第六十話 お菓子回収作戦2
時刻は午前十時。天気は相変わらず晴天である。
この良い天気の下、家を出発した生存者たちはお菓子回収作戦遂行のために目標地点にまで向かっていた。
そして生存者たちの現地点は草むらの中、レイテットと雛を先頭にして目標地点に向けて移動中である。
「うわ、虫だ」
虫の羽音、虫の気配、視界に入る虫。虫の存在を感じ取り、アイーラの不快感は一気に上り詰める。
それもそのはずここは草むらの中だ。平然と虫があちこちで飛んでいる。虫が大嫌いなアイーラにとっては最悪の場所である。
「美保さん」
「また虫かしら?」
「うん、潰してって」
「それじゃあこの前みたいに虫がどこにいるか教えて、潰してあげるから!」
「分かった」
アイーラの索敵と美保の素早い虫潰し。
武器調達の時と同じく、虫の多い草むらにいる間は虫を潰しながら目標地点に向かう。
「あ、そこ」
「おりゃっ!」
早速アイーラは視界に飛び込んできた虫を見つけて居場所に指差す。美保はその指差された方向を見て、おおよその位置を把握。そのまま目視で見つけた虫を潰す。
アイーラと美保は虫の多い草むらを出るまで、索敵と潰しを繰り返す。もちろんアイーラの目は時々後方を見て、警戒は怠らない。二人が後方の警戒と虫潰しを繰り返している間、レイテットと雛は銃口を前に向けて前進し続ける。
「レイテット、なにかいたか?」
二人は草むらから出るところまで来た。そこで雛はレイテットに確認を行う。
レイテットは首を横に振る。
「あいつらはどこにもいない、雛君の方はなにか見えた?」
「俺の方からも敵は確認出来ない。このまま慎重に行くぞ」
「うん!」
慎重に進むレイテットと雛は草むらを抜けた。草むらを抜けて二人の視界に入るのは少し遠くに見える街と一つの車道。敵の姿はない。
レイテットと雛は警戒を続けて、アイーラと美保が草むらから出てくるのを待つ。
「よし、抜けた」
「これで虫からの恐怖から解放されるわね、アイーラちゃん」
声を発したアイーラと美保が草むらを抜けた。
すかさず雛は二人に「なにかいたか?」と確認を行う。
「いるのは虫だけだったよ。ちなみに敵はいない」
「もちろん視界に入った虫は私が全部潰したわよ」
やったことと見たものをそのままに告げるアイーラと美保。
雛はアイーラのいつもの虫嫌いを理解しつつ敵がいなかったことを把握する。
「脅威となる敵はいないな」
「じゃあこのまま慎重に進んでいこう!」
雛とレイテットはそう言って、生存者たちは車道の上を進む。
車道の上は放置された車などの障害物がなく、敵に見つかりやすい。しかしこの車道は街から少し離れている。仮に敵である『PODE』がいたとしてもその数は少なく、対処はしやすい。
「敵がいたらすぐに教えてくれ」
「うん!」
「ほーい」
「分かったわ、敵がいたらすぐに教える」
いくら敵が少ないとはいえ、敵に見つかりやすい車道だ。生存者たちは警戒を強くして車道の上を進み続ける。
そうして生存者たちは街に近付いていた。
「みんな、待ってくれ」
雛の指示。生存者たちは一斉に足を止める。
「今いるこの地点がお菓子回収後の合流地点となる。合流出来ないと大変なことになるから、よく覚えていてくれ」
「はーい!」
「うん、分かった」
「えーと……あれとあれを目印にすれば良いわね」
雛の確認と説明を受けて、彼女たちはそれぞれ違う反応を見せる。
レイテットは確実に覚え、アイーラは覚える気のない返事、美保は目印になるものを探す。
「ここから先は車道を進まない。このまま進めば敵が多い街の通りに入るからな。警戒を怠らず建物の裏側から集合住宅に向かうぞ」
雛を先頭にして生存者たちは建ち並ぶ建物の裏側へと足を進めた。
建物の裏側には少し離れたところに草むらが広がっており、身を隠すにはうってつけだ。もしもここに『PODE』が潜んでいるのならば草むらから襲撃される可能性は極めて高い。
もはやいつ襲撃されてもおかしくない。生存者たちに緊張が走る。
「来るか?」
「来るなら来い!」
「来なくて良いよ」
「来るなら弱いのでお願い……」
草むらが微かに揺れる。
それを見た生存者たちはそれぞれの武器を構えて、草むらの方の警戒を強くした。これでいつ襲撃されても即座に対処が出来る。
生存者たちは警戒を強くしたまま集合住宅にまで移動、結局草むらが微かに揺れただけで襲撃は来なかった。
「なんとか見つからずに到着したな」
「だね、ここから先はどうする?」
「まずは裏口から入ってこの集合住宅を確保する。それから狙撃班と回収班に分けてお菓子を回収する。たぶん表の通りは敵が多い、援護なしで進むと誰か負傷するか最悪誰か死ぬ」
雛の言う通り、表の通りは『PODE』の数が多い。一桁の数どころではなく、最低でも二十体はいる。最悪の場合百体以上の『PODE』を相手にすることにもなりかねない上に、なにかをコピーしている状態かもしれない。
それらの要素もあって、狙撃による援護がなければお菓子を回収出来たとしても生きて帰れる可能性は低いだろう。
「レイテット、俺と一緒に先頭を頼む。アイーラと美保さんは後方の警戒をしつつ中に入って来てくれ」
雛とレイテットが先頭、アイーラと美保が後方という形となり、生存者たちは集合住宅に入り始める。
先に入るのは雛とレイテットだ。
二人は警戒をしながら建物内に侵入。微かな音でさえ逃さないように集中と緊張感を切らさない。
「まずは一階の確認からだ。敵がいたら発砲は控えて銃剣で殺せ」
「はいよ……!」
雛とレイテットはゆっくり慎重に進んでいく。銃口を下ろすことはない。緊張は続く。
「雛君、入るわよ……!」
静かに発せられる美保の声。雛は声がした方に振り返り、裏口から入ってくるアイーラと美保の姿を視界に入れた。
「分かりました。引き続き後方の警戒をお願いします」
「はーい」
声をひそひそとさせて生存者たちは進み続ける。そうして外の敵に見つからないように一階の確認を終える。
次は二階である。
「確認する部屋は三つか。意外と少ない、多少楽出来るな」
二階に上がり、これから一つ一つの部屋を調べようとしているところで雛は呟いた。
生存者たちは雛を先頭にして一つ一つ部屋の確認を開始する。部屋の徹底的な確認、敵がいないことが分かれば次の部屋に移る。生存者たちはそれを繰り返し、全ての部屋の確認を終える。
結局敵はいなかった。
「次の階で最後だ。最後まで気を抜かずに行くぞ」
生存者たちは集中を保って三階に上がる。
三階に上がった後は部屋の一つ一つを徹底確認、敵がいなければ次の部屋へと移る。それを繰り返す。
そうして生存者たちは全ての部屋を確認し終えた。結局この階にも敵はいない。
「なるほど、既に食い散らかした後という訳か」
ここに人間を含めた生物や武器となるもの、創作物などの〝食い残し〟があれば『PODE』はまだここにいるだろう。しかしいないということは〝食い散らかした後〟ということを証明しているなによりの証だ。
「とりあえずこれでこの建物は確保した。ここからは狙撃班と回収班に分かれる」
「はいよ! 回収は任せて!」
「狙撃は私に任せてちょ」
「私はとりあえず足を引っ張らないようにするわね」
お菓子回収作戦は狙撃地点を確保するという第一段階を終えた。
「さぁ、虫歯になるくらいお菓子を大量に手に入れるぞ」
ここからはお菓子回収作戦の第二段階、狙撃班と回収班によるお菓子回収が始まる。
次回、作戦の第二段階目が始まる。




