壁際にまで下がり、89式小銃のリロードを開始。この間にも敵は全力で迫ってきている。外に出て戦った方が楽ではあるものの、銃声が響くと外から敵が寄ってくる可能性があった。そうなれば生存率が大幅に下がるため外には出られない。

 人型が一斉に迫ってきている間にリロードを終えた後、レッグホルスターから9mm拳銃を抜き取り、左手に持った。

 右手に弾数31発の89式小銃、左手に弾数9発の9mm拳銃。


「『デュアル』」


 まさに双銃。彼がたった今編み出したスタイルだ。

 9mm拳銃を持つ左手を正面に突き出し、89式小銃を肩で押さえるようにして右肩は引く。非現実的なスタイルだが、壁を背にして大量の敵が押し寄せてくる状況の中でゼラは一体でも多く確実に殺せる方法が欲しかった。もちろん自分の身を犠牲にしない体でだ。

 そうやって編み出したのが『デュアル』である。

 この状態でゼラは二つのアイアンサイトで別々の心臓部に狙いを付け、89式小銃と9mm拳銃の引き金を引いた。別々の銃口から放たれた弾丸は迫ってくる二体の心臓部である『シールド細胞』を破壊、蒸発させる。


「いけるな、これは」


 引き金を引く度に人型の『PODE』の蒸発していく。ゼラは引き金を引く際には残弾数を気にして、弾数の多い89式小銃でなるべく殺すようにしていた。9mm拳銃はあくまでサブ、一丁で対応出来なくなった時のためにある。

 引き金を引く。蒸発。引き金を引く。蒸発。人型の『PODE』が全力疾走している間はそれが続いた。

 多くの敵を目の前にしてゼラは集中力も精神力も削れてはいない。彼にとっては子供の頃から大量の敵を目の前にすることなど慣れていたのだ。


「最後」


 最後の引き金を引く。発砲音と共に弾丸が放たれる。その弾丸は迫ってくる最後の一体の『シールド細胞』を破壊した。9mm拳銃から空薬きょうが音を立てて落ちる。


「お前、何者」


 迫ってきた最後の『PODE』が床に膝を着き、最後に言い残して蒸発した。

 ゼラは『PODE』の訊いてきた問いに答えず、黙って左右に持つ銃をリロードした。そして9mm拳銃はレッグホルスターに戻し、いつものように両手で89式小銃を持った。


「仕事を再開」


 冷静な口調で述べ、彼は本来の目的を遂行するためにエスカレーターを上っていった。

 その先で待っていたのは衣服やカバン類などを取り扱っている店や食品、おみあげが売っている店だった。しかしもう一つゼラを待っていた者がいた。


「ゼラニウム4、待っていたよ」

「またいじめてやるぜ」

「今度は息の根が止まるまでな」


 自衛隊の戦闘服とボディアーマー、戦闘用ヘルメットにガスマスクをコピーした緑一色と二つの核細胞を有した化け物。ゼラニウム4とはまた違うアクセサリーを付けたスライム状の89式小銃、レッグホルスターにはスライム状の9mm拳銃。

 二階で待っていたのは他のゼラニウムをコピーした三体の『PODE』だった。


「昔からの腐れ縁――いや、いじめ縁だ。抹殺してやる」


 ゼラは殺意しかない目で三体の『PODE』を見つめ、いつもの無表情で述べた。そこには怒りも憎しみもない。あるのはただ〝殺してやる〟という純粋な殺意。そして過去の暗い影。少し震える左手を抑える。

 ゼラと『PODE』の持つ89式小銃の銃口がお互いに向き合う。

 ゼラニウム同士の戦いが始まろうとしていた。


ゼラ君の編み出した『デュアル』はアサルトライフル、軽機関銃、ショットガン、マークスマンライフル、グレネードランチャーなどを主武器として利き手に持ち、ハンドガンやサブマシンガンなど片手でも撃てるサブ武器を利き手ではない方の手に持つスタイルのことです。

このスタイルの特徴は、主武器を利き手側の肩で固定して撃ちながらサブ武器を撃って行くことなのです。

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