第八十三話 不安
更新早くしたい定期。更新早くすると雑になる定期。
難しいもんだぁ(-ω-)
アイーラの仕返しから始まった夜は次第に深みを増していく。
月の光が家とその周りを薄く照らしている。そこに太陽の光は届かないが、星空はよく見える。
夜にしか見られない星の光が輝く空。
生存者たちの夜は続く。
「ごちそうさまでした」
美保が丁寧に両手を合わせて言う。たった今、限りなく餌付けに近い夕飯を終えたのだ。美保の口に食べ物を運んでいた張本人であるアイーラは、意地悪い笑みで食事を終えたばかりの美保を見つめていた。
「ほ、ほら! 食事を終えたことなんだし、荷物整理とかやることやるわよ」
「はーい」
アイーラの仕返しに少し拗ねてしまった美保は、アイーラを調子に乗らせないためにもやらなければならないことをその口に出す。
そんな美保の拗ねている様子を見たアイーラは察して、やり過ぎないようにと気持ちを真面目に戻した。
「まずは取って来た物の確認、それから無くなった物の確認、良いわね?」
今日は年長者らしく美保が指示を出すように三人に告げた。
三人は美保に呼応するようにそれぞれの声で「はい」と告げ、荷物整理を始める。
リュックサックから荷物が全て出され、食糧と包帯や薬など含めた医薬品がテーブルの上に置かれる。
「食糧と医薬品、両方とも十分あるわね。どうにかまだまだ食い繋いで行けそうだわ」
美保はテーブルの上に置かれた物資となるものを見て率直に告げる。しかし希望を持った言い方をした反面、感情の奥底では餓死や敵に追い詰められる不安があった。
いくらみんながいるからと言って、ずっと死の危険のある生活に耐えられる訳ではないのだ。
――救援はいつ来るのかしら
思考の末端に訪れた〝救援〟の二文字。三人の荷物整理の光景を見つつ、段々と〝救援〟の二文字が思考の大部分を占めていく。
美保にとって希望でもあり、絶望でもある諸刃の二文字だ。来なければ絶望に染まって狂ってもおかしくない。
「ねぇ、雛君……」
美保は〝救援〟の二文字に不安を抱えながらも荷物整理中の雛に尋ね始める。
「雛君がここに来て最初ぐらいに言っていた救援って、いつ来るの?」
「…………」
雛は荷物整理の手を止めて、目を逸らした。質問の返答に困っているのだ。民間人である美保を不安にさせることは出来ない上に、自衛隊に連絡が取れない以上は救援が来るとも来ないともハッキリ言える状態ではない。
そしてなにも答えない雛に対して、美保は胸が張り裂けそうなくらいに不安を募らせていく。
「どうなの? 雛君。正直に言って、これは命令よ」
不安の乗った声で美保は更に尋ねた。
美保と雛の間に流れる異様な雰囲気からか、レイテットとアイーラは荷物整理の手を止めて美保と雛を見つめる。
「現状では来るとも来ないともハッキリ言えません。自衛隊に連絡出来るものがあれば別の話しですが、今は救援が来るのを祈って生き延びるのを大事にする方が良いと思います」
雛は不安にさせるなどの要素を全て頭から消し去って命令に従い、ハッキリと答えた。
そのハッキリした言い様に美保は怒りと責任の矛先を雛に向けたくなったが、年長者としての理性が怒りと責任の押し付けを抑え込んだ。
「そうね……それが今は一番よね。連絡出来るものにしても今は携帯から固定電話まで止まっているし、やれるとしたら外にSOSを出すぐらいしかないものね」
年長者としての理性を働かせても消えない不安のまま美保は告げる。対して雛は申し訳なさそうにただ黙って頷くだけだった。
「はぁ……荷物整理の続き、やっていて。私はこの状態だから、ここで指示するわ。分からないことがあったら構わず訊いてね」
雛に矛先を向けようとしたことに溜め息を吐いた美保は、テーブルに俯せながら告げた。
雛たちは場の空気を読んで、余計なことは言わずに荷物整理に戻る。
「あ、これとこれはそっち。これは棚のところに入れておいて」
美保の簡単な指示で雛たちは動き、食料と医薬品をそれぞれの保管場所へと入れていく。
そしてすぐにその作業は終わった。
「次は無くなった物の確認、つまり消費した物の確認ね」
生存者たちは荷物整理の次の作業へと入り、それぞれ消費した物をテーブルに置いた。
テーブルに置かれたのは包帯とそれぞれの銃器に使う各種弾薬。そして修復不可能な壊れたSAIGA20と9mm拳銃だ。
「これ、壊れたの?」
「うん、槍を持った敵に壊された。今の俺たちにとってはかなりの痛手だ」
壊れたSAIGA20と9mm拳銃に指差しながらレイテットが問い、雛は真剣に答える。
『PODE』が街のあちこちにおり、生存者たちは軍の居場所や銃の在り処を知らない。
そんな銃器を取りに行くにも相当なリスクを覚悟しなければならない今の状況下では、強力な武器である銃器は簡単に手に入らない。まさに今の状況下では銃器の損失が一つや二つだとしてもかなりの痛手なのだ。
「しかし失ったものは仕方がない。失うのが命じゃなくて、銃器だっただけマシと思うしかないな」
負うリスクが頭に入っている雛は、そう納得するしかなかった。
「そうそう、命じゃなかっただけマシだよ!」
「うんうん」
「命あっての人生だからね」
レイテット、アイーラ、美保と続き、彼女たちも雛と同じく納得していた。
「とりあえず武器の損失は置いといて、弾薬さっさと数えよう!」
レイテットの元気な声がリビングを包むと、皆は前向きになって弾薬を数え始めた。
弾薬を数えても消費しているのは確実。そして武器の損失もある。あちこちに怪我もしている。
知れば知るほど、確かめれば確かめるほど不安に不安が重なる。そうした不安な夜をなんとか耐えて、今日も生存者たちは生きていく。




