第六話 お話しの夜
前話に続いてお話回です L(・ω・′)」
部屋から香ばしい匂いはすっかり消え、カレーライスは既に片づけられていた。食器類は洗い終わっており、食器棚に置かれていた。
暗い夜更けの中、電気によって明るく照らされている家のリビングには四人の生存者がいた。
皆テーブルの席に座ってそれぞれくつろいでいた。
「アイーラ、アレ頂戴」
「ほいよ」
レイテットの要求に応じてアイーラはポケットからロシア語表記で書かれている手の平サイズの箱を出した。手の平サイズの箱をレイテットは快くして受け取り、箱の中から一本のタバコを出した。
「あ、火」
戸棚からライターを取り出し、その場でタバコに火を点けた。もくもくと煙が天井に上がっていく。
「レイテット、私にも火頂戴」
アイーラの気だるそうな声がレイテットにお願いをした。レイテットは気前よくライターの火でアイーラが咥えているタバコに火を点けた。
戸棚にライターを戻すと、レイテットも火の点いたタバコを咥えた。
「ふぁ……最高の一本」
「うん、これは良いものだ」
二人とも同じタイミングで口からタバコの煙を吹きだした。段々室内が煙ったくなってくると、ゼラニウム4はガスマスクを着用した。ガスマスクの着用はタバコの煙を吸わないための対策である。
二人はガスマスクを着用したところを見て、不思議そうにゼラニウム4の方を向いた。
その様子でなんとなく察したレイテットは口を開いた。
「あれ、ひょっとしてタバコ駄目なやつ」
「駄目とは言わないがタバコは好きじゃない。煙も出来るだけ吸いたくない」
「なんかごめん、すぐ消すから!」
「吸い続けてくれて構わない。今の俺はガスマスクをしているから」
そういう風に言うゼラニウム4の言葉に甘えて、レイテットはタバコを吸い続けた。
もくもくと煙が上がっている内にふとレイテットの頭に話題が思い付いた。
「そういえば名前は? ちなみに私はレイテット=ゲベルディッチ」
「アイーラ=スウィン」
「桜 美保です」
レイテットの質問ついでの自己紹介に続いてアイーラと美保も自己紹介をした。
彼は自己紹介で述べた名前をしっかりと聞き取ってから、質問に答えるように自らの名前を言った。
「ゼラニウム4」
「ちょっ、それ名前じゃないよね」
冷静に名前とは呼べない名前を述べたゼラニウム4に対して、苦笑いしながらレイテットはツッコみを入れた。
するとどうか、急に間が訪れる。
ゼラニウム4は思考していた。本当の名――三木林 雛という名を言うべきかを。男であるのにこの女らしい名前を名乗ればこの場にいる全員に笑われるのではないかと不安になっている側面もある。しかし本当の名を言っておけばなにかしらの信頼関係を築けるのではという側面もあった。
色々と思考して一分が経つ。これ以上黙っているとなにか疑われると思ったゼラニウム4は咄嗟に口を開いた。
「訳あって本名は言えない」
「訳か……それならしょうがないね。んー、じゃあゼラ君って呼んで良い?」
「あぁ、構わない」
この時、ゼラ――雛は内心ホッとしながら自身の名前を恨んでいた。その恨みが目に出ているのか、ギラギラとした眼光となって表に出ていた。
かなり目立つギラギラに三人は気付き、目が合わないように視線を逸らす。
視線を逸らしながら美保がゼラに対して質問を始めた。
「あの、ゼラ君って年齢はいくつ?」
「今年で二十歳だ」
その時、女性陣に衝撃の電撃が走った。
「え……?」
「え!?」
「えぇぇー!!!」
アイーラ、美保、レイテットと繋いで衝撃の言葉が出た。まさにその衝撃はアイーラとレイテットの口からタバコが落ちるほどだ。
一気に異様な様子になり、ゼラは無表情のまま首を傾げた。
女性陣はあわあわと言葉が出ない。不思議に思ったゼラは質問を返すように「お前たちは何歳だ?」と訊いた。
ゼラは一見してレイテットは十七歳、アイーラは十四歳、美保は二十代だろうと予想を立てた。
しかしその予想を裏切るようにレイテットとアイーラは答えた。
「二十四!」
「私も二十四歳、これでも美少女なのだ。ピースピース」
まさかの二十四歳でゼラの予想は外れた。二人の端麗で一層若く見える容姿からは予想出来ない年齢、外れて当然である。もはや年齢詐欺だ。
通りでタバコが吸える訳だ、と思いながらゼラは美保が質問に答えるのを待っていた。
「私の年齢は、内緒」
「美保さんは二十九歳だよ」
美保が自らの年齢を内緒と言ったそばから横にいたレイテットがすぐに美保の年齢をバラした。
頭に鬼の角が生えそうな勢いで美保はレイテットの背後に立ち、半端なく固く握られた拳で頭をグリグリと痛めつける。
「いだだだっ!」
口から鬼のような吐息を出している美保のグリグリの痛みは凄まじく、グリグリから解放された後でもレイテットはあまりの痛さに頭を押さえ続けた。
レイテットが痛そうにしているのを余所に美保は質問を続ける。
「はぁ、続けて質問するね。十代のころにやっていたこととかある?」
「ふむ……」
ゼラは腕を組み、自らの記憶を引っ張り出す。最近は『PODE』のことで頭がいっぱいであり、中々過去のことを思い出さないことから記憶を引っ張り出すのは簡単なことじゃなかった。
少し時間が経ち、ゼラは徐々に思い出し始めた。
「小学校ぐらいの頃にピアノをやっていた」
ゼラの質問の回答に軽い衝撃が走る。
「イメージ出来ない」や「そういう見た目してる?」など女性陣の間で声が上がった。
女性陣がなにを言っているのかよく聞こえないゼラは首を傾げ、そしてもう一つ思い出したことを言った。
「後は、十九歳の時にSASの訓練をやったことがある」
「SAS?」
レイテットが分からない様子で言い、首を傾げた。
そんな分からないレイテットに、ゼラは軽く説明を始めた。
「イギリスの特殊部隊のことだ。俺は親に言われて特別にSASで訓練をさせてもらっていた。しかし体力的な問題で半年もしない内に日本に帰されてしまったんだ、親から言われたやったとはいえ初めて心の底から悔しいと思ったよ」
「意外とそういう心はあるんだね。まぁ本気で悔しがる気持ちは大切だと思うよ!」
ニッコリ笑みを浮かべて年上のお姉さんらしくレイテットは言う。
ゼラの表情が緩み、口角が上がる。
「にひひ!」
「ふっ……」
レイテットの笑顔に心を許したゼラはガスマスクを外し、一瞬だけ珍しく笑みを見せた。
無口無表情から一転して笑顔を浮かべたゼラの顔は二十歳相応の爽やかな表情だった。アイーラはタバコのことなど頭から忘れ、ゼラの笑顔を見つめていた。美保もゼラの笑顔を見ており、興奮していた。
「今度は私から質問、ズバリ女と経験したことある?」
突然のアイーラのとんでもない質問でレイテットと美保は頬を赤く染め、ゼラの質問の答えがよく聞き取れるように耳を傾けた。
頬を赤く染めることもなく、元の無表情のままで「どういう経験かよく分からないが、性的な経験なのであれば俺は無経験。つまり童貞だ」と冷静沈着に答えた。
その答えに女性陣は、予想通りという様子になっていた。
「ち、ちなみに私はお前と違って経験しているからな!」
見栄を張って自慢するようにアイーラは嘘を言うもののゼラはなにも反応を示さず、真剣な様子で言う。
「そういう行為は女の方に負担が掛かる。お前が男食いに夢中になっているのでないのならば無闇に身体は消耗せず、大切にしておけ」
無経験だから悔しがるでもなく、淫らな話をしているから説教するでもなく、ただ気遣う言葉がゼラからアイーラに返ってきた。
妙に良心が痛み始めたアイーラは「て、さっきのは全部嘘! 嘘だからそこまで気遣わないで!」と嘘であることを述べた。
「そうか」
怒ることもせず、ゼラはそう一言だけ言った。
話している間に時間は十一時を過ぎる。美保は丁度腕時計が示す時間に気が付いた。
「もう夜も遅いし、そろそろ寝ましょうか」
「だね! 今日はもう疲れたし!」
「うんうん、もう寝たい気分」
美保に言ったことに乗っかるようにレイテットとアイーラは言った。そして三人の目線がゼラの方に向いた。
「誰と寝る?」
唐突にレイテットは言い出した。この家にあるベッドは三人分しかないのだ。よって、まともにベッドで寝るには誰かと一緒に寝るしかない。
かなり寝相の悪いレイテットか、ベッドの中で猫のように丸まっているアイーラか、母親のように抱擁してくれる美保か、ゼラに選択が迫られていた。
「ここで寝る。俺はここで十分だ」
ゼラは無表情のままで答えた。彼は様々な訓練やこれまでの環境を通して寝床以外で寝るのは慣れていたのだ。
「うーん、分かった! じゃあおやすみ!」
レイテットは割り切って一足先に自分の部屋に戻って行った。
残念そうにしてアイーラも自分の部屋に戻って行く。
「寒かったり、寂しくなったりしたら私のベッドにいつでも来ていいからね」
ゼラに優しく言い残していった美保も自分の部屋に戻って行く。
リビングに一人残されたゼラは電気を消して、イスに座った。そのまま彼は目を閉じた。
「…………」
彼は死んでいるかのような状態で眠りに入った。
夜は深くなり、全員眠りに入った。
()でルビ振れるの知らなかった( ; ゜Д゜)




