第六十九話 無数の敵 爆走車と害虫
まずはレイテットと雛、敵を引き付ける者の戦いからどうぞ!
銃声が街の中を駆けるように鳴り響く。
その乾いた発砲音こそ、戦闘が始まったことを示しているなによりの証拠。
時刻は午前と午後の境目にある昼の十二時。
レイテットと雛は無数とも言える数の『PODE』と交戦、敵を引き付ける陽動の役割を実行中だった。
「さぁどんどん来てみろ!」
「あわよくば殲滅するまで……!」
レイテットと雛、二人は車が一つもない車道の上で敵を翻弄するように動き続け、銃声を響かせては迫り来る人型の『PODE』を確実に蒸発させていく。
「雛君に手は出させない! 出して良いのは私だけ!」
唐突な恋人発言を口に出し、レイテットは雛の背後にいる人型の『PODE』に狙いを付ける。そして引き金が引かれる。銃口から噴き出る発砲炎と共に弾丸が飛び出て、放たれた弾丸は『シールド細胞』を貫く。
雛の背後にいた人型の『PODE』は蒸発。
レイテットの援護は今までよりも精度を増していた。
「射撃上手くなったな、レイテット」
背後から聞こえる『PODE』の蒸発音を耳にして、雛が告げる。
「私の目が届く内では誰も殺させないからね!」
レイテットが自信たっぷりに言い、次の敵へと銃剣付きドラグノフの銃口を向ける。
続けて鳴り響く銃声。放たれるSAIGA20からの弾丸とドラグノフからの弾丸は寄ってくる『PODE』の『シールド細胞』を貫き、破壊していく。
弾丸が放たれては、蒸発、リロードの繰り返し。
その繰り返しが続いて二十体近くの『PODE』が蒸発した直後、車のエンジン音が二人に近付く。
「なんだ?」
雛が音のする方に向き、目を凝らす。
見えてくるのは人型の『PODE』の遥か後ろで緑色の半透明な乗用車が車道を爆走する姿、車型の『PODE』である。
同族である人型の『PODE』を構わず轢き殺している様は暴走車と言っても過言ではない。
「あの速度で轢かれたら即死だな」
「ひょっとしたら異世界に跳べるかもね……そうしたらハーレムになったりするかも」
「大切な人を残して跳ぶつもりはない、生きるぞ」
「はいよ!」
冗談を交えながら背中合わせの状態となる。二人とも明確な死角はなくなり、敵への攻撃は緩まない。
近付く人型や初期型の『PODE』は『シールド細胞』を撃ち貫かれ、肉薄する『PODE』は雛の手刀またはレイテットが持つドラグノフの銃剣の切っ先で『シールド細胞』を貫かれる。
もはやレイテットと雛にとって人型と初期型の『PODE』はただの雑魚に成り下がっていた。
「車型の『PODE』が来る、避けろ!」
「はーいよっと!」
同族を轢き殺しながら凄まじい勢いで二人に迫る車型の『PODE』だが、素直に轢かれてくれるレイテットと雛ではない。
レイテットと雛は背中合わせの状態を解除し、左右に分かれるように車型の『PODE』の突撃を回避する。
「爆走するだけの単純な敵にやられはしない」
「そうそう、やられないから!」
右にレイテット、左に雛と分かれる。
突撃を避けられた車型の『PODE』は速度を大きく落としながら方向転換、鼻先をレイテットの方に向ける。
もちろん雛は隙だらけである車型の『PODE』を逃さない。
「もらった」
アイアンサイトで狙いを付けて、SAIGA20の引き金を引く。放たれるのはスラッグ弾、車型の『PODE』の身体を抉るようにして中に入り込む。そうして『シールド細胞』に達して派手に血を噴き出させた。
「まずは速い奴を一体排除」
雛が言い、車型の『PODE』はあっという間に蒸発する。
レイテットが「次は?」と言って敵の方を見ると、よろよろと歩く人型『PODE』の後ろに蜂型の『PODE』が建物に張り付いている姿がレイテットの視界に入った。
「前戦ったみたいな大きな虫がいるんだけど、雛君」
レイテットが蜂型の『PODE』の存在を知らせるように告げ、その声に反応した雛はレイテットと同様に敵の方を見て蜂型の『PODE』を視界に入れた。
「人間ぐらいの大きさ、そして形はスズメバチと言ったところか。刺されると猛毒どころか身体に穴が空くな」
「雛君、どうする?」
雛は初めて見る蜂型の『PODE』を簡単に分析する。その分析を聞いていたレイテットは雛に対処策を訊く。
「近付かれる前に奴の『シールド細胞』を撃ち貫いて終わりにするだけだ。仮に近付かれて敵に攻撃を許してしまうなら建物に隠れるのが良いだろう、それでやり過ごせる」
「相変わらず雛君の言う事は簡単で分かりやすいね!」
「ありがとう。さぁ、やるぞ」
「うん!」
対処策を出され終えたところで、二人は早々に蜂型に狙いを付けた。そうして二人とも引き金を引く。
発砲炎が噴き出て、銃声が響く。
銃弾は蜂型を貫いて行く。だが、心臓部である『シールド細胞』には当たることはなかった。
「なんだ?」
「確かに今、直撃コースだったよね!?」
雛とレイテットは確かに『シールド細胞』目掛けて撃った。レイテットの狙いが外れることはあっても雛の狙いが外れることは武器の有効射程距離を超えている場合以外はほとんどあり得ない。
雛は目を凝らして、蜂型の『シールド細胞』を見つめる。そうしてあることが分かってくる。
「あの敵、自らの心臓部を移動させている。生きている人間を食った個体か」
「人間の頭脳を持ったスズメバチって訳ね」
「スズメバチの極めて高い攻撃性も含まれているはずだ。きっと弾丸を恐れることはないぞ」
「恐れないなら殺してしまうまでよ!」
「そうだな」
レイテットと雛は再び引き金を引く。
銃口から放たれる銃弾は蜂型の『PODE』を撃ち貫くが、心臓部である『シールド細胞』は体内を動き回って当たらない。
「敵が動くぞ!」
雛が言うと、蜂型の『PODE』が建物から離れて飛び立った。大きな羽をバタバタと羽ばたかせて飛ぶ。
そのままレイテットと雛目掛けて、蜂型の『PODE』は高速で接近。
「叩き落とす!」
「刺される前に殺す」
二人は上空を飛ぶ蜂型の『PODE』に発砲を繰り返す。しかしドラグノフとSAIGA20から放たれる銃弾は体内を動き回る『シールド細胞』を破壊出来ずに身体を貫通していった。
明確な決定打は全く与えられず、蜂型の『PODE』が更に接近。刺す態勢を取って、尾から人間の身体を簡単に貫通させるぐらいの大きい毒針が出てくる。
「私が引き付ける! 援護して、雛君!」
「了解した」
自信と覚悟、そして雛をこれ以上傷つけさせないという気持ちを持ってレイテットが前に出た。発砲はしない。銃口だけ向けて、敵意を見せるだけである。
「食いついた!」
向けられた銃口からレイテットの敵意を明確に感じ取り、蜂型『PODE』の針先がレイテットの方に向いた。
「そのまま、そのまま……!」
レイテットは蜂型の『PODE』を引き付け続け、確実に毒針がレイテットに近付いていく。
「そこぉ!」
毒針がレイテットに刺さる瞬間、レイテットは最小限の動きだけで毒針を回避した。毒針はレイテットを行き過ぎる。避けられた影響でそのままアスファルトを容易に貫通してしまい、車道に深く刺さり込んだ。
毒針を完全に排出して、再度飛ぶにも三十秒は掛かる。
もはや蜂型の『PODE』は隙だらけだ。
「まずは追い詰める」
その隙を突いて雛はSAIGA20の引き金を引き、心臓部である『シールド細胞』を身体の端までに誘導するよう撃ち続ける。
全ては雛が狙った通り、体内を動き回る『シールド細胞』は身体の端まで追い詰められていた。これで逃げ場は限られる。
「これで駆除完了」
雛は『シールド細胞』の動きを予測してSAIGA20の引き金を引く。
銃口から放たれたスラッグ弾は確実に蜂型の『PODE』の身体を貫通し、心臓部である『シールド細胞』を貫通する。
ようやく当たった致命の一撃だ。
じわりと体内で血が広がり、蜂型の『PODE』はレイテットの頭上で蒸発する。
「倒せた……ちょっと怖かったかも」
間近に迫った恐怖。レイテットはヘタリとその場に座り込んでしまう。
「大丈夫か?」
「うん」
助け起こしてくれる雛の手を取り、レイテットは支えられながら立ち上がる。
「レイテット、背中を怪我しているんだからあまり無理はしないでよ?」
「そう言う雛君だって前々から重傷レベルの怪我をしているでしょう?」
「まぁ確かに……」
「だから大丈夫! まだまだ行くよ!」
厄介な敵を二体潰し、雑魚を二十体近く排除。
しかしまだまだ敵はいる。
数の多い人型と初期型、騎士の姿をしたコピーした能力不明の敵。
戦いは続く。
レイテットと雛の戦いは後一話続きます。
それからアイーラの方です。




