第七十八話 友達
更新早くしたいけど、このお話に限っては時間を掛けて書いて良かったと思っている。
登場人物の心境の描写って難しいからねぇ、特にシリアスは。
時刻は午後の二時を越えた。
大爆発によって出来た黒煙が曇った空に立ち昇り、戦場はどこにでも作られていく。そして戦いが繰り広げられる。
美保はアイーラを抱きかかえたまま熾烈を極めているであろう戦場から遠ざかり、草むらの中で疲れた足を休めさせていた。
「はぁ……はぁ……」
美保はアイーラを離して土の上に座り込んで地面を見つめた。疲労が美保にのしかかり、動けなくさせる。
そんな中、アイーラは後悔しかない瞳で戦場を見つめていた。
――私が戦えていれば
周りの恐怖に怯え、自分の世界に閉じこもって、挙句に自己嫌悪で戦意を損失した。
その結果、レイテットを倒れさせてしまった。今も火の海の中で倒れているであろう。
――私もレイテットと一緒に戦っていれば
後悔ばかりが思考にこびり付く。
ふと目を戦場に向ければ、アイーラの視界に神話型『PODE』と雛の戦う姿が映った。
どちらも負けず劣らず。互いの攻撃を避け合っての繰り返し。しかし雛の体力は限界が来ており、動きが徐々に鈍くなっていた。対して神話型『PODE』は動きの鈍さなど全く感じられない。
――雛君、逃げて
心の言葉が雛に届くことはなく、雛は戦い続ける。
――雛君とレイテットが死ぬくらいなら私を殺して
アイーラがそう願った直後のこと。
視界に映る神話型『PODE』が高く跳び上がり、ゲイボルグを投げた。ゲイボルグは三十個どころか先ほどより多い百個近い数の矢尻となって、雨の如く降り注いだ。
そして矢尻の数個がアイーラと美保の近くに落ちてきた。
「逃げた腰抜け共諸とも消し炭にしろ! ゲイボルグ!」
神話型『PODE』の声が轟くと、それに呼応したように矢尻が光り輝いて大爆発を引き起こした。
大爆発は神話型『PODE』と雛の戦う戦場を呑み込み、アイーラと美保を巻き込んだ。
「があっ……!」
大爆発の爆風に巻き込まれたアイーラはまともに声も出せなくなり、爆発の衝撃が身体中に走った。そのまま吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
アイーラの小さな身体はあまりに大きい衝撃を受けて倒れたまま動けなくなっていた。
「美保……さんは」
這いつくばった状態で身体を無理に動かして美保を視界に入れる。
美保は身体中に走る疲労と激痛で表情を歪ませており、アイーラ同様に地面に倒れ込んでいた。
「美保さん!」
「ぁ……アイーラ……ちゃん」
アイーラの口から心配の声が走った。
苦し笑みを浮かべた美保は心配を掛けないようにと無理に立ち上がる。
「えへへ……ツワブキの魔法姫がこんなものでやられるものですか」
美保はアイーラを助け起こそうと満身創痍の状態でふらふらしながら近付く。
しかしその時だった。
「腰抜け共め……あの男の前にまずはお前たちを殺してやる!」
敵の怒りに震えた声が突如としてアイーラの耳に入ってくる。それと同時に神話型『PODE』がアイーラの視界端から歩いて現れ、満身創痍の美保を蹴り飛ばした。
美保はなにも出来ないまま蹴られて倒れ込む。
「雑魚が!」
神話型『PODE』はそう吐き捨てて、ゲイボルグの矛先を倒れた美保に向けた。
美保の命がなくなる一歩手前。貫かれてしまえば美保の命はない。
しかしこの状況をどうすることも出来ない。それでも、美保を殺して欲しくないというアイーラの気持ちが走る。
「私を殺して!」
気持ちは言葉として、アイーラの叫びと一緒に現れる。その目には涙があった。
流石の大声に反応した神話型『PODE』はアイーラに近付く。
「貴様、死にたいのか?」
「うん……その代わりにみんなを見逃して!」
「それは出来ない。俺はお前たちを殺すと決めたのだ」
「お願い! 私のことを犯しても殺しても良いし、サンドバックみたいに私で色々発散して良いから! だから……みんなを殺さないで……!」
泣きながらアイーラが必死に請う。
アイーラのその姿に神話型『PODE』は優越感に浸った下卑た笑みを見せた。
「腰抜けの弱者にしては勇気のある決断だ! 良いだろう、貴様の死も含めた全部を俺の物にする代わりにアイツらは見逃してやろう!」
「ありがとう……」
「ございますを付けろ!」
神話型『PODE』は暴力的なしつけをするかのようにアイーラを蹴飛ばす。アイーラは抵抗する力も抵抗する気もなく、自身への諦めに満ちた自己犠牲でされるがままにされようとしていた。
「ありがとうございます」
「それで良い。さて、まずは貴様の悲鳴を聴かせてもらおう!」
ゲイボルグの向く先はアイーラの右腕、矛先が徐々に近付く。
アイーラは痛みをやり過ごそうと歯を食いしばった。
「フフフ……ハハハハッ!」
神話型『PODE』は玩具で遊ぶかのように笑って一気にアイーラの右腕を貫こうとしたその瞬間、ゲイボルグは突然飛び出してきたものを貫いた。
「な、なんだ!?」
「アイーラはやらせない!」
突然飛び出してきたものの正体は雛であり、ゲイボルグが貫いたのは雛の右目だった。
「貴様、なぜここに!? 確かにゲイボルグの爆発に巻き込んだはず!」
「俺の状態を確認もせずになぜそう言える?」
「俺が自分の力を過信したというのか……!」
無力化したという確信を打ち破られたことによる衝撃と一緒に命の危険を感じ取った神話型『PODE』はすぐさま雛から離れた。
対する雛は右目を貫かれて血が流れているのにも関わらず、顔色一つ変えずに残った左目で神話型『PODE』を捉える。
神話型『PODE』と雛が距離を離して対峙する状況。アイーラはこの状況を望んでいなかった。
「雛君、私に構わないで。私はそこの敵と約束したの……私の全てをあげる代わりにみんなを見逃してくれるって。これで雛君もレイテットも美保さんも生き残れる」
アイーラは言う。
不安や劣等感を全て投げ出し、期待や自信を全て捨て去り、友達も仲間も忘れて、全てに諦めれば大切な人から離れることも苦しくない。そして大切な人のためならこの身を差し出す。
そういう心持ちでアイーラは雛を見つめた。
「民間人を守るのが自衛官の務め、民間人の命を敵に差し出すつもりはない」
しかしアイーラの気持ちとは真逆に雛は戦おうとしている。
「バカ、殺されるよ!」
「まだ殺されると決まった訳じゃない」
「でも!」
アイーラの口から漏れ出る気持ちと一緒に涙が垂れ落ちる。
「俺に守らせてくれ」
「なんで……そうまでして私を守ろうとするの?」
頼もしく聞こえる声がアイーラの耳に届いた。
小雨のように止まらない涙を流し、アイーラは問う。
「友達だから」
それが雛から返ってきた答えだった。
「それだけで?」
「あぁ」
「でも私は、みんなを危険に晒したんだよ!」
「ならばその危険を払いのけるまでだ。原因がアイーラのミスだとしても俺がそのミスをどうにかしてみせる」
「バカ……!」
アイーラの存在を肯定する言葉が気持ちに届いた。心の中で雛の言葉は溶けて、熱くなっていく。そして流す涙の意味が変わってくるぐらいにアイーラの心は温かくなっていた。
「ふん、俺が驚いている間に話しは終わったか?」
アイーラと雛の話しに割り込むが如く、余裕を取り戻した神話型『PODE』が問う。それに対して雛は「戦いの続きをしたいのか?」と返した。
「そうだ、決着を付けよう!」
「良いだろう、お前の息の根を止めてやる」
雛はアイーラを守るため、神話型『PODE』は己の力を証明するため、両者の背負った使命が戦いの熱を再び熱くさせる。
神話の者と人の形をした者の戦いは再び始まろうとしていた。




