第七十九話 神話を超える者たち
やっと更新出来ました……さぁ、そろそろ新しい章に突入ですな!
行きますぞー!
曇天の下、戦場に銃声と声が響く。
響き渡るはSAIGA20と9mm拳銃の銃声、神話型『PODE』の怒声だ。
戦場にはゲイボルグを全力で振るう神話型『PODE』とスタイルを『デュアル』に変えて応戦する雛の姿があった。
「クソ!」
「言ったはずだ、余裕は一切与えない」
両者の力はぶつかり合う。目に見える力と目に見えない力の激突である。
しかしゲイボルグや魔法など象徴的な目に見える力を持つ神話型『PODE』は、雛の目に見えない力に苦戦を強いられる。
「なぜだ、攻撃が当たらん!」
ゲイボルグを何度振るおうとも雛には当たらず、地面を抉り続けるか雛に防がれるだけ。逃げ場のない魔法を放とうとすれば『シールド細胞』目掛けて銃弾が飛んでくる。
実際に雛の動きを目で追えているはずなのに全く当たることがない。
「この手応えのなさと完封された感覚はなんだ、一体なんだというのだ……」
神話型『PODE』は雲を掴むようにして必死に攻撃を繰り返す。
ゲイボルグを何度も振るい、距離が離れれば溢れんばかりの魔力で何度も魔法を放つ。しかし攻撃が当たらないのもまた繰り返される。
ゲイボルグを振るった分だけ雛に当たることなく、風を切る。魔法を放とうとした分だけ放つ前に銃弾が飛んでくる。
神話型『PODE』の攻撃は全て徒労に終わる。
「こうも当たらんのか!」
残った左目で神話型『PODE』の行動を一つ一つ見つめる。大きな動きから小さな動き、武器を振るうところから魔法を放つ瞬間も全て雛は見ている。
小さな隙さえ逃さない鋭い観察。雛はまさしく全て見切っているのだ。
「男ぉ! 次こそ死ね!」
「仕留める」
神話型『PODE』の怒声と共に繰り出されるゲイボルグによる大振りな攻撃。しかし大振り故に隙がある。その隙を雛は逃さず、SAIGA20の引き金を引いた。
発砲炎と共に放たれるスラッグ弾。風を切りながらゲイボルグを大きく振るう神話型『PODE』の『シールド細胞』目掛けて向かっていく。直撃コース、しかも距離が近いために避けられる余裕はない。
「なにっ!?」
咄嗟に神話型『PODE』は身体を傾けて避けようとしながらゲイボルグで防御態勢に入った。
しかしコピーされたゲイボルグは本来の堅さを再現出来ておらず、スラッグ弾は易々とゲイボルグを貫通する。そのまま神話型『PODE』の身体の中に入り込むが、心臓部である『シールド細胞』を少し削っただけで貫通していった。
「直撃を避けたか」
たった今の敵の動きを分析。戦いの最中でも思考を動かし続け、次の隙を狙う。
異能力もなければ特別な力もない。その上右目の失明というハンデを背負っている。だが、雛の戦い振りはハンデも力の差も全く感じさせない。
「強い!」
心臓部である『シールド細胞』を削られたという事実。首の皮一枚で繋がったという事実。それらの事実が圧倒的な力を持つ神話型『PODE』に死の恐怖を実感させる。
「死ねるか……死ねるかぁぁアァァァ!」
死を恐れた神話型『PODE』は天に向かって叫ぶ。次第にその叫びは人のものではなくなり、この世の者ではない叫びと化す。
怒りを表すかのように髪は逆立ち、身体が2mぐらいにまで巨大化する。片目も巨大化し、その姿は化け物に変わっていく。
「ウオオォォォァァァァァ!!」
化け物の叫び。それと同時に神話型『PODE』を包み込むように光の柱が昇る。
ほんの数秒して、神々しい光の柱から3m並みの荒々しい化け物が現れた。
「ウオォォォォォォ!!」
その荒々しい化け物こそ神話型『PODE』の変化した姿。どこからどう見ても二足歩行する完全な化け物である。
化け物と化した神話型『PODE』はその大きな手でゲイボルグを握り直し、雛との距離を一気に詰める。その巨体から繰り出されるのは何倍にも跳ね上がった威力のゲイボルグによる攻撃だ。当たれば雛であろうと死は避けられない。
「姿を変えたのか、見る限りでは暴走に近い!」
雛は当たるか当たらないかギリギリのところで神話型『PODE』の攻撃を避けてみせた。しかしあまりに威力の高い攻撃のため、ゲイボルグが激突した地面は吹き飛んでしまう。
「先ほどとは比べものにならない威力だ、流石に姿を変えただけのことはある」
地面が吹き飛ぶ瞬間、雛は咄嗟に後ろ飛びでその場から離れた。雛が立っていた場所は大きく深く抉れている。
その光景を目にした雛の中では死という文字が浮かんだ。
「当たれば死ぬ。殺すか殺されるか……!」
自分に言い聞かせるように雛は呟いて9mm拳銃の引き金を引く。敵の心臓部『シールド細胞』を捉えた状態で銃口から9mmパラベラム弾が発射された。
距離は近い。明らかに避けられないだろう。だが、神話型『PODE』はあり得ない反応速度で風を切る速度の9mmパラベラム弾を視認してから回避してみせた。
「速い! そもそもの身体スペックが先ほどと違い過ぎる」
あまりに速い神話型『PODE』の動き。雛は驚愕する。
実際雛の目から見れば、神話型『PODE』の弾丸を避ける動きは瞬間移動のようなものだ。
「ウアァァァァッ!!」
人ならざる者の叫び声が轟く。その直後、神話型『PODE』が一瞬で雛の目の前にまで接近してきた。
ゲイボルグによる攻撃が更に重く、速くなっている。もはや回避のしようがなく、雛は神話型『PODE』の攻撃をSAIGA20で受け止めるしか出来なかった。
「ぐうっ!」
一気に襲いかかる重い攻撃。
雛はなんとか耐えられても、盾に使っているSAIGA20が耐えられなかった。あまりに重い攻撃がSAIGA20を押し潰し、死を雛に近付けさせた。
「ウオァァァァッ!!」
「防げないか……!」
神話型『PODE』の叫びが再び轟き、SAIGA20ごと雛を真っ二つにしようと攻撃の重さが更に増す。単純な力勝負では勝つことが出来ない雛はSAIGA20をすぐに離して神話型『PODE』の攻撃から逃れる。
SAIGA20は真っ二つにされ、ゲイボルグが激突する地面は吹き飛ぶ。
まさに常識が通用しないパワーだ。
「ここで殺す」
攻撃から逃れた雛はすぐさま9mm拳銃を両手で構え、アイアンサイトで敵の『シールド細胞』を狙う。
だがその時、神話型『PODE』は吹き荒れる風と共に一瞬で雛の前に来た。
「ウァァァァッ!!」
再び轟く叫び。横一線にゲイボルグが振るわれる。
雛はその攻撃をギリギリで避ける。回避が遅れていれば雛の首は飛んでいただろう。
しかし雛は無事でも9mm拳銃は無事ではなかった。
「切れ味が鋭い、当たれば即死か」
雛の目の前で9mm拳銃がいとも容易く切り裂かれ、9mm拳銃のグリップから上を地面に落ちた。
SAIGA20も9mm拳銃もなくなり、雛はまともな攻撃手段を失ってしまった。明らかに強さの次元が違う神話型『PODE』を前にして、一人ではもはや成す術がない。
「どうする?」
命を落とす一歩手前の危機的な状況。それでも生きることを諦めない雛は思考を止めず、どうするかを自分に問う。
そうして出てきた答えは一つ。
「アイーラに頼るしかないのか……!」
アイーラであれば命中精度の高い射撃を繰り出すことが出来る。銃弾に対して生身の防御力は皆無であり、一発でも『シールド細胞』に直撃させれば蒸発する。アイーラならその直撃を確実なものにしてくれるのだ。
しかしリスクはある。
アイーラに発砲を任せてしまえば、次に狙われるのはアイーラだ。今の化け物と化した神話型『PODE』に狙われれば命はないだろう。
雛にとってそれが一番の恐れだった。
「どの道死は見えている。今は賭けるか」
雛の覚悟は今ここに決まった。
「アイーラ!」
「な、なに!?」
「今から全てをアイーラに賭ける! その狙撃の腕を信じるぞ!」
そう言うと、雛はアイーラに全てを賭けて神話型『PODE』に突っ込んだ。
草むらで動けないアイーラは雛の言葉を聞き入れ、察する。
「バカ……でも、今度は私が雛君を守るから」
自らの温かい心に従い、アイーラはAEK971を構える。
スコープを覗くその瞳は確かな闘争心がある。もうそこに感情の曇りはない。
失敗も自己嫌悪も全て許容してくれる友達のためにアイーラは今、敵の心臓部に狙いを付けにいく。
「ウオォォォ!!」
突っ込んで行った雛に向かって神話型『PODE』の攻撃が繰り出される。
凄まじく重く、凄まじく速い攻撃。だが雛はその攻撃を素手で受け止めた。
「俺を見ろ、すぐに殺してやる」
雛は注目されるように軽い挑発を口に出した。その挑発を受け取った神話型『PODE』は更に攻撃を重くする。その重さに雛の足は地面に埋まっていった。
もはや雛に神話型『PODE』の攻撃に耐えるだけの力はほんの少ししか残されていなかった。
「アイーラ!」
「!」
耐えるのも限界ギリギリな雛の呼び声に呼応するかのように、アイーラは引き金を引いた。
噴き出す発砲炎。地面に落ちる空薬莢。銃口から出る硝煙。
友達を守るためにAEK971の銃口から弾丸が発射された。
その弾丸は雛のすぐ横を通り、神話型『PODE』の右斜めから半透明緑色の身体に入る。そうして身体の中を突き進む弾丸は心臓部である『シールド細胞』に届いた。
「私はもう堕ちない。許容してくれる友達がいて、みんながいてくれるから」
アイーラの決意のある言葉。それと共に神話型『PODE』の『シールド細胞』から血が噴き出し、破壊される。
「グォォォ……グァハッ! 今のは弱者の攻撃……それに殺されるのか……!」
神話型『PODE』は死の恐怖に怯え、ゲイボルグも身体も全て蒸発する。
戦いは終わった。
敵の蒸発を確認した雛は疲れてその場に座り込み、右目の流血を手で塞いだ。
アイーラは倒れ込んだまま雲と雲の間から差し込む光を浴びる。
「アイーラ、終わったな」
「うん、終わったね」
二人共、笑みを浮かべて信頼を感じ合う。
その笑みは晴れつつある空の如く。
「アイーラ!」
聞こえてくるレイテットの声。声のした方に視線を移せば、ボロボロになってふらふら歩み寄るレイテットの姿が見えてくる。
「アイーラちゃん、レイテットちゃん、雛君、誰か手を貸してー!」
満身創痍の美保が両手を上げて助けを求めている。
「みんな生きてる。帰ろう! みんなで!」
アイーラの元気な声にみんなが頷く。
どれだけ身体も心もボロボロになろうと、誰一人として死なず、生存者たちは今日も生き残る。




