第六十一話 お菓子回収作戦3
時刻は午前十一時。
生存者たちは狙撃地点に到着しており、狙撃班と回収班に分かれていた。
「レイテット、美保さん、こちらの銃撃が始まったらお菓子の回収をお願いします」
「はいよ! 盛大に銃ぶっ放してお菓子取ってくるね!」
「うん、任せた。だけど合流地点に行くときは発砲を控えてくれ。こっちに敵を引き寄せておきたいからな」
「ういうい、じゃあ作戦通りにね!」
雛とレイテット。お互いに信頼し合い、回収班であるレイテットと美保は一階の出口にまで降りて行く。そのまま回収班は狙撃班が発砲するまで敵に見つからないよう待機した。
「アイーラ」
「分かってるよ」
「では、俺は銃声に反応して寄ってくる敵の対処に専念する。アイーラは回収班の援護に専念してくれ」
「はーいよ」
お互いに笑みを見せて、それぞれ役割を決める。そうして狙撃班である雛とアイーラは窓から街の通りを見つめた。
窓から見える敵は初期型がほとんどで、人間型がほどほどにいる。そして雛が予想した通り『PODE』の数は多い。援護がない状況では回収班は全滅するだろう。
「撃っちゃうよ」
「了解、やってくれ」
アイーラはAEK971のスコープ越しに敵の『シールド細胞』を見つめて、引き金を引く。
銃声が響く。放たれた銃弾は確実に『シールド細胞』を射抜き、最初の一体目を蒸発させた。
そしてその銃声を合図として回収班が動き始める。一階の出口から出て、お菓子屋に走って行く。
「狙い撃つっぜ!」
アイーラは自身の高い索敵能力と確実な狙撃を巧みに扱い、回収班に近付く『PODE』を潰していく。まさしく素早く確実な援護である。回収班が迎撃するまでもないほどに、アイーラの援護は凄まじい。
「銃声を聞きつけて寄ってきたな」
アイーラが回収班の援護をしている一方、銃声を聞きつけて狙撃地点である集合住宅に『PODE』が引き寄せられていく。
それを迎撃するのが雛の役目。雛は窓からSAIGA20の銃口を向けて迎撃を始める。スラッグ弾の一発一発を『PODE』の『シールド細胞』に当てて、近付く敵から順番に蒸発させていく。
完璧なまでの援護と迎撃、回収班に手を出せばアイーラの援護で仕留められ、狙撃地点に近付けば雛に迎撃される。
もはや敵は手の出しようがない。
「良いぞ、完全に敵を封じている」
アイーラと雛が援護と迎撃を続けている間に回収班はお菓子屋に到着、店内に入り始める。
それを確認したアイーラは「レイテットと美保さんがお菓子屋さんに入ったよ!」と雛に報告した。
「分かった、アイーラはそのまま回収班の援護を頼む」
「はいはい。お菓子屋に近付く敵を徹底的にやっちまうぜい」
アイーラはスコープ越しにお菓子屋の周りを見つめる。そうしてお菓子屋に近付こうとする『PODE』を仕留めて行く。敵の数が五体以上だろが、人間をコピーして走っていようがアイーラの高い索敵能力と確実な狙撃、そしてAK47より精度の良いAEK971もあって全て阻まれる。
『PODE』がお菓子屋に侵入していくことはない。それどころか賢い脳を持っていなければ、アイーラの援護に全て阻まれて侵入など不可能である。
「リロードするよん」
「了解、スタイルを変える」
アイーラの援護が一発一発確実でも敵の数が多い以上、リロードが発生する。
この隙を埋めるために雛はスタイルを通常から『デュアル』に変える。
SAIGA20を右手に、9mm拳銃を左手に持つ。SAIGA20はそのまま迎撃に使われ、9mm拳銃は回収班の援護に使われる。
「流石に厳しいな」
迎撃と援護、アイーラのリロード中はそのどちらにも気を配らなければならない。雛は左右の目を迎撃と援護に使い分けることにした。左目は援護に、右目は迎撃に使われる。
そうしてSAIGA20と9mm拳銃から弾丸を放つ。迎撃の方は難なく上手くいき、近付く敵から順調に蒸発していく。しかし問題は援護の方である。距離が遠く、9mm拳銃では当てにくいのだ。既に三体ほど仕留めているが、弾丸を二発外している。
「リロード終わった!」
「了解した、リロードする」
雛が迎撃と援護の両方をこなすには厳しくなっていたところで、アイーラがリロードを終えて戻ってきた。代わりに雛がリロードを始める。
「ハンティングの続き、やるよ」
「こっちは迎撃の続きをやる」
アイーラが援護を再開する。それと同時に雛のリロードは終わった。
再び完璧なまでの迎撃と援護が始まる。敵は手の出しようがない。
「雛君、レイテットと美保さんがお菓子屋から出てきた!」
「了解した、そのまま回収班の援護を頼む」
「はいよ」
回収班がお菓子屋から出てきて、そのまま合流地点にまで走って行く。その間もアイーラは援護を続ける。回収班の撤退を邪魔する敵を徹底的に潰し、撤退するためのルートを作り上げて行く。
銃声が響き、アイーラの正確な援護が続いている間に回収班は合流地点に到着。アイーラの援護は届かなくなり、狙撃班も撤退する頃合いとなった。
「雛君、レイテットと美保さん行っちゃったよ」
「分かった。俺たちも撤退しよう」
援護と迎撃を止めて、それぞれリロード。撤退の準備を整えて狙撃班も撤退しようとしていた。しかし少しの間だけでも迎撃が止まったことによって大量の『PODE』が狙撃地点である集合住宅に侵入してくる。
ぬめりとした音が階段の方から聞こえてくる。それもかなり数が多く、勢いがある。このまま階段の方から行けば数の多さで潰される。完全に狙撃班の退路は塞がれた。
「え、これ来るよ? 階段使えないけどどうするの?」
このままでは死ぬ。
そう、命の危機を感じ取ったアイーラが不安そうに言う。が、雛は冷静なままだ。アイーラが「なにか策はあるの?」と焦りながら訊くと、雛は「退路はもう一つある」と告げた。
アイーラは周りを見回すが、退路なんてものはどこにも見当たらない。唯一の退路は塞がれている。アイーラから見ればまさしく詰みだ。
「どこ? どこにあるの?」
「窓だ」
「え? 窓!?」
雛の言ったことに驚くアイーラは、窓の方を見た。
「確かに窓から出られるけど、ここ三階だよ! ここから落ちたら死ぬよ!?」
「俺を信じろ」
とても頼もしく聞こえる雛の声だが、アイーラは窓から出る覚悟が決まらない。
こうしている間にも『PODE』は迫ってきている。
「よし行くぞ」
「え!? ちょっとまだ覚悟が!」
『PODE』が迫ってきている以上、アイーラの覚悟の有無など考えている暇などない。雛はすぐさまアイーラを抱きかかえて、窓から飛んだ。
三階の高さからのジャンプ。このまま着地すれば骨折は免れないはずだが、雛は普通に着地した。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った」
「合流地点に急ぐぞ」
「ちょっと待って、骨折とか大丈夫?」
「大丈夫だ」
「うそーん」
雛に骨折はなかった。それもそのはず、雛の身体は常識の外れた『PODE』との戦いに慣れてきているのだ。ちょっとやそっとの攻撃では倒れることはない。そしてその身体は実戦経験を積む度により強靭に、より軽快になっていく。
「雛君……本当に人間なの?」
「大丈夫、人間だ。それよりも合流地点に急ぐぞ」
敵である『PODE』は狙撃地点内を探し回っていた。しかしそこにアイーラと雛はいない。外に出たことを気付いていない今、『PODE』は狙撃班を完全に見失っていた。
その状況を利用して、狙撃班は合流地点にまで急いだ。
アイーラを抱きかかえたまま雛は走る。そして敵と出くわすことなく、難なく回収班と合流した。
「全員無事だな?」
「大丈夫!」
「お菓子も無事よ」
回収班のレイテットと美保は怪我の一つもなく、元気な様子だ。怪我をやせ我慢している訳でもなければ、衣服がダメージを受けた様子もない。全くの無傷だ。
「帰ろうか」
「うん!」
生存者たちはお菓子を持って、家へと帰還する。
お菓子回収作戦は負傷者を作ることなく無事に終わった。




