第六十四話 猫日和
今回は短いほのぼの回でございます
時刻は午前九時。既に太陽は昇っている時刻だ。
今日の空は青空。雲はいくつかあるものの、その雲たちは青空の邪魔をしないほどに少ない。昨日の曇り空に比べて、今日の天気は気持ちの良い晴天である。
「ん? もう朝?」
アイーラは目を閉じたままで窓の外が明るくなっていることに気付く。目を開けると、寝たままで窓の外を見つめた。
晴天の空で輝く太陽。その輝きが地上のあらゆるものを照らし、空も照らしている。それら視界に映る外の明るい光景がアイーラに朝だと分からせる。
「ぬぬぬぬぬこ!」
朝だと分かると、気だるいながらもアイーラは身体を起こした。そのまま猫さながらの背伸びをして目を覚ます。
「ん?」
目を覚まして身体の感覚が分かってくると、腰辺りと頭にふさふさとした感触をアイーラは感じた。妙に触り心地が良いその感触をアイーラは手で触って確かめる。
「猫……耳? 尻尾?」
触っている内にふさふさとした感触の正体が分かってくるアイーラ。アイーラが手で認識している形やふさふさとした感触からして猫の尻尾と耳には間違いない。
しかしなぜそれがあるのか?
アイーラは自らの腰を見つめる。
「お!?」
アイーラは驚く。視界に映るそれはまさしく猫の尻尾。しかもパジャマから猫の尻尾がはみ出している。
そのままアイーラは窓に近付き、反射する自分の頭を見つめる。
「うぇ!?」
反射して見えてくるのは頭から生えている猫の耳。しかも髪色と同じ色合いをしている。
そしてこの状態が意味することはただ一つ。
「私、猫人間になっちゃった!?」
こんなにも非現実的な事態。アイーラは雛たちにこの猫人間状態を伝えようとして、リビングへと移動した。
「な!?」
リビングに移動したものの、アイーラはまたも驚いた。
今の猫人間状態という異常を伝えようとした矢先のことだ。リビングにいた雛たちにも猫の尻尾と耳が付いていたのだ。もはや異常はアイーラだけのものではなくなった。
「おはよう! 今日は起きるのが少し遅かったね!」
こんな異常な中、レイテットがいつもの調子でアイーラに挨拶した。
「ど、どうなってんのこれー!」
意味の分からない状態と状況、アイーラは心に思っている疑問をそのまま口から叫ばせた。
その声は家中に響き、みんながアイーラを見た。
「ちょっと誰か説明してよ、この状態!」
アイーラが説明を求めると、完全に猫耳メイド状態になっている美保が説明を始めた。
「実はね、これが人数分あったからみんなに付けてもらおうってことで付けてもらったの」
そう説明して、美保は猫の尻尾と耳をアイーラに見せた。生存者たちに付いている尻尾と耳、それはつまり着用出来る尻尾と付け耳ということになる。
そしてこの異常な状態を作り上げた犯人が美保だと分かってくると、アイーラは「私は寝ている間に付けられたんですね」と呆れた表情で言った。そこでアイーラはハッとあることに気付く。
「待って、私に耳と尻尾付けたの誰!?」
アイーラが気になって尋ねると、雛が手を上げて「俺だ」と告げた。
そう、アイーラに猫の尻尾と耳を付けたのは雛なのだ。
「な!?」
男である雛がアイーラの寝ている間に尻尾と耳を付けた。それはつまり無防備な状態で雛に触られたことになる。
まだ異性とのあらゆる経験がないアイーラにとっては衝撃的な事実だ。
「雛君のエッチ!」
「ん? なんでだ?」
「当たり前じゃん、女の子の身体を勝手に触るなんて許されないよ! しかも雛君にはレイテットがいるから余計にダメでしょう!」
「俺はアイーラを起こさないように尻尾と耳を付けるという任務を美保さんに任されただけなのだが……」
雛の口から美保という名前が出たところで、猫のように鋭くなったアイーラの目が美保の方に向く。
「美保さーん!」
「ごめんね、テヘペロ」
「年増がそれをやっても許されませんよ」
ナイフのようによく刺さる鋭い指摘を頂いてしまった美保は、ガクッと肩を落とした。流石に年増という単語を差し向けられたのは痛かったのだろう。それほど後一年で三十歳に突入する美保は年齢を気にしているのだ。
「はぁ……とにかく雛君のことは許す」
深い溜め息を漏らしながらも、全ての元凶は美保にあるとしてアイーラは雛を許した。
「さて、今日も一日始めるか」
そんなこんなで生存者たちの朝はこうして騒がしい一件から始まるのであった。




