第五十六話 アイーラの過酷?な特訓4
時刻は午前十一時。
特訓の二回戦目は終わり、生存者たちは家からイスやテーブルなどを引っ張り出して休憩を取っていた。
「うぁー……キツイ」
全力疾走で疲れた身体をイスに深く座り込ませ、アイーラはなにも考えずに空を見上げながら休んでいた。そして喉が乾いてきたら冷たい水の入った水筒に口をつける。
水筒をゴクゴクと飲んで「あー」とだらしない声を出し、テーブルの上に置く。おやじ臭いと言われんばかりのだらしなさだが、アイーラがそれを気にする体力は残っていなかった。
「アイーラ、身体の具合は大丈夫か?」
立ったまま休憩を取っている雛はアイーラに訊く。
アイーラは疲れた顔だけを雛の方に向けて口を開いた。
「大丈夫だけど、もっと休んでいたいなぁ」
「そうか。後一回特訓やれば終わるから、それまでがんばれ」
「はーいよ」
雛の軽い励ましに、アイーラは適当に返事を返す。
そうして休憩の時間は過ぎて行く。
休憩を取ってから三十分が経った。
休憩の時間は終わり、生存者たちは鬼側と逃走側に分かれる。
「運動は得意だけど、いざ思い切り走ると胸が大きく揺れて痛いのよね。控えめな胸をしたレイテットちゃんが羨ましいわ」
いよいよ出番が来た美保はレイテットを羨ましく見つめて言う。
美保の羨ましそうな視線を浴びているレイテットは「あはは」と苦笑いするしかなかった。
「いやでも、私がどれだけ運動するのに向いている身体をしていても美保さんの方が凄いですよ。すっごく美人ですし、男の人の気を引けるじゃないですか!」
「ふふ、そう言われると悪い気はしないわね。まぁこの身体で釣れるのは身体目的の男ばっかりだったけど」
「しまった、地雷踏んじゃった!」
「気にしないで、その内雛君みたいなイケメンが釣れるはずだから。それじゃあアイーラちゃんと手合わせしてくるわね」
「はい、がんばってください!」
レイテットの応援を受けた美保は一歩前へ出て、距離が離れているアイーラと目を合わせる。
目を合わされたアイーラは緊張して、顔を下へ向けた。そうして自身を落ち着かせるために深呼吸をする。
「はぁ……ふぅ……!」
「アイーラちゃん、準備は良い?」
美保から声が聞こえてくる。
深呼吸で落ち着いてきたアイーラは「良いですよ!」と声を大きくして答えた。
「行くわよぉ!」
アイーラ対美保による特訓の三回戦目、今日最後の鬼ごっこが始まる。
「!」
美保が走り出す。それと同時にストップウォッチが押された。
特訓は始まったのである。
すかさずアイーラは美保が走り出した姿を見て、逃げ出す。
「レイテットや雛君じゃないから勝てるはず」
しかし現実は甘くない。美保がレイテットほどの体力を持っていなくても、美保が雛ほどの身体能力を持っていなくても、美保はアイーラより体力と身体能力が勝っている。
そう、アイーラが後ろを見れば美保は確実に迫って来ているのだ。このまま回避を入れない逃走をしているならすぐに捕まってしまうだろう。
「今度も回避を……!」
だからアイーラは捕まる瞬間で回避することを考える。そうしている間にも美保はアイーラに迫りつつある。
「そんな単純な逃げじゃ、すぐ捕まるわよ!」
アイーラのすぐ後ろに美保が迫り、手を伸ばして捕まえようとしてくる。
「単純じゃないから捕まらない」
前二つの特訓と同じくアイーラは手を伸ばしてくる瞬間を狙い、急な進路変更で回避する。
美保はアイーラの急な進路変更そのままアイーラを行き過ぎる。
回避は成功した。
「よし」
回避を成功させたアイーラは美保から離れ、一度振り返って様子を見つめる。
「後二十秒!」
レイテットが大きな声で残り時間を告げた。
アイーラの勝ちは徐々に近付いて来ている。
「このまま行けば勝てる」
回避し続ければ捕まらないかもしれない。しかし一番の問題はそこまでアイーラの体力が保てるかだ。
アイーラはそれを自覚していた。
「美保さんに日頃の仕返しをするためにも、勝つ」
高らかにアイーラは言うものの、美保は仕返しする理由がエッチなのも含めた日頃のからかいであることを分からない。美保の頭にはハテナマークが浮かんでいた。
「なんで仕返しされるかは分からないけど、とりあえず捕まえてあげるわよ」
美保は地を蹴って再び走り出す。それと同時にアイーラも走り出す。
追いかけ、逃げる。再びこの状態に入った両者。
身体能力の差と体力の差で、アイーラと美保の開いた距離は再び縮まっていく。
「今度こそ!」
「今度も!」
美保がアイーラを捕まえようと手を伸ばした。その瞬間、アイーラは急な進路変更で再び回避に成功する。が、美保はその回避を読んで再び手を伸ばす。
「捕まえた!」
「!?」
回避する先を読まれた結果、アイーラは捕まった。
「それじゃあ罰ゲーム、しましょうね」
アイーラの耳元で美保は囁く。その声は甘く優しい。とても気持ちを落ち着けられる声である。
そんな美保の声が届いてしまったアイーラ。レイテットに捕まった時のような暴れたい気持ちはなくなり、子供のように大人しくなった。
「激しいのはすぐ終わるから、それまで大人しくね」
「うん」
美保の唇がアイーラの首に触れ、そのまま優しく甘噛みする。
甘い香水の匂い。首に擦れる柔らかい唇。首から伝わってくる刺激。
アイーラはされるがままにされていた。
「ちゅぅ」
「んにゅ!」
甘噛みでは止まらず、首を吸い始める。
アイーラはたまらず声を出した。そして吸われる度にビクビクと身体が反応する。だらしなく口は開かれ、口も首も濡れて行く。
「美保さん、そろそろ……」
「そうね、ここで止めておくわ」
美保の唇がアイーラの首から離れ、アイーラの荒い息が美保の頬に伝わる。
「ふふ、可愛いわよ」
美保の浮かべた艶かしい笑みと共に最後の特訓は美保の勝利で終わった。




