第七十五話 虚構を殺す者
よし、このまま投稿がんばりますぞ~
絶望というものは深い。それこそどこまでも落ちていく。
まさに底なしの谷だ。
一度落ちれば希望を再び見つけるまでは這い上がれない。這い上がろうとしてもまた堕ちることだってある。
「レイテット……」
愛する者が目の前でズタズタに引き裂かれる。繰り返される悲鳴。無残な姿になっていくレイテットの姿。
その光景が雛の瞳に映り、絶望の底なし谷に堕ち続ける。
「ククク……人間とはあまりに無力だな。やはりこの世は人間を奴隷にして、神に匹敵する者が統べるべきなのだよ」
ドラゴン型が雛を見て言う。扇形の翼を広げ、無残な姿に変わり果てたレイテットを手に持ち、勝ちを誇る。
それを目の前にして雛は絶望に堕ちながらただただ立ち尽くしていた。両手に銃を持っていても引き金を引く気力はもはや残っていない。
「人間よ、言葉は最強だ。私は宣言通りに娘の一人を食ってやったぞ」
ドラゴン型がそう言うと、レイテットの頭を噛み千切った。
レイテットの身体から頭がなくなり、血が噴き出る。
――死んだ
その言葉が雛の頭の中を駆けた。
大切な人を失った事実が雛の目に映る。
絶望で重くなる身体、持っている銃の感触は確かにある。
雛が見ている世界は悪い夢ではなく確かに現実だ。
「あの三人娘たちも食ってやりたいが、その前に貴様を食ってやろう。さぁ私の糧となれ!」
ドラゴン型が死体と化したレイテットを地面に投げ捨てる。そして雛を食おうと巨大な口を開き、雛の全身を覆うほど大きい手を近付けていく。
「……?」
ドラゴン型の言葉。それに違和感を覚えた雛は涙を払い、視線を前に向けた。
雛の視界に広がる光景はドラゴン型が食おうと手を近付ける姿、そして無残な姿になっているレイテットの死体。
しかしその光景にも違和感があった。
「!」
すぐにドラゴン型から離れ、違和感が出ているレイテットの死体に注目する。
雛はこの瞬間、わずかに希望を見つけて絶望を這い上がり始めた。
「なぜ血が出ていない」
レイテットの死体は無残な姿で地面に転がっているが、雛の言う通り本来死体の傷口から出るべき血が出ていなかった。
そして雛の鋭い呟きはドラゴン型を怯ませる。
「貴様、その娘は既に死んでいる。急に何を言い出すか」
動揺を隠せずドラゴン型が言う。
そのドラゴン型を雛は見て「なぜお前の手にはレイテットの血が付いていない?」と鋭い指摘を浴びせる。
「つ、付く訳がない……! 私は貴様たちと違って体表に付いた血を吸収することが出来るのだ!」
必死になって言うドラゴン型の手には確かに血は付いていなかった。もちろんレイテットを持っていた手にも血は付いていない。
しかし『PODE』がデフォルトで身体に付いた血液を吸収出来るという情報はなく、また事実もない。
「まぁ良い、論より証拠だ。お前の嘘を暴くために試してみよう」
雛は躊躇いがありながらも9mm拳銃の銃口をレイテットの死体に向け、引き金を引いた。
発砲炎と共に放たれた弾丸がレイテットの死体に向かって行く。だが、レイテットの死体に当たることはなかった。もちろん弾かれた訳ではない。しっかりと弾丸はレイテットの死体に向かっていた。
「貴様!」
ドラゴン型の動揺。虚構は今暴かれた。
ドラゴン型が魔法陣から出したレイテットはまさしく作り物だったのだ。それを証明するように弾丸はレイテットの身体を通っただけで、血飛沫が出ることも撃たれた衝撃で死体が動くこともなかった。まるでゲームのオブジェクトのようである。
「どうやらお前の魔法は誰かを転送するものではなくて、見たものを再現して相手を騙すものらしい。だが、お前の魔法は物理的に干渉されると途端に嘘がバレる。そこが弱点だ。そしてお前は弱点が露呈しないように意味もなく言葉を並べて物理的な干渉を避けるように誘導した」
「貴様……! 全部見破りおったか!」
「とりあえずトリックは分かった。また騙される前にここで死んでもらう」
雛は違和感を辿り、嘘を暴き、絶望から完全に這い上がった。
そしてSAIGA20の銃口がドラゴン型の『シールド細胞』に向いた。次は嘘を作り出すドラゴン型が絶望する番だ。
「や、やめろ! そうだ、私たちが共存出来る道を探そう! そうすれば私たちは――」
「嘘を並べるのに飽き足らないなら俺がその嘘を殺してやる」
SAIGA20の引き金が引かれる。発射されるスラッグ弾は確実に『シールド細胞』を捉えている。
「嫌だ……神に匹敵する……私が……こんなところで……死にたくな――」
ドラゴン型の言葉を引き裂くようにスラッグ弾が『シールド細胞』に直撃。明らかな致命傷、ドラゴン型は絶望に堕ちながら蒸発していく。
「撃破」
絶望をドラゴン型に送り返し、打ち破った。
「今行くぞ、レイテット!」
レイテットたちがまだ生きているという事実。それが雛の見ている世界を再び色付かせる。
雛はレイテットたちが逃げた方向に走った。安否の確認のため、そして再び色付いた世界でレイテットたちと笑顔になるために。




