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【完結】POD Enemy  作者: D-delta
エピソード2 劣等感を抱く小さき子

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第五十五話 アイーラの過酷?な特訓3

ACFFの非公式大会もあって更新が遅れておりますが、エタるつもりはありません。

これからもよろしくお願いします。

 時刻は午前十時。

 アイーラの体力のなさを考慮して、生存者たちは特訓の二回戦目が始まる前に休憩を取っていた。


「ふー、走った後のお水は美味しい!」

「ぷはっ、生き返るぜい」


 家から持ってきた水筒での水分補給。特訓の一回戦目アイーラとレイテットは声を出して、身体に水が染み渡るのを感じていた。


「次は雛君とだよね?」


 アイーラの質問に、雛は「そうだ」と軽い準備体操をしながら答えた。かなりのやる気である。

 そのやる気を感じ取ったアイーラは不安になって雛に告げる。


「て、手加減してね」

「無論手加減はする」

「良かった……」


 安心して勝ちを望める。その矢先、雛が「しかし本気で行かせてもらう」と確かな意思を告げた。


「勝てる、よね……?」


 雛の声は手加減の手の字もないように本気。手加減してくれるのか、本気で捕まえにくるのか、アイーラはまたもや不安になっていた。


 アイーラの不安を余所に、休憩してから十分が経つ。

 身体を休ませることが出来たアイーラは特訓の二回戦目に臨む。そうして逃走する側のアイーラは鬼側の雛から離れ、逃げる姿勢を取った。対して雛は追いかける姿勢になる。


「逃げ切る、逃げ切る」


 アイーラは自分の足を見て、唱えるように三十秒間逃げ切ることを呟く。そうしている内に雛から「アイーラ! 準備は良いか!」と告げられる。

 自らの頬をぺちぺちと叩き、逃げる意志を固めたアイーラは雛に「良いよ!」と声を大きくして答える。


「では、行くぞ!」


 雛の声を皮切りに、アイーラ対雛による特訓の二回戦目が始まる。

 始まった瞬間、二人は同時に走り出す。雛は全力で追いかけ、アイーラは全力で逃げる。しかし雛とアイーラでは体力と身体能力の差は歴然。雛の全力疾走はアイーラとの距離を縮めて行く。


「やっぱり追いつかれる!」


 走りながら後ろを向いたアイーラは確実に距離を縮められることを把握し、焦り始める。対して雛は冷静にアイーラを捉え、走り続ける。

 そして二人の距離は雛の腕が届くぐらいまで縮まる。


「回避!」


 アイーラはまともに逃げることから雛の手を回避する作戦に変更。そのまま急な進路変更をしようとした時だった。

 その時、雛が跳んだ。

 アイーラを軽く飛び越すほどの跳躍。これまでの戦いで身に付けてしまった人間とは思えない身体能力。


「うそーん!?」


 いきなり目の前に先回りしてきた雛に対して、アイーラは驚いて足を止めた。


「今のどうやったの?」

「試しに力いっぱいジャンプしたら出来た」

「マジで?」

「マジ」


 アイーラの上を跳んだ本人である雛でも、本当に出来るとは思っていなかったようで動きを止めていた。


「後二十秒だよ!」


 二人がお互いに動きを止めているところに、大きな声でレイテットから残り時間を告げられる。


「本気で行くぞ」

「ひぇっ!」


 雛に言われ、アイーラは再び逃げ出す。逃げるアイーラを雛は再び追いかけ始める。鬼ごっこの再開である。

 アイーラは逃げるため、雛は捕まえるため、二人とも全力疾走だ。身体能力の差で当然ながら二人の距離が離れることはなく、どんどん距離が縮んでいく。


「回避、その次も回避」


 ぶつぶつとアイーラは言う。そうして急な進路変更を実行、捕まえようとしてくる雛の手を回避する。

 だが、そこで簡単に逃がす雛ではない。

 雛は再び跳躍を繰り出し、アイーラの目の前に立つ。


「うわ!?」


 急に目の前に現れた雛を回避出来ず、アイーラは雛の胸に顔を勢い良くぶつけた。もちろん全力疾走からぶつかった衝撃は優しいものではなく、アイーラはそのまま尻もちをついた。

 尻もちをついた今、アイーラは隙だらけだ。捕まえるには今が好機。しかし雛はその好機を見過ごし、なにもせず立ち尽くしたまま訊く。


「大丈夫か?」

「イテテテ……大丈夫、お尻がちょっと痛いだけ」

「怪我がなくて良かった。特訓はまだ続いている、立つんだ」


 捕まえるには絶好の機会なのに捕まえない雛。アイーラは疑問に感じて、その疑問を口に出す。


「ねぇ、今捕まえるチャンスだよ?」

「このアクシデントで捕まえても俺のためにもアイーラのためにもならない。ほら、早く立つんだ」

「私のため?」

「あぁ、そうだ。それともここで捕まってメチャクチャにされたいか?」


 アイーラは首を横に振って「それはもう嫌」と答える。いくら怠け癖のあるアイーラでも特訓を怠けただけでメチャクチャにされるのはごめんのようである。

 これ以上首に甘噛みされたくないアイーラはすかさず立ち上がる。


「二人共、後五秒!」


 遠くからレイテットが残り時間を告げる。


「勝てる……!」


 やっと見えたアイーラにとっての勝利の兆し。アイーラは勝ちたいと言わんばかりに全力で走り出す。しかし全力で走り出したのはアイーラだけではない、雛も全力で走り出していた。

 二回戦目最後の追いかけっこ。


「三!」


 レイテットがストップウォッチを見て秒読みに入った。

 残り三秒。

 息を切らしながらもアイーラは全力で走る。気配で雛がすぐ後ろにいると分かっても諦めない。


「二!」


 残り二秒。


――勝つ!


 アイーラは意志を固めるように心の中で呟き、勝利を掴むために前だけを見て全力で走り続ける。


「一!」


 残り一秒。

 雛の圧倒的な気配が真横に来る。それでもアイーラは前だけを見て走り続ける。アイーラにとって後一秒で勝利を逃す訳にはいかないのだ。


「ゼロ!」


 レイテットが告げた瞬間、凄まじい速さで目の前に回り込んできた雛がアイーラを捕まえる。


「え……」


 勝利がこぼれ落ちる感覚。アイーラはたちまち動けなくなった。

 そして雛がなにかしゃべろうとする。勝利に喜んで煽る声を出すか、はたまた敗者を蔑む声を出すか。アイーラの劣等感が負の妄想を加速させる。


「よくやった、アイーラの勝ちだ」


 しかし雛の口から出たのは負の妄想とは真逆のもの、アイーラの勝利を称賛する声だった。


「でも私、捕まった……」

「なにを言っている。俺は制限時間がゼロになった後にアイーラを捕まえた。制限時間内に捕まえられなかった俺の負けだ」

「本当に私の勝ち? ぬか喜ばせさせようとしてない?」

「断じてそんなことはない。正真正銘アイーラの勝ちだ」


 雛が確信を持つように言う。

 確かに雛の言葉を聞き取ったアイーラ。その疑心暗鬼な顔から疑いが消えて行き、純粋に勝利を喜んだ。そして全身で勝利の喜びを表現するかのようにガッツポーズを取った。


「勝った……!」


 特訓の二回戦目はアイーラの勝利、雛の敗北で終わった。

 次に来るのは特訓の三回戦目。美保との鬼ごっこだ。


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